
2019年に始まった働き方改革。残業には厳しい上限が設けられたほか、コロナ禍を経てテレワークや時短勤務といった柔軟な働き方も広がりました。「残業が減った」「仕事の負担が減った」といった声が聞こえる一方で、そのしわ寄せを受けているのが中間管理職です。本記事では、吉田直実氏の著書『中間管理職の生存戦略 自分の「思い込み」に気づき最適解を見つける本』(ごきげんビジネス出版)より、働き方改革の陰で管理職の負担が増える原因と、その状況を抜け出すためのヒントをみていきましょう。
働き方改革が進む一方で、増える管理職の負担
残業規制や有休取得の促進、テレワークなど、働き方改革の制度は整いつつあります。表向きには「残業が減った」「早く帰れるようになった」という声も上がります。その裏側で、勤怠管理やコンプライアンス対応、ハラスメントの相談窓口など、「人と制度」に関する仕事が管理職に集中しがちです。
しかし、求められる売り上げや生産性の目標はほとんど変わらない。人員も増えない。そのギャップを埋めるために、「最後は自分がやるしかない」と、休日や早朝に帳尻を合わせている管理職も少なくありません。
部下には無理をさせたくない、上からの期待も裏切れない、自分だけが「できません」と言うのも気が引ける。そうしているうちに、「働き方改革なのに、自分だけ働き方が悪化している」という皮肉な状況に陥ります。これは単に忙しい・忙しくないの話ではなく、制度の設計、仕事の分け方、そして管理職自身の「役割の捉え方」が絡み合った、簡単には解きほぐせない問題ではないでしょうか。さあ、あなたなら、どうする!?
管理職も働き方改革…考え得る5つの選択肢
1.業務の棚卸しと「やめる仕事」を決める(業務削減型)
メリット:やるべき仕事とやめる仕事が明確になり、物理的な負担が確実に減る。
デメリット:最初の棚卸しと調整に時間とエネルギーが必要となる。
注意点:自分だけで決めず、上司・チーム・関係部署と合意形成しながら進める。
2.チーム全員で役割と時間の使い方を見直す(チーム再設計型)
メリット:管理職ひとりではなく、チーム全体で負荷を平準化しやすくなる。
デメリット:人によっては負担増と感じ、反発や不安が出ることもある。
注意点:「公平さ」と「適材適所」のバランスを意識し、話し合いのプロセスを丁寧に行う。
3.目標・評価指標を時間制約に合わせて交渉する(上位交渉型)
メリット:現実的な目標設定になり、「この条件なら達成できる」という感覚がもてる。
デメリット:上層部にとって耳の痛い話になりやすく、言い方を誤ると「言い訳」と受け取られるリスクがある。
注意点:感情論ではなく、データや事実ベースで「時間」と「成果」の関係を示す。
4.権限委譲と育成で「自分しかできない仕事」を減らす(委譲育成型)
メリット:中長期的に管理職の手離れが進み、チームの自走力も高まる。
デメリット:任せはじめの時期は、教える手間が増え、短期的にはむしろ忙しく感じる。
注意点:「丸投げ」ではなく、期待水準と権限範囲を明確にし、振り返りの場をセットにする。
5.管理職同士でケース共有・助け合いをする(ピアサポート型)
メリット:自分だけでは思いつかない工夫や知恵が得られ、心理的にも楽になる。
デメリット:忙しさを理由に、つい後回しになりやすい。
注意点:愚痴大会で終わらせず、「明日から試せる具体策」を1つ持ち帰る場にする。
管理職の負担を減らす具体的な方法
1.「業務削減型」と4.「委譲育成型」を組み合わせてみるのはどうでしょうか。
働き方改革で管理職の負担が増えているとき、多くの場合、「仕事の総量」と「仕事の持ち主」が曖昧なまま、時間だけが制限されています。その状態で「根性」で乗り切ろうとすると、真っ先にすり減るのは管理職です。そのため、1.で仕事を「見える化」し、「やめる」「簡略化する」「ほかの人に渡す」を意図的に決めていきます。
