『野球部あるある2』と『吹奏楽部あるある』。2つの“部活動あるある”の魅力に迫る著者インタビュー後編です。
(前編はこちらから)

【「ブラバン」or「吹部」で見える世代間差】
─── <「福山雅治堺雅人がやっていた」というと、まわりの見る目が変わる> この吹奏楽部あるあるにはビックリしました。あるあるなのにトリビア

オザワ 私もTwitterでこのあるあるをつぶやいた時、福山ファンと堺雅人ファンそれぞれからすごい反響がありました。芸能界には結構吹奏楽部出身者がいるみたいで、本には入れられなかったんですけどAKB48の指原さんもトロンボーンの経験者だったみたいなんです。『アインザッツ』という吹奏楽雑誌があるんですけどその表紙を指原さんが飾っていて、僕がそのことをツイートしたらフォロアーさんから「サッシーも経験者ですよ」っていうコメントいただいたりしましたね。

─── Twitterでの反響は他にもあったりしますか?

オザワ 「親子で読んで爆笑しました」というメッセージをいただけたのは嬉しかったですね。

菊地 親子でっていうのは『野球部あるある』でもよくあってそれは僕も嬉しかったですね~。野球部だったお父さんが読んで、現役部員の息子も読む。野球の本でそういう“親子の架け橋”になるような本ってあまりなかったと思うので。それと監督さんと部員の両方で読んで盛り上がったという話を聞くと「すごい本を作れたんだなぁ」と感慨深いですね。

─── 同じシリーズですが、『吹奏楽部あるある』が『野球部あるある』から意識的に変えた部分はありますか?

オザワ 吹奏楽部って女子が多いので、野球部あるある的なネタの出し方をすると女子がどう反応するかっていうのはすごく気になりました。だから、『野球部あるある』よりもごちゃごちゃ感があるかもしれないですね。まず僕のほうで300くらいネタを出して、他の「吹奏楽部あるある研究会」の方からも100くらい出していただいてある程度のあるあるネタが集まった段階で、Twitterでいくつか紹介してみたんです。「吹奏楽部あるある研究会」に集まったメンバーはみんな吹奏楽部のOB・OGなんですけど、Twitterでフォローしてくれるのは中学・高校の現役部員がものすごく多いんです。我々はOB・OGとして「こうだったよね」というあるあるを出しているんですが、それが今の子たちにも通じるのかっていうのがすごく難しいところで。実際、通じるものと通じないものがあったので、そこをなるべくどの世代にも通じるようにするっていうのは特に気をつけた部分ですね。

─── 世代差を感じたネタっていうのは例えば?

オザワ 本の中でも紹介した<「ブラバン」と「吹部」どちらで呼ぶか>ですね。「吹奏楽部」のことを我々の頃はもうみんな「ブラバン」って呼んでたんですが、今の子たちはおおよそ8割くらいが「吹部」と言っていて。

─── それは全国的にそうなんですか?

オザワ 全国的だと思います。ブラバンは少数派で、むしろ「ブラバン」と言うと怒る人もいるみたいですから。ブラバンは“金管バンド”って意味なので、「木管楽器もあるのにどういうことですか?」と。そこは野球部とちょっと違うところかもしれないですね。野球部は連綿と受け継いでいる部分が大きいと思うんですけど、吹奏楽部の場合は楽器の呼び方や備品の種類なども変わったりしますし曲も変わっていくからか、時代とともに変化する部分が結構ありますね。そこは『吹奏楽部あるある』ならではの面白い部分でもあり、まとめる上で気を使ったところではありますね。


【あるある!じゃない、<PL野球部あるある>】
─── 今回の『野球部あるある2』では<PL野球部あるある>があり、『吹奏楽部あるある』の中でも<強豪校あるある>があります。並列して読むと、野球と吹奏楽というジャンル違いであっても共通する部分があって興味深かったんですが、この企画の類似性はたまたま?

オザワ たまたまですね。でも、『野球部あるある』の方はそもそもは雑誌での企画だったんでしたっけ?

菊地 『野球小僧』の企画で取材した内容に加筆・修正したんですが……面白いですよね、PLはやっぱり。『あるある2』で一番反響があるのが<PL野球部あるある>です。

─── 強豪校は他にもあると思うんですが、PLを選んだ理由は?

