イカの画像を見てほしい。

https://twitter.com/benrmorton/status/893012093921665025?ref_src=twsrc%5Etfw&ref_url=http%3A%2F%2Fnews.denfaminicogamer.jp%2Fkikakuthetower%2F170809

 これは、7月末に世界同時発売され、ワールドワイドな人気を集めている大ヒットゲームスプラトゥーン2』で起きているだ。ここ数日、海外版の「広場」で大量の「ケモノイラスト投稿されていることが話題となっている。Twitterではその様子がスクリーンショットと共に拡散され、多くの世界中のユーザーが困惑している状況だ。

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 実は本件、その背後には海外の「ケモナーファーリー)」たちの差別への「怒り」があるという。なにしろ、今やこの大量のイラスト投稿は「ファリーズ・ウォー」という名前さえ付けられているのだ。世界中のほとんどの人は「!?」だろうが、これは歴とした差別への抗議運動なのだ。
 とはいえ、一見なんの関係もなさそうな『スプラトゥーン』とケモナー......一体なぜ突然こんなことが起こっているのだろうか?

 ......この疑問を聞くのにぴったりの人物がいた。かつて電ファミで『けものフレンズ』大ヒットの理由について取材した、「ガチケモナー東大研究者」だ。

『けものフレンズ』大ヒットの理由とは? ガチケモナーな東大研究者が語るケモナーの歴史とその深淵

 ケモノ好きが高じて東京大学大学院に在籍するかたわら「ケモノ社会学」を研究している口智広氏(@MangSophiaJP)。自身も着ぐるみ趣味ガチケモナーだ。そんな口氏に、スプラトゥーン騒動の原因、その歴史背景海外日本ケモナー事情の違いなどについて、ディープな話を聞きに行ってみた。

取材・文/透明ランナー

ケモナーは来るな!」で火がついた

――口さんは海外版『スプラトゥーン2』の広場で大量のケモノイラスト投稿されているという今回の騒動、知っていましたか?

口氏:
 ええ、Twitter経由で画像が流れていましたし、それなりに話題になっていたようです。ただ海外ケモノコミュニティについての情報が一般に出ることはこれまでほとんどありませんでしたし、何のことやらさっぱり分からない人も多いかと思うので、ぜひそのあたりの事情をお話ししていければと思います。

――はい、例によって全く訳が分からないので、よろしくお願いします。そもそも、今回の騒動は何が原因なのでしょうか?

口氏:
 断定はできませんが、おそらく発端となったのはあるユーザー投稿した「No More Furries! (ノーモアファリーズ!)」という書き込みだと思われます。

https://twitter.com/therealOppai/status/892522084995346434?ref_src=twsrc%5Etfw&ref_url=http%3A%2F%2Fnews.denfaminicogamer.jp%2Fkikakuthetower%2F170809

 「Furry(ファーリー)」とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、擬人化された動物キャラクターやそれをする人たちのことです。日本でいう「ケモナー」にあたるくくりだと思ってください。要するに「ケモナーは来るな!」ということですね。これ以降は欧ケモナーは「ファーリー」と呼んで区別したいと思います。

 この投稿以前にも、ファーリーたちによる『スプラトゥーン2』の広場での投稿が、小規模ですが行われていたようです。イカ人外ですからね。

――イカ人外

口氏:
 はい。むろん厳密には「イカへのファーリーに含むべきか」という議論は存在しています。より人間に近しい動物しか認めない一もいて、慎重な議論が必要なのですが、今はそれは置いておきましょう。

 ともかく、そんな中でこの「ノーモアファリーズ!」という書き込みによって「それならもっと投稿してやろう」と火が付き、それがさらに彼らの反発を生んだことで応酬がエスカレートしていったのではないかと思います。ケモノ絵を大量に投稿するファーリーたちと、それを排除しようとやっきになる人たち。そんなヒートアップする戦いの様子は、今や「ファリーズ・ウォー」と呼ぶ人もいるようで......。

――なるほど......でも、それ以前はあまりにつかないようにケモノ絵の投稿は行われていたんですよね? どうして「ノーモアファリーズ!」のような反発が起こったのでしょうか?

口氏:
 まさにそれが重要な部分です。今回の騒動が大きくなった様子を見ていくと、「ファーリーは性的なコンテンツアダルトコンテンツと結びつくものだから締め出すべきだ」という立場があるらしきことがわかります。こうした反発を理解する上でカギとなる背景るためには、欧ファーリーの歴史を少しさかのぼる必要があるのですが、いいですか?

――ぜひ、お願いします。

マスメディアが作った欧でのファーリーのイメージ

口氏:
 欧ファーリーという存在が少しずつマスメディアに紹介されるようになったのは2000年頃です【※】。その頃のメディアは、ファーリーは性的に倒錯した存在――要はなんだかヤバそうならとして、おもしろおかしく取り上げることがほとんどでした。

※「このあたりの大まかな流れは、ファーリー関連に特化したWiki事典『Wikifur』に英語版まとめ記事があります」(口氏)

――その中でも何か具体的な例はありますか?

