
東京大学大学院とNTTデータ経営研究所に所属する研究者らが2021年に発表した論文「Paper Notebooks vs. Mobile Devices: Brain Activation Differences During Memory Retrieval」は、何に書くかが、後でどう思い出すかを左右することを脳活動から検証した研究報告だ。
実験には18~29歳の48人が参加。紙の手帳群、タブレット群、スマートフォン群の3群(各16人)に分かれ、複数人の会話文を読みながら、そこに含まれる予定をカレンダーに書き込んでいく。
手帳は見開き20.6(幅)×17.6(高さ)cm、タブレットは画面21.4(高さ)×16.1(幅)cmの端末を横向きに用い、大きさと配置をほぼ揃えた。入力も手帳は4色ペン、タブレットはスタイラスペンで、どちらも手書きである。
ただし、スマホは画面6.2(幅)×10.9(高さ)cmの縦向きで、入力はフリック入力または仮想キーボード。表示形式はいずれも月表示を用いたが、手帳とタブレットが該当月の中で個別に閲覧・編集する離散的な表示だったのに対し、スマホは連続的にスワイプすることで個々の週を表示・編集する形になった。
1時間後、間に芥川龍之介の短編「魔術」の朗読を聞く別課題をはさんでから、予定の内容を問う16問の選択問題をfMRI装置内で解かせた。
結果は次のようになった。まず行動データでは、書き留めに要した時間が紙の手帳群で有意に短かった。全16問の平均正答率と反応時間には3群で差がなかったが、比較的単純な設問(16問中5問)に限ると、紙の手帳群の正答率はタブレット群より有意に高かった。
次に脳を見ると、想起の最中はどの群でも共通の領域が働いており、新しい記憶の定着を担う両側の海馬、楔前部、言葉を扱う外側運動前野や下前頭回に加えて、視覚を司る領域でも活動を上昇させた。そしてこうした領域の活動は、紙の手帳群がタブレット群とスマホ群を合わせた場合よりも有意に高かった。このことから、紙の手帳を使うことで、デジタルを用いた場合よりも豊富で深い記憶情報を取得できることが示唆される。
なぜ紙が有利なのか。紙ではページの物理的な大きさも、書いた文字の位置も、いつ開いても変わらない。あの予定は右ページの下に書いたという空間の情報が、内容そのものと結びついて残る。
ところがデジタル画面では表示が可変で、書いた内容も同じ画面上で容易に消去・更新されてしまうため、手がかりが乏しい。紙の視覚的・触覚的な情報も含め、想起のときのとっかかりが多いことが、特定の脳領域の活動上昇につながったのだと研究者らは解釈している。

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