
中国が国家の威信をかけて推し進める「自前主義」の産業政策が、いまや自らの首を絞める致命的なトラップと化している。電気自動車(EV)で露呈した補助金漬けによる過剰生産と共食いの悪夢が、次世代の命運を握る人工知能(AI)や人型(ヒューマノイド)ロボット市場でも寸分違わず再現されつつあるからだ。世界から孤立した「フルセット型」の自給自足モデルは、最先端半導体の調達難と政府の不当な市場介入によって急速にガタが来ている。官主導で巨大なハリボテを築き上げる中国ハイテク産業の底浅い実態と、崩壊へのカウントダウンを追った。
日本の戦後復興を支えた通商産業省(現・経済産業省)の産業政策は、官民の密接な情報共有と市場環境の整備に主眼が置かれていた。主役はあくまで民間企業であり、政府は裏方に徹して切磋琢磨を促したのである。これに対し、中国は表面的な「補助金のばらまき」という形だけを真似て取り入れた。政府が市場よりも賢いという過信のもと、5カ年計画によって重点産業を上から一方的に指定し、勝利する企業までもお上の都合で選別するいびつな構造を作り上げたのである。
この独善的なモデルが破綻をきたした象徴がEV業界だ。ガソリン車で日米欧の技術力に及ばないと悟った中国は、EVへのシフトを急速に強めた。地方政府を巻き込んだ莫大な補助金と国営銀行の融資を背景に、無数の企業が殺到。だがその結末は、急速な過剰設備の蓄積と血で血を洗う過酷な価格破壊だった。業界トップのBYDですら国内販売が著しく鈍化し、利益率は急速に悪化。市場メカニズムを無視して税金を投入し続けた結果、共食いによって業界全体が窒息しかかっている。
そしていま、中国政府が次の柱と仰ぐAIや人型ロボットの領域で、まったく同じ過ちが繰り返されている。中国国内では無数のAI企業が立ち上がり、巨額の資金が注ぎ込まれているが、その足元は極めて危うい。最先端のAI開発に不可欠なGPUなどの高性能半導体は、米国の輸出規制も手伝って自前で調達することができない。自国で製造できない壁に突き当たりながら、利用料金の大幅な値上げでその場をしのぐなど、すでに行詰まりの兆候は見え始めている。
ロボット産業の実情も惨めなものだ。世間の目を引くパフォーマンスとして、キレのあるダンスを踊ったり、格闘技やサッカーをこなしたりする人型ロボットがメディアを賑わせている。しかし、現実の社会で本当に求められているのは、介護や家事代行、工場での精密作業、物流倉庫での仕分け、建設現場といった実用的なタスクだ。中国のロボット開発はこうした社会実装の分野で大きな遅れをとっており、見栄えばかりを優先する見掛け倒しの域を出ていない。
年間1万台以上が製造されているとされる人型ロボットも、実際に購入しているのは国内の法人か、海外の研究機関くらいである。海外の大学などが買い求める目的も、実用するためではなく、中国の技術水準を調査するためのリバースエンジニアリング(解体分析)に過ぎない。最先端の半導体を自前で供給できない以上、現場の用に耐えうるロボットの量産など絵に描いた餅に過ぎないのだ。
中国が陥っているこの愚行の根底には、毛沢東時代の「自力更生」に端を発し、現代まで引き継がれる「自立自強」のドグマがある。中国共産党は川上から川下まで、あらゆる部品や素材、製品を自国のみで完璧に揃える「フルセット型」の産業構造に異常なこだわりを見せる。たしかに地政学的リスクが極限まで高まった局面においては、他国に依存しない自給自足モデルが一時的に強みを発揮することもある。巨大な国内市場を背景に、自国だけで完結させられるからだ。
しかし、技術革新のスピードが極めて早い現代のグローバル経済において、この閉鎖的な「自前主義」は自滅を意味する。近代経済学の基礎である比較優位の原則に従えば、各分野で強みを持つ国々が対等なルールのもとで連携し、技術を共有しながら国際分業を進めるスタイルこそが圧倒的な強みを発揮する。国際的な連携から自らを排斥し、すべてを単独で抱え込もうとする中国の試みは、産業の「ガラパゴス化」を加速させるだけに過ぎない。
かつて世界市場を席巻した太陽光パネル産業は、いまや深刻な構造不況に陥り、完全に崩壊した。EV産業もピークを過ぎてガタガタと崩れ始めており、今後さらに深刻なクラッシュが予想されている。勢いがあるように見えるAIやロボット市場も、実態が追いついていない虚像に過ぎず、今後3年から5年以内に市場の厳しい淘汰によって勝負が決するだろう。
中国という国には、本来豊富な人材と巨大な市場という優れたポテンシャルが備わっている。しかし、政府が「自前主義」のイデオロギーに固執し、不必要な市場介入を繰り返すことによって、民間企業が持てる力を自ら摘み取っている。国家の財政予算や国営銀行の資金を注ぎ込んで急速に巨大化させたハイテク産業は、実態の伴わないハリボテに過ぎない。お上が市場の支配者を気取り続ける限り、中国ハイテク産業の衰退という歴史の法則を回避することは不可能である。

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