沖縄県那覇市が、生活保護費を受給していた母子家庭で娘2人が公立高校に通うために借りた貸与型の奨学金を「収入」とみなし、母親に保護費93万1000円を返還するよう求めていたことが沖縄タイムスで報じられた。女性は生活保護法に基づいて、返還処分を取り消してもらえるよう県に審査請求しているという。

生活保護法は受給者に資力がある場合、自治体に保護費を返還するよう定めている。報道によると、女性は2003年から2015年まで市から生活保護を受けていた。市はその受給期間中に女性側が借りた奨学金を「収入」と判断したという。

市は、保護費の一部が過払いになるとして2015年4月、奨学金と同額の計100万8000円の返還を求めたが、女性の不服を受けて県が審査した結果、「女性が就学費用を要するか調査する必要があった」と市側に手続きの不備を認めて返還処分を取り消した。一方で、「(奨学金受給を)事前に福祉事務所と相談していない女性側にも瑕疵がある」とも指摘した。

これを受けて市側は今年5月、必要経費として認めた7万7000円を減額し、再び女性側に保護費返還を求めた。市の担当者は「自立や更生につながる費用以外の返還を求めた」と説明しているという。

そもそも奨学金は「収入」にあたるのか。また、奨学金が収入にあたるとして生活保護費の返還を求める市の対応をどう考えるべきか。大井琢弁護士に聞いた。

●「生活保護制度の目的に反する」

奨学金には、給付型奨学金と貸与型奨学金があります。貸与型は返済しなければならないものですので、法的には借入れをしたことになります。生活保護受給中に借入れをすると、『収入』とみなされます。生活保護費以外に収入を得たと認定されますので、借入れた分と同じ金額を福祉事務所に返還しなければならないのが原則です。

しかし奨学金は、子どもが高校や大学に行って自立する力をつけるために得たお金です。奨学金を収入と認定し、福祉事務所に返還しなければならないとすると、せっかく得たそのお金を、高校や大学に行くという目的のために使うことができなくなってしまいます。

生活保護制度は、『最低限度の生活を保障するとともに』『自立を助長することを目的とする』(生活保護法1条)ものです。奨学金が収入にあたるとして保護費の返還を求める那覇市の対応には、このような生活保護制度の目的にも反します」

●「原則として収入と認定すべきではない」

1963年に出された局長通知と呼ばれる、生活保護制度の運用を定めた通知には、貸与型奨学金のような借入れの扱いについて、(1)福祉事務所の事前の承認があったときに、(2)必要最小限の就学資金などは『収入』に認定しない、と定めています。

那覇市が2015年に行った第1回目の返還処分は、(1)の事前の承認がなかったことを問題にしているものと思われます。しかしそもそも、事前の承認がなくとも、奨学金のような『自立を助長する』ために必要不可欠な借入れは、原則として収入と認定すべきではありません。

そして、2016年の第2回目の返還処分は、(2)の『必要最小限の就学資金など』の範囲をあまりに狭くとらえているばかりか、そもそも、奨学金が『自立を助長する』ために必要不可欠な借入れであることを無視しています。

万が一、貸与型奨学金を『収入』と認定してしまう生活保護制度の運用が広く浸透してしまえば、子どもの貧困の中で最も大きな問題である世代間での貧困の連鎖を断ち切るどころか、むしろ、貧困の連鎖を助長してしまうことになるのではないでしょうか」

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
大井 琢(おおい・たく)弁護士
そよかぜ法律事務所(沖縄弁護士会)弁護士、沖縄弁護士会貧困問題対策委員会委員長。保育を中心とした0~5歳児への早期支援によって子どもの貧困を解消できるとの信念のもと、保育や待機児童などの問題に取り組んでいる。
事務所名:そよかぜ法律事務所

「奨学金は収入」那覇市が生活保護費返還を請求、弁護士「貧困の連鎖を助長」と批判