
◆「離檀料は1000万円」に絶句
柳沢隆一さん(仮名・54歳)が、北関東にある代々の墓を畳もうと決めたのは去年のこと。母は数年前に亡くなり、父も施設で大往生。空き家になった実家を売ることになり、残るは墓だけだった。
「父の葬式はうちの近くで家族葬に。戒名も葬儀社が紹介してくれたお坊さんに10万円ほどで付けてもらいました」
しかし寺に電話をかけ、墓じまいを切り出すと事態は急変した。
「『なぜお父様の死をすぐに知らせなかった』と言われて。逆に、そんな必要があるのか分からず『あなたに関係ないでしょう』と言ってしまったんです。そしたら、『お宅は代々の大檀家で、祖父の代までは本堂を直すたびにまとまった額を出してきた。今回の改修でも、他の檀家さんは皆包んでいるのにお宅だけ何もない。護持会費も何年も止まっている。離檀料は1000万円です』と叩きつけるように言われました」
柳沢さんは、すぐに弁護士に相談した。
「書面もないし、払う義務はないと弁護士には言われました。でも、地元の寺や近所と揉めるのも嫌で、結局、墓じまいは諦めました。そもそも父は施設に入っていて、修繕の寄付を募る手紙が誰もいない実家に届いていたことも後から知りました。そんな事情があるなら、もっと早く一言伝えてほしかったです」
◆遺骨を人質に追加請求。祟りを盾に150万円!
父の遺骨が“人質”になったケースもある。関口佳世さん(仮名・49歳)はこう語る。
「参る人のいなくなった墓を畳もうと寺を訪ねると、住職は墓じまいの相談より先に父の戒名の話を始めました。戒名には格があって、末尾が『信士』なら標準的で、その上は『居士』、頭に『院』が付くと最上位。『お父さんは信士で、このままでは他のご先祖様が納得しない。院号を付けないと祟られる』と。お布施は150万円だと言われました」
断ると態度が一変。改葬には納骨時に寺に提出した埋葬許可書か、納骨の事実を証明できる書類が必要だが、それを「出せない」と言うのだ。
「書類がなければ遺骨は動かせない。でも、移す先の樹木葬にはもうカネを払っていて、途方に暮れています。それに、祟られるという言葉が頭から離れないんです。馬鹿らしいと思いつつも、お父さんが浮かばれないんじゃないかとよぎってしまって……」
二つのケースは、寺側からはどう見えるのか。群馬県前橋市の真言宗豊山派・天明寺の住職、鈴木辨望氏は柳沢さんのケースには「事情がある」と話す。
「離檀料は決まった料金があるわけではありません。多いのは、それまで溜まっていたものが一度に出てくるケース。未納の護持会費や、やってこなかった法事、檀家なのに別のお寺で出した葬式。それを全部足した数字が請求として出るわけです。墓石の撤去費用にも100万円近くかかりますから。大檀家だとその額も莫大になり、1000万という数字もあり得なくはない」
もっとも、離檀料に法的な支払い義務は原則ない。辨望氏も「最終的には住職との人間関係の問題」という。
◆「その人は坊さんではない」現役住職が“祟り”を一喝
一方、関口さんのケースに辨望氏は容赦がなかった。
「もし本当に『祟られる』と言っているのなら、その人は坊さんではない。戒名は、生前の仕事や人柄、社会的な貢献度によってお寺側が授与するもの。脅してより上位の戒名のお布施を納めろとは根本から間違っています」
では、書類を出さない住職は、何を考えているのか。
「明確に『やめてもらいたくない』という意図からでしょう。どんなお寺も離檀してほしくないので多少は引き留めます。しかし、無論強制はできません。あと、事務処理が苦手で、そもそも書類の作り方がわからないなんて人も案外います」
カネの面から見るとどうか。ファイナンシャルプランナーの鳥海翔氏は、二つのケースをまとめて“言い値の商売”だと切り捨てる。
「金額の根拠が曖昧な言い値の世界。お寺側もビジネスなんだとしっかり肝に銘じておく必要があります。保険もそうですが、なんとなく公的なものや慈善事業のようなものに人は騙されやすい。口頭で『言った、言わない』にせず、見積もりは書面でもらうこと。少しでも変だと思えば録音が効果的です。それを手に国民生活センターなどに相談するのも一つの方法です」
また、鳥海氏がとくに懸念するのが「親族間での揉め事」だ。
「親族の中には、墓じまいを進めたい人と、放っておけばいいという人が必ずいます。すると『どうしてもと言うなら、あなたの負担でやってください』となる。結局、言い出しっぺが損をしがちなんです。今後、墓じまいは相続と同じくらい慎重に考え、事前に親族間で話し合っておく重要なテーマになってくるはずです。私なら、かける予算は資産の1割までをひとつの目安にすることを勧めます」
ただ、そこまでこじれる前に打つ手はある。辨望氏は自身も寺の住職でありながら、揉めないための “檀家のやめ方”もレクチャーしているという。
「低姿勢で丁寧に『自宅も遠くて、お参りにも来られないので撤去したい』と言えば、それだけで『それはしょうがない』となります。何を当たり前のことをと思うかもしれませんが、坊主憎しなのか、離檀の際に高圧的な人が一定程度いるのも事実。離檀料のトラブルは、こうした些細ないざこざから生まれることがほとんどなのです。悪徳住職はもってのほかですが、墓を畳んで永代供養や樹木葬に移すにしても、どこかでお寺とのかかわりは残るもの。お寺も慈善事業ではなく、維持運営に費用がかかる組織であることは、もう少しご理解いただけるとありがたいですね」
墓じまいは、墓石を撤去すれば終わりではない。寺や親族との関係まで含め、早めの準備が必要なのだ。
取材・文/SPA!墓じまいトラブル特捜班

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