スイスチューリヒの裁判所は5月29日フェイスブックで動物保護活動家を「人種差別主義者」「反ユダヤ主義者」だと中傷する投稿に対して、「いいね!ボタンを押した男性被告人に対して、4000スイス・フラン(約45万円)の罰金を科す判決を言い渡した。

AFPによると、数人の被告人が、自身がした動物保護活動家への中傷コメントを理由に有罪判決を受けているが、この男性被告人は、「いいね!」を押しただけで有罪になったという。

裁判所は、敵意に満ちた複数のコメントに「いいね!」を押したことで、男性被告人が社会的に不適切な内容を支持し、自身がコメントしたものと同然だとした。判事は、コメントの内容が真実であることを証明しないまま「いいね!」を押すことで、フェイスブックでつながっている多くの人に情報が届くようにしたことを指摘したという。

中傷コメントに「いいね!」を押すだけで有罪になるというのは、なかなか驚きの判決だが、日本でも同様の事態が起きる可能性はあるのか。清水陽平弁護士に聞いた。

●投稿行為があったのかどうか

まずそもそも、有罪判決を受ける前提として、フェイスブックへの投稿が刑罰法規に触れることが必要です。考えられる罪としては、名誉毀損罪、わいせつ物公然陳列罪、児童ポルノ規制法、リベンジポルノ法などがあり得ます。

仮に、これらに抵触するような投稿をした場合、その投稿をした人が罪に問われる可能性があることに異論はないと思われます。

投稿に「いいね!」を押すだけで有罪になるかは、「いいね!」を押す行為がこれらの刑罰法規に触れると言えるかどうか、という問題です。この点を検討するためには、「いいね!」を押したときに、フェイスブックがどのような挙動をするのかということを考える必要があります。

フェイスブックには「いいね!」と「シェア」がありますが、まずは「シェア」から考えてみましょう。「シェア」は、読んで字の如く、他人の投稿をシェアして、自分のウォール(各ユーザーが自分のした投稿を表示する場所)に投稿するものです。たとえば、ある人(以下、「Aさん」とします)がウォールにした投稿をBさんがシェアした場合、その投稿はBさんのウォールに表示されることになり、Bさんのフェイスブック上の友達にAさんの投稿が拡散されることになります。

もうひとつの「いいね!」は、ある人のウォールへの投稿について、単なる賛意等を示すだけのものです。たとえば、BさんがAさんの投稿に「いいね!」をすると、Aさんのウォールにされた投稿にBさんの「いいね!」をしたことが表示されることになるほか、設定によってはBさんのフェイスブック上の友達に、BさんがAさんの投稿に「いいね!」を押したことが表示されます。

フェイスブックの仕様の話なので、今後変わってしまう可能性はありますが、いずれも投稿の拡散という仕組みになっています。しかし、「シェア」は投稿行為がある反面、「いいね!」は単なる賛意等を示すだけのもので、刑罰法規に触れる投稿をするという行為がありません。

したがって、少なくとも現在のフェイスブックの仕様上、日本では単に「いいね!」をしただけで有罪判決を受けるということは、通常考えられないのではないかと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、Twitterに対する開示請求、Facebookに対する開示請求について、ともに日本第1号事案を担当。2016年12月12日「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第2版(弘文堂)」、2017年1月18日「企業を守る ネット炎上対応の実務(学陽書房)」を出版。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp

フェイスブック中傷投稿に「いいね!」、スイスで有罪に…日本ではどうなのか?