
英ロンドン大学などに所属する研究者らが発表した論文「Boss Quality and Employee Work Intensity: Evidence from Europe and the United States」は、欧州と米国のデータを用いて、上司の質が部下の働き方にどのような影響を与えているかを分析した研究報告だ。
現代の職場において、労働者の健康を脅かす問題としてまず思い浮かぶのは、長時間労働かもしれない。しかし近年、単なる労働時間以上にリスク要因として、限られた時間内に受ける心身の負荷の大きさ、すなわち“労働強度”が注目されている。先行研究においても、労働強度は長時間労働よりもメンタルヘルス悪化の強い原因となり、医療費への悪影響も長時間労働の約4倍に上ることが指摘されている。
これまで上司の質が部下の労働強度にどう関係するかは十分に調べられていなかった。ここでいう上司の質とは、技術的・実務的な優秀さを意味するものではなく、「部下への敬意」「適切な評価と称賛」「チームの統率」「的確な助言」「成長への支援」など7項目について、部下が行った評価の合計点で測定される指標を指す。
分析には、2015年の欧州労働条件調査(EWCS)と、15年および18年の米国労働条件調査(AWCS)から抽出された、合計約2万8000人の従業員データを対象とするデータセットが用いられた。
その結果、欧米のどちらのデータにおいても、質の高い上司のもとで働く人ほど、仕事の強度が低く抑えられていることが明らかになった。対人スキルに優れ、部下を尊重し適切なフィードバックを与える、質の高い上司を持つ従業員ほど、仕事の強度が低くなる。
良い上司に恵まれると、部下が期待に応えようとして自発的に無理をして働きすぎてしまうのではないかという予想もあったが、実際にはそうではなかった。優秀な上司は、会社からの無茶な要求や過度なプレッシャーから部下を保護する防波堤として機能していることが示唆された。
さらに、従業員数の少ない小規模な組織や民間企業、そして労働組合のように働き手を守る仕組みがない職場では、より顕著に現れることがわかった。これは過重労働を防ぐルールや制度の力が弱く、日々の働きやすさが上司個人の裁量に依存していることが示唆される。

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