
現場的な相談から始まったヘリテージプロジェクト
2017年11月に発表された、日産のモータースポーツ部門「NISMO(現・日産モータースポーツ&カスタマイズ NISMO事業部)」と「日産自動車」が手がけるヘリテージ活動。その始まりは、意外にもごく現場的な相談からだった。
「きっかけは2015年頃。NISMO直営のプロショップ『NISMO大森ファクトリー』を訪れたスカイラインGT-R(R32型)オーナーの声でした。相談内容は、”ボンネット先端に装着するフードトップモールがすでに製造廃止となっており、純正部品が入手できない”というものでした」と語るのは、NISMOでヘリテージを担当する碓氷公樹氏。
大森ファクトリーではこれまで第2世代GT-Rのメンテナンスやリフレッシュ作業を数多く手がけていたが、純正部品の製造廃止が増え始めていた時期でもあった。
「純正品が欲しいのに、もう手に入らない」そんな声は、この頃から確実に増えていた。
碓氷氏は、このパーツの再生産を日産自動車アフターセールス部門へ相談。すると返ってきたのは、「ひとつの部品だけを復刻するのではなく、もっと大きな取り組みにできないか」という、より前向きな提案だった。製造廃止で困っているユーザーは、ほかにもいるはず。どうせやるなら体系的にやるべきではないか。この発想から動き始めたのが、後に「NISMOヘリテージ」と呼ばれるプロジェクトである。
正式にプロジェクトとして動き出したのは2016年。最初の対象となったのは第2世代GT-Rの長兄であり、もっとも年数が経過したR32だった。もちろん、その先にR33、R34を見据えていたのは言うまでもない。
「なぜ第2世代GT-Rだったのか?」その理由は明確だ。
NISMOにとってGT-Rはモータースポーツ活動の象徴的な存在であり、整備ノウハウも豊富に蓄積されている。直系の大森ファクトリーだけでなく、全国のNISMOパフォーマンスセンター、さらには街なかのGT-R専門店などを通じて、ユーザーの声やニーズを直接聞くことができる体制が整っていた。
ただ、NISMOが作りたいと言っても、部品の設計図面や製造元は基本的に純正部品体系のなかにある。ヘリテージ活動を進めるためには日産自動車の協力は不可欠だった。日産は部品供給の基盤を担い、サプライヤーとの調整や技術情報の管理を担当する。
NISMOはユーザーとの接点を担い、商品企画や販売ネットワークを請け負う。両者の役割を組み合わせることで、ヘリテージ部品供給の仕組みが構築されていった。
スタートから10年が経ち2026年は原点に立ち返る
さらに、NISMOと日産のアフターセールス部門にとどまらず、購買部門などさまざまな部署と連携を図りながら、まずはR32の部品供給状況の徹底的な洗い出し作業からスタートした。
「その作業で見えてきたのは、意外な結果でした。R32型GT-Rを構成する部品のうち、2016年時点で約7割がまだ供給継続されていたのです。いまある部品の継続生産をお取引先さま(サプライヤー)にお願いしつつ、製造廃止となっている残り3割とどう向き合うか、そこから検討を始めました」と日産グローバルアフターセールス部門の小倉康弘氏。
ただ、すべての部品を復刻するのは現実的ではない。まずは車両の維持に不可欠な部品から優先順位を付け、サプライヤーに再生産の可否を打診。そして再生産可能な部品をまとめて公表したのが、2017年のNISMOフェスティバルだった。
部品供給の方法は、純正部品の復刻だけでなくリプレイスパーツも用意される。これは「製造廃止になった純正部品を限りなく純正に近い状態でニスモが新規に製造するパーツ」のことだ。純正部品のような大規模生産ではなく、少量生産でもコストを抑えられるアフターパーツに近い製造方法としている。
「とはいえ、単に復刻するだけでなく、自動車メーカーとしてのクオリティを担保するために、日産/NISMO、お取引先さまによるフィッティング確認作業は徹底しています。なかには1週間1個しかできない部品もあります」とNISMOの高山陽三氏。
現在、ヘリテージ部品のラインアップは300アイテム以上にまで増えている。スタート当初は74アイテムだったことを考えれば、その数は大きく増えた。
プロジェクト開始から、まもなく10年。当初は”10年分の部品を作れれば十分ではないか”と考えていたそうだが、その10年が経ったいまでも需要は衰えていない。むしろ中古車市場でGT-Rの価値が高まるにつれ、長く乗り続けたいと考えるオーナーは確実に増えている。
「”GT-Rを末永く乗り続けたいオーナーを支えること”。そして、”そのために必要な部品を絶やさず供給すること”がNISMOヘリテージのミッションです。10年目を迎える今年は、その原点に立ち戻って事業を進めていこうと考えています」と日産グローバルアフターセールスの橋本翔太氏。
そして忘れてはならないのが多くのサプライヤーの存在だ。彼らの協力なくして、このプロジェクトは成立しない。
R32型GT-Rが誕生してから、まもなく40年。ヘリテージ事業を取り巻く環境は厳しさを増しつつあるが、GT-Rというクルマ、そしてブランドを未来へ残すための静かで長い挑戦は、これからも続いていく。
日産/NISMOブランドの元気復活は、ヘリテージから始まるかもしれない。
NISMOヘリテージパーツ
日産自動車とNISIMO、そしてサプライヤーの3者が連携し、製造廃止となった純正補修部品を復刻・再供給する取り組み「NISMOヘリテージパーツ」だ。2017年11月に活動を発表し、同年12月より部品の供給をスタートした。国産メーカーによるヘリテージ活動の先駆け的存在だ。
※本記事は雑誌CARトップの記事を再構成して掲載しております














コメント