
ひき逃げも当て逃げも故意による重罪
ここ最近、子どもが巻き込まれる交通事故が立て続けに報じられている。故意ではなくても、接触して逃走したり、事故車内に置き去りにしたりと、耳を疑うケースが続いている。それに限らず、車線逸脱や逆走で他車に接触しながら、その場を立ち去るといった悪質な運転の様子もニュース番組などで日々目にする。
もちろん、以前からそうした行為自体は存在している。いわゆる「ひき逃げ」や「当て逃げ」だ。最近、発生件数が増加したり、内容が悪質化したりしている印象を受けるのは、ドライブレコーダーや防犯カメラの普及で表面化することが多くなっているからだろう。いずれにせよ、悪質な行為に変わりはない。
では、ひき逃げや当て逃げと判断される法律的根拠とは何か。交通トラブルに関する相談も多く受けているベリーベスト法律事務所の齊田貴士弁護士にうかがった。
「まず、道路交通法に基づく事故報告義務違反が発生します。軽微な物損事故などであっても、必ず警察に通報しなければなりません。次に、救護・危険防止義務違反です。事故現場の危険防止や、負傷者の救護をしなかった、ということになります。事故だけなら基本的には過失とみなされますが、違反行為は故意犯ですから重く処罰される傾向があります」
当然ながら、たんなる事故の場合より罰則は厳しい。「人身事故そのものは、自動車運転致死傷罪が成立し、7年以下の拘禁または100万円以下の罰金ですが、救護・危険防止義務違反には10年以下の拘禁または100万円以下の罰金が課されます。過失による物損事故の場合でも、道路交通法上の危険防止義務違反があれば1年以下の拘禁または10万円以下の罰になります。さらに、事故報告義務違反には、3カ月以下の拘禁または5万円以下の罰金が課されます」。
示談をこじらせるほど重くなる処罰
免許の点数についても、危険防止措置義務違反は5点、救護義務違反は35点が追加されるうえに欠格期間も発生する。しかも逃亡のデメリットは直接的な罰則や処分だけではないと、齊田弁護士は語る。「示談が成立しにくくなります。被害者感情として逃げた犯人を許そうとは思えませんよね」。
万が一でも加害者になった場合、示談は非常に重要となる要素だ。
「量刑の決定にはある程度、裁判官の裁量がありますが、これ以上の処罰を求めないという旨の示談書があれば、事故次第では不起訴になる可能性が増します。いっぽう、逃走すると示談しにくいだけでなく、行為態様が悪質であるとみなされて、量刑が減免されにくくもなりますし、そもそも道路交通法の違反行為は示談の有無に関係なく罰せられます。どんなに軽微であっても、事故が発生したらすぐに通報し、適切な処置を行うことが重要です」
ちなみに、文中の「拘禁」という言葉は、2025年6月から、これまでの懲役と禁錮に分かれていた刑罰を一本化したもの。従来よりも更生に重きを置くとされるが、刑務所に収監されることに変わりはない。そんなことにならないよう、万が一事故の加害者になってしまった場合には万全の対処を心がけたい。
ドラレコ・防犯カメラ……録画が動かぬ証拠
それでも、ひき逃げや当て逃げが後を絶たないのはなぜか。もちろん、まさかの事故に気が動転して思わず逃げてしまった、という場合も多いのだろうが、いわゆる”逃げ得”を見込んだ姑息な行為もありそうだ。これは、事故そのものの処罰から逃げ切るだけでなく、罪を重くする飲酒などの発覚を逃れようという場合もあるだろう。
しかし、齊田弁護士によれば、交通事故において逃げ得などということははまずありえないという。
「たまに、事故現場に目撃者を募る看板が出ていることもありますが、防犯カメラの数がこれだけ多くなり、Nシステムやドライブレコーダーも普及していますから、誰にも知られずに逃げ切ることは不可能と言っていいでしょうね。飲酒についても、携帯電話のGPSデータをたどれば足取りは追えますから、本気で警察が捜査をすれば、必ずわかってしまいますよ」
しかもそういった行為は、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪として、たんなる飲酒/薬物摂取運転より重く処罰される。逃げて事態が好転することは絶対にない。逃げれば逃げるほど、立場は悪くなる。それだけは、肝に銘じておきたい。
もちろん、自分がそうした悪質なひき逃げを犯してしまうことなどない、と思っている人が世の中の大半だろう。しかし、思いもよらないカタチで、ある日突然ひき逃げ犯になってしまう、ということもない話とは言い切れない。
本気にするとヤバい被害者の「大丈夫」
あり得る話として、もっとも可能性が高いのが、歩行者や二輪車などとの事故の際に、相手が「大丈夫」と言ったので現場を立ち去った、というケースだ。事故という認識もない程度の接触だったからと、その場限りで解決したと思っても、あとになって相手が事故として通報していたとすれば、後日警察に身柄を拘束されてしまいかねないのだ。
