今年10月から施行される「改正著作権法」。これにより、違法と知りながらインターネット上で音楽や動画をダウンロードした場合、2年以下の懲役または200万円以下の罰金を科せられることになった。

一般社団法人日本レコード協会によると、2010年の同協会の調査では43.6億ファイルもの音楽や映像が、動画共有サイトP2Pファイル共有ソフトなどを介して、不正にダウンロードされていると推測。この違法ファイルの氾濫により、音楽業界は大ダメージを受けていると主張する。

不正なものを入手することに対する罰則ということで、今回の違法ダウンロード刑罰化の導入は自然な流れとも思えるが、一方でグレーな部分も存在する。

それは、ユーザーがアップロードされた音楽や動画が“違法なもの”と知らなかった場合、罰則の対象外とされている点だ。違法ファイルをダウンロードすることが刑罰の対象になるのではなく、“違法と知っていながらダウンロードする”ことが罰則の対象となるのだ。

違法合法の判別には「エルマーク」が用いられるが、実はiTunes Storeにも、現時点でこのマークはついていない。もちろんiTunes Store日本レコード協会は合意しているので、ダウンロードしても違法ではない。

現状では大手サイトでさえ、この状態である。10月1日以降、違法だったと「知っている、知らない」を、はたしてどのように立証するのだろうか? 今回の改正を見る限り、その答えはどこにも書いていない。

普通に考えれば違法ダウンロードをしたユーザーを警察が取り調べ、そのユーザーが「知っていました」と“自白”することで、犯罪が認定される、という流れだろう。つまり、違法ダウンロードをした人はすべからく“容疑者”として扱われるのだ。

興味深いデータがある。オリコンが今年の2月に中高生から40代まで1000人に行なったアンケートによると「ダウンロード違法化」を知っている人は56%と驚くほど少なかったのだ。

この問題に詳しいコラムニストの小寺信良氏はこう語る。

ダウンロード違法化を知らない国民の多くは中高生です。彼らは、違法化について学ぶ機会がありません。当然、刑罰化についても知らないでしょう。刑罰の導入は、そうした子供たちを教育する機会もなく警察が容疑者として取り調べるということになります」

政府は、「違法ダウンロード」について2008年から広報番組を制作したり、ポスターを小中学校に配布するといった宣伝活動をしてきた。アニメ番組や映画館などで「違法ダウンロード」について知った人も少なくないだろう。しかし、結果的に“国民の常識”にはまだなっていない。

そんな状況で、重い罰則を設けるのは拙速ではないだろうか。法律施行後、多くの子供たちが“容疑者”として取調べを受けることにならなければいいが。

(取材/昼間たかし