客として通っていた風俗店で働く女性の自宅近くで、「女性が風俗店で働いている」という内容を書いたビラをまいたとして、千葉県の公立中学校教頭の男性が11月中旬、名誉毀損の疑いで千葉県警に逮捕された。

報道によると、男性は今年3月、女性の自宅近くの路上で「女性が風俗で働いている」という内容を書いたビラ10枚以上をばらまいた疑いが持たれている。男性は、女性が働く風俗店に客として通っていた。県警の調べに「女性に好意を持っていたが、連絡がとれなくなった」などと容疑を認めたという。

一般に、「風俗で働いている」というプライベートな情報は、あまり知られたくないことかもしれない。だが、その情報が本当のことであったとしても、名誉毀損にあたるのだろうか。刑事事件にくわしい宇田幸生弁護士に聞いた。

●社会的評価を貶めるような内容であれば「名誉毀損」にあたる

名誉毀損罪親告罪ですから、加害者の刑事処罰を求めるためには、被害者が警察や検察に告訴をしていることが必要となります。そこで、今回のケースでは被害者が告訴をしているという前提で説明します」

宇田弁護士はこう切り出した。真実かどうかは重要ではないのだろうか。

「まず、名誉毀損罪の場合、その内容が真実であったかどうかは、『原則』として問題にはならず、犯罪の成立に影響しません。刑法にも『その事実の有無にかかわらず』と明記されています(刑法230条)。

ですから、不特定多数の人が認識しうるような状況で、被害者の社会的評価を貶めるような内容での発信をおこなえば、その真相に関係なく、名誉毀損罪が成立することになります。

したがって、今回のように、路上で『風俗店で働いている』という内容のビラを配ることは、実際に被害者が風俗店で働いているかどうかにかかわらず、名誉毀損罪が成立します。処罰を免れることは難しいといえるでしょう」

例外はないのだろうか。

「どんな場合にも、真実かどうかが問題とされないわけでなく、一定の場合には、真実であることが証明されれば、名誉毀損罪の処罰を免れることができるケースがあります。

それは、名誉毀損の内容が、(1)公共の利害に関する事実であり、(2)主に公益目的のためにおこなわれたような場合です。

たとえば、政治家や公務員の犯罪をあばく記事をメディアに掲載するようなケースが考えられます。この場合、(3)その内容が真実と証明されれば、処罰を免れる可能性が高いでしょう。

もっとも、今回のケースでは、先ほど述べたとおり、被害者のプライベートな生活面を暴露する内容であるため、たとえそれが真実であったとしても、加害者が処罰を免れることは難しいと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
宇田 幸生(うだ・こうせい)弁護士
愛知県弁護士会犯罪被害者支援委員会前委員長名古屋市犯罪被害者等支援条例(仮称)検討懇談会座長。殺人等の重大事件において被害者支援活動に取り組んでおり、近時出版した著作に「置き去りにされる犯罪被害者」(内外出版)がある。
事務所名:宇田法律事務所
事務所URL:http://udakosei.info/

「女性が風俗で働いている」ビラまいた教頭逮捕、本当でもガセでも法的にアウト