浦井健治と蒼井優。ともに舞台でその実力を高く評価される役者二人が、兄と妹の禁断の愛を描く名作戯曲『あわれ彼女は娼婦』で共演する。

浦井健治と蒼井優、仲睦まじい撮りおろし写真、全部!

17世紀はじめ、実際に近親相姦の罪で処刑された兄妹をモデルに描かれた作品だ。シリアスかつ重厚な物語にもかかわらず、取材の場に現れた二人の雰囲気は明るく楽しいものだった。


————お二人の共演は2012年に劇団☆新感線の『ZIPANG PUNK〜五右衛門ロックIII』以来4年ぶりとのことですが、その間の活躍はお互いご覧になってどう思っていましたか?


蒼井 私は浦井さんの作品を拝見していますけど……。

浦井 すいません! この前の作品はちょっと観ることができなくて……。

————先日上演された『スポケーンの左手』という舞台は、蒼井さんをはじめ、演出家の小川絵梨子さん、その他にも浦井さんと親しい方がたくさんかかわっていましたよね。


浦井 いやあ、そうなんですよ。観に行けなかったこと、本当に残念で。みんなに言われてます。

蒼井 打ち上げでも、「健ちゃん来なかったね」って話題で持ちきりだった。

浦井 すみません……。

————(笑)。お二人が今回挑まれる『あわれ彼女は娼婦』は、実際にあったという近親相姦を題材とした衝撃的な脚本ですよね。読んでみてどんな感想を?

蒼井 登場人物が多い!

浦井 名前が覚えられない!

————確かに(笑)。兄妹を取り囲むたくさんの人がそれぞれの思惑をもって次々と登場しますね。


浦井 だからこそ、周りがどんなに間違っていると言ったとしても、僕ら兄妹は自分たちを正義と信じて演じることが大事かなと思っています。僕らのそのエネルギーが強ければ強いほど、周りの人々が自分たちのエゴを出すことによって愛憎劇ができあがっていくのではないかと。

役をつかむカギは“動物的”になること?

————簡単には共感しづらい設定ですが、どんなふうに役をつかもうと?


蒼井 うーん、なんだろう? 動物的になることですかね。こういうことが許されないのって、人間社会だけじゃないですか。動物だったらべつに裁かれもしない。ジョンさんが描きたかったことは……。


浦井 ジョンさん?(笑)。

————脚本家のジョン・フォードがぐっと身近になりました(笑)。

稽古と日常の切り替えはどうしてる?

蒼井 “ジョンさん”が描きたかったのは、二人の近親相姦の純愛そのものではなくて、もっと大きなものだと思うんです。だからお客さんも二人に共感できないかもしれないけれど、この作品に限っては実は共感する必要ってあんまりないのかもしれない。二人の愛情と、社会や常識の間にお客さんが立たされるような……。私たちを見ているようで自分たちの良識を問われるような、そこまでいければいいなとは思っているんですけれど。

————同時代の『ロミオとジュリエット』とはぜんぜん違いますね。


蒼井 『ロミオとジュリエット』はやっぱり二人の恋愛を応援してしまう。ロミオが、ジュリエットが死んだと思い込んでるシーンで「生きてる、生きてる!」って思う(笑)。そこは違いますよね。


浦井 この作品は実在した人たちの事件を劇的にフィクションにした戯曲なので、その部分も違う。


蒼井 言ってみればこの二人の恋愛は当時のゴシップネタですもんね。


浦井 そう。だから二人は蒼井さんが言ったように“動物的”に、考えるより感じろというスタンスで、熱量を持って演じていくのがいいのかなって思います。

兄妹、二人の共通点とは?

————演劇は毎日稽古を重ねて作っていくものですが、お二人は稽古の時間と日常のオンオフはどんなふうに切り替えていますか?

浦井 その時演じている役の口調が日常でふと出てしまうことはあります。役に影響されやすいのかもしれない。

蒼井 シャルル(共演した『五右衛門〜』で演じたちょっと抜けた感じの王子)をやっていた時は家でどうなってたの?

