1977年に発足し、最近では『おそ松さん』をはじめ、『NARUTO-ナルト-』『うる星やつら』『幽☆遊☆白書』など名だたるアニメを制作してきたスタジオぴえろ

その創業者である布川郁司さんは近著『「おそ松さん」の企画術』集英社刊)の中で、ヒット作を生み出すための企画術、アニメーション業界の歴史、そしてコンテンツビジネスの未来と課題をつづっている。

布川さんへのインタビュー第2回は「アニメプロデューサー」という仕事についてお話をうかがっていく。
(取材・文/金井元貴)

■「アニメプロデューサー」とはどんな仕事なのか?

――この本のテーマは「企画術」ですが、その一方でアニメプロデューサーの育成という業界の課題がバックボーンになっているように読めました。アニメプロデューサーの仕事について、良いアニメプロデューサーの定義について教えてください。

布川:アニメのプロデューサーはまず予算を渡されて、制作進行のスケジュールを決めるのが主な仕事です。予算を管理できる人が「良いプロデューサー」という見方ですね。

もう一つあげると、基本的にテレビ放送に合わせての制作進行になるので、限られたスケジュールの中で、スタッフを集めて、日程に遅れることなく、クオリティの高いものを納品することに、プロデューサーの腕が問われていたわけです。

それは今でも変わりませんが、プロデューサーの役割は制作と営業の2つに分かれてきているんですね。今、言ったプロデューサー像は制作プロデューサーの話です。一方で課題を持っているのが営業プロデューサー。ここが変わらないと日本のアニメは変わらない。

メディアはテレビ一極集中ではなくなり、ネット配信をはじめ、多様な選択肢が生まれました。だから、今まではテレビのプロデューサーにすりよれば良かった。嫌いな人でも(笑)そこに集中すればよかったけれど、今はそういう時代ではなくなった。

スポンサービジネスではなくなり、製作委員会方式が取られ、アニメを制作するのにテレビ局を含め他からも投資を受けるようになったわけです。全てがテレビに頼る時代ではなくなったというのはここ数年ですごく実感しています。

――今後さらにメディアの選択肢が増えるかもしれない。

布川:そうでしょうね。メディアの形はどんどん変わっていきます。そういった変化に対応するためには、我々のような業界内でそれなりのポジションについている人たちがしっかりと企画を作ることが大事になってくると思いますね。

■「日本でプロデューサーを目指すならアニメにしなさい」

――プロデューサーというと、「どのようにお金を引っ張ってくるか」というところがフォーカスされがちですが、それだけではないということですね。

布川:もちろんお金の座組みを組むのも大きな仕事です。権利関係もプロダクションにとっては命なので、そういうことを主張しながら作品を作っていかないといけませんから。

――相当のビジネスセンスが求められるのではないでしょうか。

布川:ビジネスセンスと企画力ですよね。その作品の売りをどこに据えるか、監督は誰にするのか、キャラクターは、デザイナーは…といろいろ考える。それは制作と営業のプロデューサーが共同でやっていきます。

宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサーだった西崎義展さんなんかは営業と制作を一人でまわしていましたし、一人でやれたほうがベターなのかもしれません。でもそれができるのは本当に限られた人だけです。

また、確かに制作と営業ってどうしてもリンクしづらいところがありますが、スタジオぴえろはその2つが上手くリンクしていて、例えば営業が「今、こういう新しいメディアがきている」という情報を得たら、制作にそれが伝わり、その情報や知識を元にしながら企画を立てていく、と。

――アニメから少し話がそれますが、映画プロデューサーを目指して海外に渡った知人がいます。「プロデューサーの育成」について何かお考えはありますが?

布川:映画の場合、海外で勉強をするならば日本には帰ってこないほうがいいかも知れません。向こうに根を下ろすことをおすすめします。

日本の映画業界は少し特殊で、日本人1億2000万人に向けて映画を作ります。だから、例えば日本映画が海外で賞を取っても、興行として成功を収めたという話はなかなか聞きません。

――海外で興行に成功している作品というと、スタジオジブリくらいでしょうか。

布川:でも、スタジオジブリの作品もディズニーの配給ラインからすれば複雑なんです。本家ディズニー映画や、ピクサー作品があっての、スタジオジブリ。だから、どうしても大きな映画館で公開されにくい。

よく海外でも通用する映画プロデューサーの育成について相談されるのですが、それはすごく難しいことです。特に実写はそうですね。まだアニメであれば海外に勝てる可能性がある。でも、実写は絶望的な意見しか言えません(苦笑)。

もし日本で映画プロデューサーになりたいのであれば、アニメのプロデューサーになりなさいと言います。ハリウッドと肩を並べることは難しいかもしれないけれど、それに近いことはできるかもしれませんから。

(後編に続く)

『「おそ松さん」の企画術』の著者、布川郁司さん