菊地 PLに対しての特別な思いを抱いている人の分母がとてつもなく大きいんですよね。30代後半から40代となると、みんなPL学園の校歌が唱えるという(笑)。それだけ甲子園で校歌が流れたってことですからね。『野球部あるある』という本ですけど、<PL野球部あるある>までいっちゃうと「こんな野球部あり得ない!」という内容にもなるんです。でも、怖いものみたさというか、違う質の面白さになる予感があったので。それと、普通PLに関してのインタビューって桑田とか清原が出てきて思い出を語るっていうのが定番じゃないですか。そうなると結構書けないことも出てくるんですけど、むしろPLの誰かわからないOBを連れてきて、その人にPL野球部について聞くっていうのも、読み物として面白いんじゃないかなと思ったんですね。そういえば先日、『吹奏楽部あるある』の<強豪校あるある>に出ていただいた札幌白石高校吹奏楽部のOBの方と初めてお会いしたんですが、「この人、PL野球部の人とおんなじ空気持ってるなぁ」と思いましたね。その人に<PL野球部あるある>読んでもらったら「あーわかる!」って言ってましたからね(笑)

オザワ 勝者のメンタリティなんですよね。僕が通っていた学校の吹奏楽部は地区大会で銀賞を獲ることすら難しかったんですが、吹奏楽コンクール全国大会の常連校である札幌白石高校だと、地区大会で金賞取るのは当たり前でその程度で大喜びしてはいけないんだそうです。さらには海外に遠征に行ったりともうレベルが……意識の高さが全然違うんですよね。

菊地 甲子園の常連・横浜高校の渡辺監督しかりですね。当たり前の基準がスゴく高いんですよね。

オザワ 『野球部あるある』も『吹奏楽部あるある』も、想定していた読者層は僕自身がそうだったようにどちらかというと特別優秀というわけではない、普通の部員なんです。だから強豪校という頂点にいた人は怖いし話が通じないんじゃないかという先入観があったんですが、一度話を聞いてみたら単純に「スゴいなぁ」という部分と「わかる!」という部分と、「そういう経験ってしてみたかったなぁ」という、自分たちのやってきたことの延長線上にあるエピソードが多かったのは発見でしたね。

─── 吹奏楽部界について不勉強で申し訳ないんですが、「札幌白石の吹奏楽部」っていうのは、やってた人ならもう「おぉっ!」というレベルなんですか?

オザワ 全国大会には常に出てくる強豪ですね。そういう学校が、埼玉の埼玉栄高校とか大阪の淀川工科高校とか全国にいくつかあります。でも、実は僕も全国大会に関しては学生時代はあまり詳しく知らなくて。<野球でいう甲子園のような「普門館」という舞台がある>っていうのも部活を辞めた後に知ったくらいで。漫画を描いてくれた菊池直恵さんも吹奏楽部出身なんですが、彼女も僕らがネタを集めて漫画を依頼したときに「普門館って何ですか?」って聞いてきたくらいですから。そういう僕らのようなのほほんとした吹奏楽部員がいる一方で、普門館に出るのが当たり前っていう人たちもいる。同じ世界だけど違う世界、という不思議な感じでしたね。


【次回作は『卓球部あるある』??】
─── 今後、“部活あるある”はシリーズ化したい、といった展望はありますか?

菊地 そうですねぇ……無理矢理やってもつまらないと思うんですよね。面白くないの作っちゃったら、せっかく好評いただいた『野球部あるある』と『吹奏楽部あるある』のためにもならないですから。うちの営業部なんかもう『3』出せ出せ言ってきてるんですけど(笑)。まあ、いい出会いがあったらやりたいですね。卓球部とか、リア充じゃないほうの(笑)。ホントにこれ、失礼な言い方だとわかって言うんですけど、卓球部は吹奏楽部の逆で<文化系体育会>の匂いがするじゃないですか。もちろん、強豪校なんかはバリバリの体育会なんでしょうけど、『稲中卓球部』みたいに卓球部じゃない人間が読んでも面白いものになるかもしれないし。

オザワ 僕は『吹奏楽部あるある2』を出したいですけどね。

─── じゃあ、まだまだネタはあるんですか?

オザワ 全くないです! スッカラカンで、もう切り干し大根みたいなもんです。ただ、Twitterで現役生の子たちが盛んにツイートを寄せてくださっているんですね。今回の『吹奏楽部あるある』って自分が出したネタが7割くらいなんですけど、もし次『2』を出す場合にはもっと広く意見を募ってもいいのかなって思ったりしています。あとは顧問の先生方の声とかも直接聞いてみたいですね。顧問覆面座談会みたいものをやったら面白いかな、と考えたりしています(笑)

菊地 今回<PL野球部あるある>をやりましたけど、今出ている『野球小僧6月号』の中で<野球留学あるある>っていう企画もやっているんですよ。他にも「<大学野球部あるある>とか<社会人野球部あるある>やってくれ!」という声をいただいたりしてるんですけど、それ需要あるのかがまだ疑問で(笑)。でも、やり方はいろいろあるというか。東の横綱<帝京野球部あるある>とかもやってみたいですよね。まあ『2』を作ったときと一緒で前作を超えるものが出来そうだなって思ったら出るかもしれないですね。
オグマナオト)

『吹奏楽部あるある』(吹奏楽部あるある研究会・著、菊池直恵・漫画/白夜書房) 吹奏楽経験者はもちろんのこと、未経験者でも思わず笑ってしまうネタ連発。 イラストは自身も吹奏楽部出身で、漫画『鉄子の旅』(小学館)で知られる人気漫画家・菊池直恵が担当。