浦井 言葉が、上手くでてこなくなった。

————(笑)

浦井 本当に会話ができなくなるんです。ご飯を食べに行ってもすいませんって声をかけられない。ハンバーグとハンバーガーを間違えて言う。

蒼井 それは……役というより浦井さん自身の問題じゃない(笑)?

浦井 確かに苫小牧をフルコボク、棒棒鶏をボウボウドリって読んでたから……。

蒼井 シャルルそのもの(笑)! 私はないんです、役を引きずるという経験は。憑依体質ではないので、常に客観がいて主観がいる。

浦井 かっこいい!

蒼井 いや、主観だけになれる人って強いなって思う。私は客観があるから、ちょっといつも照れが入るんですよ。「なんかやってるよ〜」っていう客観の視線を無視無視! って思いながら演じてます。

————俳優としては逆のタイプなんですね。

浦井 蒼井さんは自分のスタイルが確立しているけれど、僕はまだそれができていないんだと思います。たまに自分で自分のやっていることがわからなくなって、演出家に「お前は何をやっているんだ」って。古田新太さんに、本番の舞台上で「健治、落ち着け」って言われたことありますから(笑)。

————今作ではそんなお二人がこの作品を引っ張っていくことになると思いますが……。

浦井 もちろん二人の純愛がひとつの軸だとは思いますけど、僕自身は引っ張っていける感じがしないですね。

蒼井 誰が引っ張ってくれるんだろう? 他力本願(笑)。

————そこは二人の共通点ですね。

浦井 兄妹ですからね。

蒼井 ここは(演出家の)栗山民也さんに引っ張っていってもらおう。

声帯のことになると話が止まらない?

————この作品は兄と妹が互いに相手に情熱をぶつけていますが、お二人がいま情熱を傾けているものは何ですか?

声帯のことを自分なりに研究!?

蒼井 演劇です!

浦井 かっこいいー!

蒼井 ごめんなさい、本当は次の日に昼公演があるのにカラオケに行っちゃう(笑)。

浦井 (笑)じゃあ、演劇以外だと……?

蒼井 うーん、全般的に、たいして情熱はないと思います。好奇心はあるけど、ある程度調べたりして好奇心が満たされたら次に移っていく。本でもそうで、「この作家」と思ったら集中して何冊も読みます。

浦井 “作家読み”するんですね。

蒼井 あ、それでいったら谷崎潤一郎かな、情熱を傾けているもの。谷崎に対する熱量は常に高いです。谷崎の作品はもちろん関連書籍もあれば買います。ゲラゲラ笑いながら読んじゃう。浦井くんは?

浦井 声帯のことを自分なりに研究することかな。どういうところでどう鳴らすとどう響くかとか、こういう年齢の役の歌い方をするにはどうすればいいかとか。人を見る時も声帯を見ていたりします(笑)。

蒼井 確かに『五右衛門〜』のときも声帯を使わずに歌う、みたいなことを……。

浦井 そんなこと言った?

蒼井 ごめん、ちょっと流して聞いてたから詳しくは覚えてないんだけど(笑)。

浦井 そうそう!『五右衛門〜』の時に蒼井さんが「こうやって歌うにはどうしたらいいですか?」って聞いてくれたので、僕が一生懸命答えたら「ああ、そうなんだ」で終わった(笑)。

蒼井 難しかったから……。

浦井 確かに理論的に話し始めてたのかもしれないね。

蒼井 わかったのは浦井さんがすごいってことだけでした。

——————こうして話を伺っていると、一見すごく楽しい芝居のような錯覚を覚えますね。

蒼井 コメディならよかったんだけどね(笑)。

浦井 いや、この雰囲気も決して無駄ではないはず。なぜなら兄妹役ですから!

蒼井 なけなしの真面目さを持って頑張ります(笑)。


あわれ彼女は娼婦
2016年6月8日(水)〜26日(日) 新国立劇場中劇場
作:ジョン・フォード 翻訳:小田島雄志 演出:栗山民也
出演:浦井健治、蒼井優 ほか

撮影:源 賀津己