ひき逃げ、という語感は重大事故を想像させるが、軽い接触で、被害者に怪我がなかったとしても、ひき逃げは成立する。齊田弁護士によれば、こういうことは少なくないのだとか。「私たちが受ける相談も、そういうケースが多いんですよ。とはいえ、被害者が大丈夫と言っても、通報する義務はありますから、そこは必ず守らないといけませんよね。事故かどうかを、自分で判断するのは間違いのもとです」
さらに、思いもよらない事態に発展することもある。事故が発生した際に、道幅や交通量などを考慮。現場に留まるのは危険だと判断して多少離れた場所へ移動したら、警察に逃亡の意思があったとみなされた、という信じ難いケースだ。
「その場に停車するのが適当ではないと考えて、安全と思われる場所に数百メートル程度動いただけでも、ひき逃げや当て逃げだと警察は認定しうるので、路肩に寄せるなどすることで安全確保に努め、可能な限り現場から離れないことが大事です。理不尽なようですが、安全確保のためなのか、逃亡しようとしたのか、そのときに考えたことは目に見えず、証明できませんから、移動したという客観的な事実だけで判断されてしまうんですよ」
結局、交通事故を起こしてしまったら、どんな些細なことでも、自分の基準を根拠に勝手に判断するのはタブーだと思っておいたほうがいい。
どんなに軽微な事故でも必ず警察に通報すべし!
ひき逃げほど深刻ではないと思われがちで、知らず知らずに犯してしまいそうな事案が当て逃げだ。もちろん、クルマや、衝突した建物などが大きく破損するような事故で逃走はしないとしても、駐車場で隣のクルマにドアをぶつけてしまったくらいでは、あまり警察へ通報しようとしないのではないだろうか。
たとえば、ショッピングモールなどの駐車場で隣のクルマにドアを当ててしまった場合、相手の所在がわからないので、連絡先のメモを残しておいたりはしないだろうか。筆者の場合、それを見て相手に連絡を取り、当事者間で穏便に解決した経験がある。しかし、いくら連絡先を残したところで、被害者が警察へ通報すれば、当て逃げが成立してしまう。
「報告義務を怠った、ということにはなりますし、のちのち話がこじれる可能性もあります。リスクを冒さないという観点からも、当ててしまった自覚があるなら必ず自分で通報してください」
いわゆる自損事故で、電柱やガードレールに接触したなどという場合も、通報することはないかもしれない。しかし、もしも管理者がなんらかの理由で損傷に気づき、警察の捜査対象になれば、弁償だけではなく、当て逃げについての刑事責任も問われることになる。山道などで、「こすってしまったけど、傷だらけのガードレールだから大丈夫」などとタカをくくっていると、痛い目を見ることになりかねない。
逆に言えば、被害者になった際も、通報すれば泣き寝入りになる確率は低くなる。繰り返しになるが、どんな小さな事故でもまず通報。これが基本中の基本だ。
頼るべきは法のプロフェッショナルの弁護士
万が一にも、魔が差してひき逃げや、あて逃げを犯してしまった最悪のケースを考えてみよう。弁護士に相談することで、事態は改善できるのだろうか。
「自首しようとした場合、本人だけでは警察の受け入れ体制が整っていないとして、門前払いされることもありますが、弁護士が同行することで、その後の取り調べについても、不当に長時間行われることが牽制できますし、逃亡のおそれが少ないと判断されるので、逮捕される可能性を下げることも考えられます」と齊田弁護士。
「とはいえ、逃げたばかりに免許を失うだけでなく前科もついてしまえば、その後の人生において足カセになってしまうことも多いです。たとえば次に交通違反を犯した場合に罪が重くなりますし、最近は少なくなっていますが就職に支障をきたすこともあり得ます。逃げ得などと安易に考えず、適切な対応こそ、ご自身の人生におけるマイナスを減らすことになるのだと考えていただきたいですね」
また齊田弁護士は、ひき逃げに限らず加害者になってしまった場合、まず弁護士事務所に電話相談することも提案する。法律の専門家にアドバイスをもらえば、事故後の対応を適切に行えるからだ。それを踏まえ、状況に応じて依頼するか決めることもできる。
むろん、事故を起こさないよう注意して運転するのが大前提だが、万が一にも加害者になってしまったときには、とにかく法律に定められたとおりに行動することが、結局は我が身を助けることになる。決して逃げ得も、正直者がバカを見ることもないのだ。
※本記事は雑誌「CARトップ2025年8月号」の記事を再構成して掲載しています












































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