
2026年9月13日、米海軍の原子力空母エイブラハム・リンカーン(USS Abraham Lincoln)がタイ東部のリゾート地パタヤに入港し、約5000人の乗組員が現地に上陸した。中東地域におけるイラン戦争の緊迫化に伴う長期間の洋上任務を終えた兵士たちが、羽を休めるためにタイの地に降り立ったのだ。しかし、彼らが向かったのはパタヤ名物の歓楽街ではなく、地元の大型ショッピングモール。兵士たちが求めたのは、意表を突くことに新鮮な生野菜や真新しい靴下といった日用品だ。現地経済に予期せぬ恵みの雨をもたらした、兵士たちの切実な舞台裏と現地でのフィーバーぶりを追う。
タイ国営通信社モット・エフエム(MCOT)、地元有力紙バンコク・ポスト(Bangkok Post)、および タイラット(Thairath)など現地の報道を総合すると、空母の入港によって現地には莫大な経済効果がもたらされている。今回の寄港に伴う乗組員の落とす金は、数日間で数億タイバーツ規模に達する見込みだ。ロイター通信なども、中東作戦から転進してきた同艦の動きと兵士たちのリフレッシュの様子を世界に向けて配信している。
イランを巡る国際情勢の緊迫化とそれに伴う世界的な航路の混乱は、タイの観光産業にも影を落としていた。世界中から観光客が集まるパタヤでも、遠方からの旅行者の足が鈍り、ホテルや商業施設は深刻な客不足に悩まされていた。そうした冷え込む現地経済にとって、5000人もの米兵の一斉上陸は、まさに「天からの恵みの雨」となった。
しかし、現地の人々の予想は大きく裏切られることとなった。パタヤといえば世界的に知られた夜の歓楽街が有名であり、上陸した兵士たちも夜の街へと繰り出すものと見られていた。ところが、彼らがバスやタクシーを仕立てて殺到したのは、冷房の効いた大型ショッピングモールや地元のスーパーマーケットであった。
兵士たちの目当ては、過酷な洋上生活で最も飢えていたもの、すなわち「新鮮な生の食べ物」と「清潔な衣類」であった。空母内部の食糧事情は、長期の航海になると保存食や加熱処理された缶詰、未調理のまま長期保存されたジャガイモなどが中心となる。冷蔵技術が進んだ現代の軍艦とはいえ、数千人規模の乗組員に数か月間にわたって新鮮な生野菜を供給し続けることは極めて難しい。
そのため、モールに到着した兵士たちは、生鮮食品売り場へ真っ先に向かった。山積みされたフレッシュなレタスやトマト、色鮮やかなサラダバーに群がり、かみしめるように生野菜を口にする姿が各所で目撃された。ある兵士は地元の取材に対し、「何週間も加熱したジャガイモと硬い肉ばかりを食べていた。シャキシャキとした新鮮な生野菜を食べられることが、これほど幸せだとは思わなかった」と興奮気味に語っている。
さらに彼らが爆買いしたのが、日用衣料品、とりわけ新しい靴下や下着類。艦内での洗濯環境には限りがあり、長期間の任務では衣類の傷みも早い。大量の靴下を買い込む兵士たちの姿は、パタヤの店員たちを大いに驚かせた。地元のスポーツ用品店や衣料品店では、補充しても追いつかないほどの勢いで靴下が売れていき、店内は一時的に品薄状態に陥ったという。

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