
高齢の親を心配し、子どもが生活費を援助している家庭もあります。しかし、十分な金額を仕送りしているつもりでも、そのお金が何に使われているかまでは分からないものです。離れて暮らしていると、電話では気づかなかった買い物の変化が、久しぶりの帰省で初めて見えてくることもあります。
「ちゃんと食べてるよ」半年ぶりの実家で感じた違和感
「母さん、ちゃんと食べてる?」
長男の義史さん(仮名・53歳)が電話で尋ねると、母の節子さん(仮名・78歳)はいつも、
「食べてるよ。心配しなくて大丈夫」
と答えていました。
節子さんは夫を6年前に亡くしてから一人暮らし。年金は月約10万円で、住宅ローンを完済した戸建てに住んでいます。
夫が亡くなった後、義史さんは母の年金額を知り、毎月10万円を仕送りするようになりました。会社を経営している義史さんにとって、無理なく続けられる金額でした。
年金と合わせれば月20万円ほどになります。固定資産税や住宅の修繕などは別途必要になるものの、義史さんは「日々の生活には困っていないだろう」と考えていました。
ところが、半年ぶりに実家へ泊まりに行ったときのことです。
夕食に出てきたのは、ご飯と味噌汁、冷ややっこ、それに漬物だけでした。翌朝も食パンとインスタントコーヒーだけだったため、義史さんは気になって冷蔵庫を開けました。
中にあったのは卵と豆腐、納豆、半分ほど残ったキャベツなど。肉や魚、果物はほとんどありません。
「普段もこんな感じなの?」
「一人だから、そんなにいらないのよ」
「でも毎月10万円送ってるだろ。食費をそんなに削らなくてもいいじゃん」
節子さんは「ちゃんと使ってるよ」と答えました。
その日の午後、義史さんは別の異変に気づきます。廊下の隅に、宅配便の段ボールがいくつも積まれていたのです。さらに押し入れを開けると、未開封の商品が次々と出てきました。
マッサージ器、電気調理器、膝を支えるサポーター、健康食品、サプリメント、寝具――。
「これ、全部買ったの?」
「そうよ。体にいいものばかりだから」
健康食品は同じような商品が何箱もあり、調理器具の中には箱から出していないものもありました。節子さんは、テレビ通販や新聞広告、インターネット通販などを利用し、月に数万円、多い月には10万円近く買い物をしていたのです。
「俺が送ってるお金、これに使ってたの?」
義史さんが尋ねると、節子さんは悪びれる様子もなく、
「必要なものを買ってるだけよ」
と答えました。
「体にいいと思って」増え続けていた母の買い物
節子さんにとって、それらは無駄遣いではありませんでした。
「これは膝にいいって言ってたでしょう。こっちは血圧が気になる人にいいって。お父さんがいなくなってから、自分の体は自分で守らないといけないと思って」
一人暮らしになってから、節子さんは自宅でテレビを見る時間が増えていました。
通販番組で健康器具や調理家電が紹介されると、「これなら今より楽に暮らせるかもしれない」と思います。健康食品の広告を見れば、「病気になって息子に迷惑をかけるよりいい」と考えて注文していました。
ですが一度使っただけの商品や、途中で飲まなくなった健康食品も少なくありません。
さらに義史さんが通帳やクレジットカードの明細を一緒に確認すると、同じ会社から毎月引き落とされている商品も見つかりました。
「これ、毎月買ってるの?」
「最初に一回頼んだだけだと思うけど……」
節子さん自身、どの商品を一度だけ注文し、どの商品を継続して購入しているのか、把握できていませんでした。
国民生活センター『2024年度 65歳以上の消費生活相談の状況』によると、契約当事者が65歳以上の相談は30万4,130件で、相談全体の38.6%を占めました。商品・サービス別では「化粧品」「健康食品」「医薬品類」など定期購入に関する相談が上位に入っています。
また、消費者庁『令和5年版消費者白書』でも、高齢者の通信販売における「定期購入」の相談が増加しており、2022年には化粧品や健康食品を中心に前年の約2倍となったことが示されています。
もちろん、節子さんが購入したものすべてが消費者トラブルだったわけではありません。本人が納得して購入し、実際に使っているものもあります。
義史さんが問題だと感じたのは、買ったものを使い切らないまま次の商品を注文し、その一方で日々の食事を切り詰めていたことでした。
「健康のためって言いながら、魚も肉もほとんど食べてないじゃないか」
そう言われ、節子さんも初めて冷蔵庫と廊下の段ボールを見比べたといいます。
その後、親子で定期購入になっていた商品を一つずつ確認し、不要なものは解約しました。新しい商品を購入するときも、その場ですぐ注文せず、一度メモして翌日まで考えることにしました。
義史さんは仕送りをやめませんでした。ただし帰省したときには、冷蔵庫や家の様子も注意深く見るようになりました。
「電話では普通に話していたし、お金も送っていた。それでちゃんと暮らせていると思い込んでいたんです」
高齢になると、健康への不安や日常生活の不便さから、健康食品や便利な商品に関心が向くこともあります。ひとつひとつの購入額はそれほど大きくなくても、定期購入や似た商品の買い足しが重なれば、毎月の支出は膨らんでいきます。
離れて暮らす家族にとっては、仕送りをしていることが安心材料になり、実際のお金の使い方までは見えにくいものです。収入や預貯金の額だけでなく、日々の食事や買い物、継続して支払っている契約などを確認することで、本人も気づいていなかった生活の変化が見えてくることがあります。

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