Web無料漫画配信サービスジャンプ+にて「ファイアパンチ」第13話が配信されている。アグニって本当になんもできない。

ギャグマンガ「ファイアパンチ」


死んだ妹ルナにそっくりのユダと対峙するアグニ。通常こういう時は「おい!本当はルナなんだろ?記憶をなくしているだけなんだろ!?思い出してくれよ!」か、「グッ…別人だとわかっちゃいるが、顔がそっくり過ぎて攻撃する事が出来ない」の二つのパターンが考えられる。前話までの流れからすると、先のパターンになりそうだったが、まさかここからギャグマンガになるとは思わなかった。

それは映画監督トガタの演出が原因だ。自らが出演者となり、急にユダのクビを狩りとってしまう。もちろん再生能力を持つユダはこれだけでは死なないが、「これを海に沈めて殺そ」とアグニを挑発して海にダッシュ。アグニは動揺しながらもすぐに追いかける。

「アハハハハハ。私を捕まえてごらん?」「お〜い!待てったら〜」っていう波打ち際のヤツだ。大元がなんなのかわからない程に使い古された演出を、“生首を持った女を燃えている裸の男が本気で追いかけるという構図に置き換えている。完全にギャグマンガの手法だ。過去のインタビューで作者の藤本タツキ先生は「ジャンルが3回か4回変わる」と珍しい事を語っていたが、まさかこんなことになるとは。

今話のアグニは本当にかわいそうだったなぁ


それにしてもアグニは何も出来ない。トガタが「じゃあ返してあげる」とクビを投げても、アグニは受け取る事が出来ない。なぜなら燃えてしまうからだ。返してくれと連呼していたのに、放り投げられたら避けるしかない。なんてかわいそうなんだ

次に放った言葉は「ルナを取ってくれ」ファイアパンチが連載開始された時、アグニの不自由過ぎる身体がこの先の物語の鍵になると感じていた。服も着れない。武器も持てない。仲間とハイタッチする事も出来ないという現実をどう乗り切っていくのか、それがアグニの魅力の一つだと思っていた。しかし、展開上そういった描写は今までほとんどなく、いまいち身体が燃えている事の大変さが伝わってこなかった。だが、ここにきてやっと「ルナを取ってくれ」なんだそのお願いは。身体が燃えてなかったら絶対に出てこない言葉だ。なんてかわいそうな人なんだろう。

弱みを握られたアグニは、ドマとの復讐をセッティングしてくれる事を条件に撮影する事を許可した所で今話はおしまい。 全身に激痛を走らせながら懸命に復讐を成し遂げようとするアグニの姿を、よりによってギャグマンガ化 させてしまう藤本タツキ先生の感覚は恐ろしい。

それにしても最後のアグニのセリフ「俺は主人公になる・・・」の 弱者感 は相当やばい。全てはトガタの思い通りといった感じだ。この先が思いやられる。今回の波打ち際の件だって、おいかけっこなんてせずにクビだけ持って駆け引きすればよかった。それなのにカメラが回っているからってトガタは映画として演出を加えた。

トガタはアグニに心底惚れ込んでいる。その理由はきっとストーリー性と存在自体の悲しさからだ。その魅力を引き立てる為なら何でもやるだろう。アグニに取って妹の代わりとなるユダを、ドマに殺させたりするかもしれない。そして 「ほら。また妹が殺されたよ。どうするの?」とか、「さぁ殺ろう。あんなヤツ許しちゃおけないよ。ほら!怒って怒って!」 とか言いそうだ。そういうのが見たいんだけど、本当に止めてあげて欲しい。

アグニとトガタが手を組んだことによって、ドマを倒すという目標以外やることが無くなり、物語がだいぶクリーンになった。このマンガは最終回に近づいているのか?それとも次話でまた大きな問題が起こるのか?気になる続きは7月25日配信予定だ。
(沢野奈津夫)