シャープから初めてのハンディファン「プラズマクラスターハンディファン」(型番:PJ-HS01)が登場した。直販価格で9900円と高価だが、そのぶん静音性やバッテリー周りの安全対策など目新しい点も多い。製品を借りることができたので、開発担当者の話と合わせて紹介したい。

【その他の画像】

 製品を一見すると、一般的なハンディファンよりヘッド部分が後ろに長いことが分かる。これは2024年からシャープが販売しているサーキュレーターの構造を応用したため。奥行きのある筒状の風路を絞ることで風の勢いを高め、グリルは螺旋(らせん)状として風を直線的に送り出す。その分、少し“頭でっかち”なので、かばんなどから出し入れする際は、引っ掛けて落としたりしないように気をつける必要はある。

 中の羽根は、シャープお得意の生物模倣技術(ネイチャーテクノロジー)によるもの。ネイチャーテクノロジーは、自然の生き物が持つ仕組みや構造を参考にして家電製品に新しい効果を加えるアプローチ。同社はこれまでにもアホウドリの羽根を模して風量を上げた扇風機やラッコの手を参考に髪の絡まりがスムーズにほどけるヘアブラシなどユニークな製品を展開している。

 今回、参考にしたのは、暗闇の中を音もなく飛行し、獲物を狩るフクロウの羽根だ。ハンディファンの羽根にはフクロウと同様に膨らみがあり、効率良く風を捉える。さらに「セレーション」と呼ばれる微細な凹凸を付けることで、風切り音を抑えた。

 シャープの担当者は「ハンディファンは涼むために風の強さが求められます。また(公共の場で使う時には)音も問題。我々はサーキュレーターで風量と運転音のバランスが取れたものを出せていたので、全部応用しました」と話す。

 例えば電車内など近くに人がいる場所でハンディファンを使う時、風が広がると周囲に不快感を与える場合もあるだろう。風が真っ直ぐ進むサーキュレーターの仕組みは、ハンディファンにうってつけだった。

 動作音の音質にもこだわった。人がうるさいと感じる高音域を低減するように調整している。

 臭い対策でプラズマクラスターイオン発生器も組み込んだ。今回は空気清浄機やエアコンと違い、使用する空間の広さが決まっていないため「プラズマクラスター25000」(イオン濃度が1cm3当たり2万5000個)や「NEXT」(同5万個)といった表記はしていない。発生器は同社の美容家電に使っているものと共通だという。

●簡易計測で分かった実力

 その実力を探るため、スマホ用の騒音計測アプリを使って簡易計測を行った。PCの静音性チェックと同様に製品から50cmほど離れた場所にスマホを置き、風が直接当たらないようにして計測する。

 動作モードは、風量の「弱」「中」「強」に、ファンが動いたり止まったりする「リズム」モードを加えた4つ。電源ボタンを押すとトグル動作で切り替わる。

 計測してみると、風量「弱」の騒音は35.7dB前後だった。「図書館の中」や「静かな住宅地の昼」に例えられるレベルの静かさだ。音が低めということも手伝い、例えば仕事中の机に置いて動かしても全く気にならない。それでいて心地良い風が届く。これはいい。

 「中」では43.6dBと少し音が大きくなったものの、人前で目立つほどではない。「強」では53.5dBとなり、さすがに周囲にもハンディファンの音は届くものの、うるさいとまでは感じない。高音域を低減するように調整した成果が十分に出ている。

 駆動音については全体的にかなり優秀だと分かった。電車やオフィスに持ち込んでも周囲に「うるさい」と言われることはまずないだろう。

●暑さに耐える筐体

 2026年は6月こそ気温が低めだったが、どうやら7月中旬に夏本番を迎えたようだ。ここ数日、西日本を中心に最高気温が35℃を超える「猛暑日」が記録されている。

 そして暑さが本格化すると、リチウムイオンバッテリー関連の火災も増える。東京消防庁によると、25年のリチウムイオンバッテリー火災は7月の43件、10月の42件、8月の41件と、夏場に多かった。

 シャープのハンディファンは、そうした不安を払拭するため、最大60℃の環境でも動作するリチウムイオン電池を採用し、周囲を難燃材料を練り込んだ樹脂とアルミ素材で覆う構造とした。アルミニウム製の筐体は環境温度40℃まで対応する。

 ただしハンディファンの場合、事故の直接的な原因として挙げられるのは「暑さ」よりも海外製品に多い粗雑な作りや、落下などの衝撃。NITE(製品評価技術基盤機構)の資料でも、安全機構のないリチウムイオン電池が用いられていたケースや電池セルの不具合など、メーカーや輸入業者の品質管理が問われる事例が多いのが実情だ。

 シャープはここに目をつけた。落下による故障はともかく、リチウムイオンバッテリー火災の報道などで品質面に漠然とした不安を抱えている人が多い中、「われわれの安全基準は高いです」と訴求することでヒットにつなげる考えだ。主なターゲットは「これまでハンディファンを購入していなかった層」という。

 例えば電車の中で、周囲の人に「うるさいの使いやがって」と思われたくない人に向けて駆動音を静かにした。自分の汗の臭いやミドル脂臭が拡散することを気にする人のためにプラズマクラスターイオン発生器を搭載した。そしてリチウムイオンバッテリーの事故を気にする人のために強固な作りにした。

 ちょっと値は張るけれど、これまでハンディファンを使ってなかった人達の抱える漠然とした不安に向き合った。シャープのハンディファンは、そんな製品だ。

プラズマクラスターハンディファンの「フロストピンク」。サイズは77(幅)×54(奥行き)×183(高さ)mm。重量は約200g