口氏:
 徴的な事例としては、2003年アメリカ人気テレビドラマシリーズCSI:科学捜査班』【※1】で、ファーリーが絡む殺人事件が起こる回【※2】がありましたね。

※1 CSI:科学捜査班......米国CBSで2000年から2015年まで放映されていたテレビドラマシリーズラスベガスを舞台に、警察科学班が最新科学を駆使して事件を解明していく推理ドラマ
※2 ファーリーが絡む殺人事件が起こる回 CSI シーズン4 第5話、原題「Fur And Loathing」、邦題「心優しきたち」。米国2003年10月30日放映。ハンター・S・トンプソン小説Fear and Loathing in Las Vegas」(「ラスベガスをやっつけろ」)と「Fur」をかけたタイトル

 この話は「着ぐるみを着たままの遺体が発見される」というストーリーなのですが、女性キャラクター着ぐるみ男性が着ていたり、性行為に及んでいたり、コミュニティ内の痴話喧から犯罪が起こったり......と、作中ではファーリーがあたかも倒錯した人たちの集団であるかのような、ステレオタイプな設定がされていました。

 これについては「作中のファーリーの描き方が不正確だ」という批判ファンコミュニティ内では多く上がったのですが、社会的な影が小さく、あまりを傾けられませんでした。

――前回のインタビューでも、「精的な結びつきよる性」としてのZoophiliaと「動物との性行為」としてのBestialityは一括りに出来ないという、大変にディープな話がありましたね。

口氏:
 んだステレオタイプを広めたという点で、日本のいわゆる「オタクバッシング」と通じる部分はあると思います。ファーリーたちの努甲斐もあって、現在ではメディアでの取り上げられ方もだいぶ変わってはいますが......。
 今回のスプラトゥーン騒動のようなときにファーリーと性的コンテンツの結びつきが玉に上がるのは、残念ながらかつてメディアが広めた偏見が全にはなくなっていないことの表れではないでしょうか。論これだけが全てではないにしても、「ファーリー排除」の反発がここまで高まった遠因ではあると思います。

 こういった事情があり、ファーリーたちは外部から自分たちがどう見られているか、誤ったイメージが広がらないか、往々にして非常に敏感なんですよ。

――そこは、部外者にはなかなか「炎上」の理由が見えにくい点も含めて、日本の「ケモナー」文化と似ているように思います。

口氏:
 ファーリーが集まる大規模イベントでは、マスメディアにどう接するかのレクチャーがあるくらいです。

 メディア根掘り葉掘りステレオタイプに当てはめるような質問をしてくるけれど、それにきちんと対応するにはどうすればいいかということですね。

――なるほど、そうやって人々の意識を少しずつ変えようとしているわけですね。

一枚岩ではないファーリーたち

――でも、今回の騒動は、ファーリーを排除しようとした動きに対して、ファーリー側が反発して大量に投稿するという動きに出たという面もありますよね。

口氏:
 そうですね。欧では自己表現の一手段として自分たちの存在をアピールする文化が根強くあります。地下に身を潜めて見えないように活動すればいいのではなく、「私たちはファーリーです、こんな集団です」と広く知らしめ、理解を深めてもらおうという動きですね。

 たとえば、最近のアメリカ各地でのプライド・パレード【※】では、ファーリーたちのグループが行進に参加しています。自分たちの存在をカムアウトして、こういう集団もいるんだよとするためです。この様子はメディアでも取り上げられました。

プライド・パレード セクシュアルイノリティなどが社会的権利のために行う大規模な行進。動画2015年サンフランシスコで開かれたプライド・パレードにファーリーが参加した様子。

――日本ではそういったマイノリティによるパレード自体が欧べて少ないですし、あまり活動はなさそうですが......。

口氏:
 差があるのは確かですが、最近はその差が縮まってきていると思います。SNSYouTubeといった新しいメディアの影もありますし、海外との交流が盛んになることでそうした活動が内に持ち込まれてきている形になっています。

 たとえばドイツにいる私の知人のファーリーのひとりも、着ぐるみでのエクストリームスポーツ動画Webで発信したり【※】、積極的にメディアの取材を受けたりしています。来日したときには渋谷スクランブル交差点を着ぐるみで歩いたりもしていましたね。

ドイツファーリーKeenoraさんアップした、着ぐるみを着てスカイダイビングに挑戦する動画Keenoraさんは「KeeXtreme」というシリーズでさまざまなエクストリームスポーツに挑戦している。

