
年金額は毎年度改定されますが、食料品や光熱費などの値上がりに十分追いつかず、家計の負担が増えたと感じる高齢者は少なくありません。現役時代に長く働き、一定の年金を受け取っていても、住居費や税・社会保険料、医療費などを差し引けば、食費に回せるお金が十分に残らないことがあります。高齢者が食事を減らして家計を守る状態は、健康面でも見過ごせません。
年金月19万円。それでも食費を切り詰める日々
孝雄さん(仮名・76歳)は、60歳の定年後も再雇用で65歳まで働いた元会社員です。現在は一人暮らしで、年金は月19万円ほどあります。
妻とは5年前に死別しました。夫婦で暮らしていた戸建ては、妻の療養中に増えた支出を補うため売却し、現在は家賃6万8,000円の賃貸住宅で暮らしています。
退職時には1,200万円ほどあった貯蓄も、妻の療養費や引っ越し代、家電の買い替えなどで減り、残っているのは約430万円です。
年金だけを見れば、極端に少ないとはいえません。しかし介護保険料や医療保険料、税金などが差し引かれると、手元に残るのは月16万円台。
そこから家賃を払い、電気・ガス・水道代、通信費、通院費を差し引きます。夏と冬は光熱費が増え、歯科治療や家電の故障が重なる月には、貯蓄を取り崩さなければなりません。
以前は朝にパンと卵、昼に麺類、夜に魚や肉を食べていました。ところが、スーパーへ行くたびに値段が上がっていると感じるようになります。
「卵も牛乳も高くなった。魚を買おうと思っても、値札を見て戻してしまうんです」
最初に減らしたのは外食でした。次に果物や総菜を控え、肉は値引き品だけを選ぶようになりました。
それでも月末になると残高が気になり、昼食を抜く日が増えました。朝は遅めにご飯を食べ、夕方にもう一度食べる。空腹になれば、茶や飴でしのぎます。
「動かないから、2食で十分だと思うことにしました」
近所に住む知人から「少し痩せたのでは」と言われても、孝雄さんは年齢のせいだと答えていました。
総務省『2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年平均』によると、総合指数は前年比3.2%上昇しました。物価上昇が続くなか、収入が年金中心の高齢者は、支出の調整を迫られやすくなります。
「定年まで働いた結果がこれですか」と漏らした理由
ある日、孝雄さんは買い物帰りにふらつき、マンションの入口でしゃがみ込みました。通りかかった管理人が声をかけ、休憩室で水分を取らせてくれました。
事情を聞いた管理人から地域包括支援センターへの相談を勧められ、後日、職員が自宅を訪ねました。
冷蔵庫に入っていたのは、納豆、豆腐、漬物、数個の卵だけでした。体重を尋ねられ、久しぶりに量ってみると、半年前より5キロ近く減っています。
「定年まで働いた結果がこれですか……。人に食べる物の心配をされるとは思いませんでした」
孝雄さんは、生活に困っていると認めることが恥ずかしかったといいます。
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果』では、65歳以上の単身無職世帯の月平均可処分所得は11万8,465円、消費支出は14万8,445円でした。平均でも支出が可処分所得を約3万円上回っています。
職員と一緒に家計を確認すると、使っていない有料放送や複数の保険契約が見つかりました。通信契約を見直し、保険についても保障内容を確認した結果、月1万円ほど固定費を減らせる見込みとなりました。
自治体が案内する配食サービスも週3回利用し、食費を単に削るのではなく、必要な栄養を確保する方法へ切り替えました。
厚生労働省の「高齢者の低栄養予防」では、1日1食や2食といった偏りを避け、1日3食を規則正しく取り、各食でたんぱく質を含む食品を摂取することが筋肉量の維持につながるとしています。令和5年「国民健康・栄養調査」では、65歳以上で低栄養傾向にある人の割合は男性12.2%、女性22.4%でした。
孝雄さんは今も、特売品を選び、無駄な買い物を避けています。ただし、昼食を抜くことはやめました。
「食べないことを節約だと思っていました。でも倒れて入院したら、もっとお金がかかりますね」
年金生活で支出を見直すことは必要です。しかし、最初に削るべきなのは食事とは限りません。固定費や利用できる支援を確認し、体を守るための支出を残すことも、限られた年金で暮らし続けるための大切な家計管理です。

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