具体的には、1〜2週間、自分の時間の使い方を15分単位くらいで記録します。その一覧に、「会社として絶対に必要な仕事」「なくしても誰も困らない・困らなさそうな仕事」「やり方を変えればもっと短くできる仕事」などと、色分けをしてみましょう。そのうえで、上司とチームに共有し、「この報告は月1回にしてはどうか」「この会議は目的を絞って30分にしないか」と、やめる・減らす候補を合意形成していきます。
同時に、4.の発想で、「自分しかやっていないが、本当は部下にもできる仕事」をピックアップしましょう。最初からすべてを任せるのではなく、「最初のドラフトだけお願いする」「決裁前のチェックだけ任せる」など、仕事の一部を切り出して委譲します。任せた仕事については、「できたかどうか」だけでなく、「やってみてどうだったか」「どこが難しかったか」を一緒に振り返り、次に生かす前提で対話することです。
このプロセスを繰り返すことで、「時間が足りないから自分が背負う」から、「時間が足りないから仕事のかたちと持ち主を変える」へと発想がスライドしていきます。短期的には手間が増えたように感じるかもしれませんが、3か月、半年というスパンで見たとき、管理職の負担感は確実に変わるでしょう。
働き方改革の波に飲み込まれないためには、「自分がもっとがんばる」方向にギアを入れるのではなく、「仕事の構造を変える」ことにマネージャーとしてのエネルギーを使うことが、遠回りに見えて一番の近道だと考えます。
働き方改革で管理職の負担が増える根本原因
「働き方改革」とはなんでしょうか。それは単に残業時間を減らすことではなく、限られた時間でよりよい成果を出すために、「働く前提そのものを組み替える試み」ではないかと思うのです。
では「管理職の負担」とは、なんでしょうか。それは仕事量が多いことだけでなく、「自分だけが責任を背負い込んでいる」という感覚が重なった状態を指すのではないかと思うのです。
働き方改革が進むとき、会社はまず「時間」と「ルール」を変えますが、「目標」と「仕事の中身」を変えるのは後回しになりがちです。その結果、現場のメンバーの時間は減ったのに仕事の総量はほとんど変わらず、そのギャップを埋めるために、管理職が見えないサービス残業や休日対応で穴埋めをしてしまいます。
ここで起きているのは、制度設計の問題だけではなく、「管理職として、最後は自分がなんとかするものだ」という暗黙の前提・思い込みが、本人にも組織にも染みついていることではないでしょうか。上からの期待に応えたい、部下には無理をさせたくない、評価も落としたくない、などといった思いが重なるほど、「自分が抱えれば丸く収まる」という選択肢を無意識に選び続けてしまいます。
しかしそれは、短期的には周囲を守っているようでいて、長期的には自分をすり減らし、組織全体としては「誰かが犠牲にならないと回らない構造」を助長してしまっているのではないでしょうか。
管理職の役割は、穴埋めではなく「マネジメント」
本来、管理職の役割とは、足りない分を自分の時間で埋めることではなく、「足りなくならないように仕事と人の配置を設計すること」であるはずです。もし改革の結果、あなたひとりの負担だけが増えているとしたら、それはあなたの能力が足りないからではなく、「仕事の設計」と「役割の前提」がまだ改革されていないサインだと見ることもできるでしょう。
だからこそ、必要なのは「もっとがんばること」ではなく、「何をやめるか」「どこまでを自分の役割とみなすか」を意識的に再定義することです。その再定義をチームや上司と対話しながら進めたときに初めて、「管理職だけが損をする改革」から、「みんなで持続可能な働き方をつくる改革」へと意味が変わっていきます。
今一度、自らに問い直したい。自分は制度設計の問題を自分のがんばりで埋めようとしていないか。「みんなのため」という言葉の裏で、無意識的に自分だけが抱え込む選択を続けているのではないか。
吉田 直実
なおみ税理士事務所 代表
元国税職員/一般社団法人日本推進カウンセラー協会認定 認知行動療法士

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