 また、コミュニティの規模が大きくなるにつれ、そうした活動が不可欠になってきているという面もあるでしょうね。
 私が関わっている内のケモノイベントでも、会場近隣の商業施設と協してその中を練り歩いたりしています。日本でも小規模ながら、「私たちはこういう存在で、こういう形で活動していますよ」ということを、何らかの形で広く示していかなければいけないと思っています。

――それはコミュニティの維持・拡大のためにも重要なことなのでしょうね。

口氏:
 ただ、そういった活動についてはコミュニティの中でも意見が割れるところでもあります。必要以上の活動は用な反発を生むんじゃないのか、慎重にやるべきじゃないのかというもあれば、もっと積極的に権利をしていこうという人たちもいます。

 今回のスプラトゥーン騒動でも、自分たちの存在を認めさせようとイラストを大量に投稿する人もいれば、それは良いやり方ではないんじゃないかと思っている人もいる、というのがファーリーコミュニティ内部の現状です。

――まるで公民運動のときに人の間でも穏健キング牧師と過激派マルコムXとに分かれていたかのような......。

口氏:
 まさにその通りで、ファーリーたちも一枚岩ではないんです。そもそも何をもってファーリーなのかという点についても、見解が分かれるところです。

マイリトルポニー......アメリカの大手玩具メーカーHasbro Inc.が1983年から展開している女児向け玩具。ここでは、1984年の短編を皮切りに、1986年から放送されたテレビシリーズについてられている。

 たとえば米国発の女児向け玩具マイリトルポニー』のタイアップアニメには、近年かなりの数の熱狂的な大人世代のファンつくようになり、彼らはブラザーポニーをあわせた造で「Bronyブロニー)」と呼ばれています。

――女児向けアニメに夢中になる大人たち、いわゆる「大きいお友達」ですね。

2011年から毎年米国で開かれている、ブロニーが集まる大規模イベントBronycon」の様子(2014年)。2016年Bronyconには全から7,000人以上が集まった。2014年にはブロニーを追ったドキュメンタリー映画「A Brony Tale」が製作されるなど、注を集めている。

口氏:
 この辺はかなりマニアックな話なのですが、実のところ、ファーリーからブロニーに流れたファンも少なくなく、両者をかなり近いコミュニティだと認識する人もいれば、そういう人たちは気持ち悪いから同じと思われたくないという人もいます。

 先ほども言ったように、『スプラトゥーン』のイカについても、人外なのでファーリーに含まれると思う人もいれば、もっとケモノに寄せたもの以外ファーリーと認めない人もいるでしょう。このあたりはファーリーたちの中で延々と議論が尽きず、が正しいというわけでもないですし、往々にして個人のアイデンティティにも関わってくるので、燃えやすい話題ですね。 

――なるほどファーリーたちの間でも今回の『スプラトゥーン』の騒動については意見が分かれているわけですね。歴史的事情とあわせて、何が起こっているのかよく分かりました。

ケモノを手掛かりにして人間社会読み解く

――ところで、前回の取材が大変にネット上で好評だったのですが、口さんの最近の研究の状況はどうでしょうか。

口氏:
 8月13日コミックマーケット92(3日)東2 U-19bにて、ケモノを評論したテクスト系同人誌『Philosofur』の新刊を出展します。私は「ファーリーを『研究』する――ファーリー研究史とその意義」という文章を寄せています。

https://twitter.com/wssnschftsdrch/status/894046658580828161?ref_src=twsrc%5Etfw&ref_url=http%3A%2F%2Fnews.denfaminicogamer.jp%2Fkikakuthetower%2F170809

 また、8月中旬にベルリンで開かれる欧州最大のファーリーのイベント「Eurofurence」に行こうと思っています。今年で23になる歴史あるイベントです。ちょうど今回はアメリカファーリー研究グループが来るようなので、最新の情報が入手できるのではないかと楽しみにしています。

 また、ドイツには動物者の団体を人類学的にフィールドワーク調している日本人研究者がいるので、そちらとも会って情報を交換してきたいと思っています。

――すごいですね。そんな団体が存在していて、それを研究をしている人もいるんですね。

口氏:
 動物は私の学部時代の研究テーマのひとつでもあり、雑誌『サイゾー』で「そもそも"姦"はなぜダメなのか? 違法化が進む姦」という記事にコメントしたこともあります。時間さえあれば自分もやりたいテーマだったので、同じ研究者として素直にうらやましいですね。

 これからの社会における多様性と共存の問題を考える上で、こういった都市の中という「内」にいるマイノリティの「見えづらさ」は、「外」への視線と同じくらい重要になってくると思うので、継続して関心を向けていきたいです。ケモノを手掛かりに人間社会のあり方を見ていくのもその一環として、これからも研究を続けていこうと思います。

――......なるほど、大変そうですが今後も研究がんばってください。ありがとうございました! (了)

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