自立し、順調にキャリアを重ねていた女性。そこに届いた高齢の親からの突然の連絡をきっかけに、思いもよらない事態に巻き込まれる――母の衝撃的な告白に直面した女性の事例から、高齢親が抱える生活リスクについてみていきます。

上京してきた母、まさかの告白

「来週、そっち行くわ」

都内のIT関連企業に勤めている木田美咲さん(42歳・仮名)。スマートフォンに、母からLINEが届きました。月収は約45万円。手取りは35万円強。大学進学で上京し、そのまま就職。順調にキャリアを積み重ねてきました。

家賃は11万8,000円。食費と光熱費、通信費などを合わせると、毎月の生活費は約23万円。仕事を優先するなか、今後も1人で生きていくだろう――ある程度、覚悟を決め、将来困らないように以前から計画的に貯蓄をしているといいます。

総務省『家計調査 家計収支編(2025年)』によると、美咲さんと同世代である35~59歳の単身女性(勤労者世帯)の1ヵ月平均の実収入は371,366円、手取りとなる可処分所得は293,395円、消費支出は195,810円。

美咲さんの月収約45万円(手取り35万円強)や生活費約23万円という家計状況は平均を上回るものの、毎月手元には約12万円もの黒字が生じる計算です。美咲さんが自律的かつ堅実な生活基盤を築き上げていることがうかがえます。

一方、母・久美子さん(65歳・仮名)は、東北の地方都市で夫と2人暮らし。そのため、美咲さんは最初、久しぶりに東京へ遊びに来るのだと思いました。

「いいよ。何日くらいいるの?」

そう返信すると、特にそれに対する返事はなかったといいます。答えがないことに対して特に何も思わず、当日を迎えます。

最寄り駅まで迎えに行った美咲さん。そこには大きなスーツケースを持った久美子さん、ひとり。

「あれ、お父さんは?」

そう問いかけると、想像もしなかった返事が返ってきます。

「私たち、3ヵ月前に別れたの」

一瞬、何を言っているか分からなかったという美咲さん。

「別れたって、離婚したということ?」

「それ以外に何かある?」

母の告白に、頭の中は真っ白になったといいます。

熟年離婚の母、当然と考える「娘との同居」

とりあえず、久美子さんを自宅に招き入れた美咲さん。原因は以前から続いていた夫婦関係の悪化です。夫は定年後も再雇用で働いていましたが、生活費をめぐる口論が増えていたといいます。

「性格の不一致。昔から。あなたが防波堤になってくれていたけど、もうダメ。この先、一生添い遂げるのは無理って言ったら、むこうも『お前と同じ墓には入りたくない』って言うし」

離婚時、自宅は売却しました。売却代金を分け、諸費用を差し引くと、久美子さんの手元に残ったのは約850万円。

「これだけあれば、しばらく1人でやっていけると思った」と久美子さん。その後、家賃6万5,000円の賃貸住宅を借りました。

しかし、生活費は想像以上にかかりました。家賃に加え、食費が4万円前後。光熱費や通信費、保険料などを合わせると、毎月の支出は約15万円になります。それに対して、年金は月9万円。毎月6万円ほど足が出ます。

「貯金を取り崩していたら、10年程度しかもたないと思って。だから、美咲のところに住めばいいと思って、アパートは引き払ってきた」

美咲さんは、その言葉に絶句しました。

美咲さんの部屋は1LDKです。寝室とリビングしかありません。母が来れば、生活空間を共有することになります。

「お母さん、うちは2人で住むような部屋じゃないよ」

「じゃあ、私はどうすればいいの?」

美咲さんはすぐに答えられませんでした。

すると久美子さんは続けました。

「あなた、月に40万円ももらっているんでしょう。私が来たって、そんなに困らないじゃない」

美咲さんは、その言い方に腹が立ちました。

「困るよ。私にも生活があるから」

「親が困っているのに、そういう言い方ある?」

「そっちこそ、そういう言い方はやめてよ」

口論になったものの、親を路頭に迷わせるわけにはいきません。仕方なく、同居を受け入れました。それと同時に、美咲さんは母に東京で仕事を見つけることを要求。また、仕事で忙しい美咲さんに代わって、2人で暮らせる引っ越し先を探すように求めたといいます。

「母との生活も心配ですが、父も心配です。家事をしているイメージがない人なので……」

美咲さんがお互い1人になった高齢の両親を案じるのは、決して過剰な心配ではありません。

内閣府『令和7年 人々のつながりに関する基礎調査』によると、孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた割合は、有配偶の2.4%に対し、離別者では9.1%に上ります。

また、頼れる人も相談相手もいない「孤立状態の可能性が高い者」の割合は、離別者で15.1%、単身者で13.1%に達しています。

さらに警察庁によると、令和7年中に自宅で亡くなった単身者は全国で7万6,941人に上り、その約76.6%に当たる5万8,919人が65歳以上の高齢者。特に家事に不慣れな高齢男性が離婚などを機に突如孤立するケースは、生活習慣の乱れや孤独死のリスクを急速に高めます。

熟年離婚による高齢者の単身化や生活困窮、孤立は、その子どもにとっても大きな問題。美咲さんの苦労はしばらく続きそうです。

※写真はイメージです/PIXTA