新国立競技場の工事現場で働いていた建設会社の男性新入社員(当時23歳)が自殺したのは、極度の過重労働とストレスが原因だったとして、男性の両親が上野労働基準監督署に労災申請をおこなっていたことがわかった。遺族の代理人をつとめる川人博弁護士が7月20日東京都内で記者会見を開いて公表した。申請は7月12日付。

川人弁護士によると、男性は大学卒業後の2016年4月、都内の建設会社に就職した。この会社は、東京五輪に向けて建設中の新国立競技場の工事現場で、一次下請けの業者だった。男性は同年12月中旬から、新国立競技場の地盤改良工事で、施工管理の業務に従事することになった。

男性は今年3月2日、突然失踪し、4月15日長野県で遺体が発見された。「身も心も限界」などと書かれた遺書が残されていた。男性の死亡をめぐって、男性がつとめていた会社は当初、時間外労働が「月80時間以内である」と説明していたが、遺族側は納得せず、会社や元請け会社に対して資料の提出を求めた。

工事現場のセキュリティ記録やパソコンの記録から分析したところ、男性が亡くなったと推定される3月2日まで約1ヶ月間の時間外労働時間は、約212時間にのぼった。また、男性は2月ごろ、両親が朝起こそうとしてもなかなか起きなかったり、友人に対して「今の職場に3年はいたいが、もたない。辞めたい」と語るなどしていたという。亡くなるまでに精神疾患を発症していたとみられる。

川人弁護士によると、労災申請の段階で、会社側は男性の業務が過重だったこと、労災である可能性が高いことを認めたという。男性の両親は代理人を通じて、「帰宅するのは深夜ででした。朝起きるのがとてもつらそうでした」「息子と同じように、過労で命を落とすような人を出したくないという思いでいっぱいです」とコメントしている。

新国立競技場の工事現場は「長時間労働」にさらされている

男性の過重労働の背景の一つとして、川人弁護士は「工事日程の厳しさ」をあげた。東京五輪のメインスタジアムとなる新国立競技場は、設計の見直しなどによって、工期が大幅に遅れている。こうした状況から、現場の労働者は、「間に合わせなければならない」というプレッシャーや長時間労働にさらされているという。

川人弁護士は「(男性の)労働実態は、人間の生理的限界をはるかに超えた常軌をを逸した時間外労働だった」「(男性の)死亡後も、関係業者、関係機関において痛苦な反省のうえに改善措置をとっているとは言い難い」「国家的行事であるかといって、その準備のために労働者のいのちと健康が犠牲になることは断じてあってはならない」と批判した。

川人弁護士は今後、男性がつとめていた会社だけでなく、元請け会社や発注者、東京オリンピックパラリンピック競技大会組織委員会、東京都、政府関係機関などに対して、東京五輪に関連する工事現場の労働実態の深刻さについて、把握・改善する措置を講ずるよう求めていく予定だ。

【追記】

川人弁護士はこの日午後、東京オリンピックパラリンピック競技大会組織委員会をおとずれて要望をおこなった。同委員会は「こうした事態が発生したことについては大変残念です。お亡くなりになられた方のご冥福を心からお祈りするとともに、ご遺族の皆様にお悔やみ申し上げます。新国立競技場の事業主体はJSCであり、本件事実関係については、組織委員会もJSCに照会を行います。今後、同様の事態が起こらないよう、各関係者にも十分ご留意していただくようお願いしたいと思います」とコメントしている。

(弁護士ドットコムニュース)

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