9月10日に放送された『岡田斗司夫ゼミ』では、『異世界はスマートフォンとともに。』に代表される「異世界」をテーマにした「なろう系作品」について岡田斗司夫氏が解説しました。

 「今の異世界ものは一周回って何でもあり」という岡田氏。「pixiv」や「小説家になろう」といった「なろう系投稿サイト」が台頭することによって「プロにはやりにくく、アマチュアにとっては天国なのか地獄なのかわからない時代になる。間違いなく言えるのは、受け取る側にとっては良い時代になってしまう」と語ります。

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異世界ものは「何でもあり」な自由な世界

岡田:
 ということで、今回は「異世界転生もの」について考えてみようと思います。

岡田:
 『異世界はスマートフォンとともに。』の源流になってるのが、『小説家になろう』というサイトをはじめとする、所謂小説を書いてアップする「なろうサイト」です。「なろうサイト」は、実は僕も最近よく見てるんですよ。もう自分でも投稿しようかと思ってるくらいですね。ただ、僕が思いつくようなタイトルは全て、すでに存在してるんですよ。

 例えば、異世界に転生したらそこは医療が遅れていて、自分はブラックジャックだったらどうなるだろうかと思って「異世界」「ブラックジャック」で検索したら、もういきなり『異世界医療は専門外です』っていうやつがヒットするんです。

 29歳の呼吸器内科医の渡瀬は、救急当局中に病院ごと異世界に転生してしまう。そこはささいな怪我や軽い病気でも死に至りうる、医療が未だに未発達な世界だった。現代医療の知識と経験を駆使して、異世界に革命を起こす。っていうやつで、「あるんだ!」って思ったんですよね。もう、今は異世界って、一周回って何でもありなんですよ。

 ごく普通のことを異世界でやったら滅茶苦茶面白いっていう『異世界食堂』とかはそういうものなんですけども、もうちょっと細かく話していきますね。

岡田:
 例えば、まだアニメになってないんですけども、『異世界居酒屋「のぶ」』っていうものがあります。異世界で居酒屋を開くやつで、これはすごいです。1巻から4巻まで出てるんですけど、未だになんで異世界に行ったかという説明が全くないし、これからもするつもりがないんですよ。この思い切った感じ。

 大体のものは神様が出てきて、間違って殺してしまった、といった設定があるのですが、そういう説明すらもなくしてしまって、純粋にただのグルメ漫画をやっているんですよ。『異世界食堂「のぶ」』の第1巻に出てくるナポリタンのシーンがあるんですけど、税金を取り立てる冷たいオッサンが、まかないのナポリタンを食べて感動し、「背伸びをしたすっぱさと切なさの味」とか「ああ美味しかったナポリタン」とか言って。ホントにただのグルメ漫画ですよね。

岡田:
 このただのグルメ漫画を、ドイツっぽい異世界で延々やっているのですが、これが今の「異世界もの」の傾向なんですよ。グルメ漫画で異世界ものというのは、それまでもあったはあったんですけど、もうちょっと、他に要素があったんですよ。

 例えば、僕が好きな『マリー・アントワネットの料理人』という漫画があるんですけど。

岡田:
 『マリー・アントワネットの料理人』というのは、かつて田沼意次に仕えた磯部小次郎という料理人が、田沼意次が失脚した印旛沼工事の時に、磯部小次郎も料理人の座を追われて、オーストリアまで逃げるんです。その時にマリー・アントワネットの料理人として一緒について、フランスまで嫁に行った、という話でですね。

 マリー・アントワネットの料理人として、次々と政治的な問題を料理で解決するというもので、例えば、スペインが国境線を変え、メノルカ島の領地を決めるのにあたって、「我がスペインが誇るマヨネーズという秘密のソースで戦ってみるか」という話しなんですが、スペインが秘密兵器のマヨネーズを出したら、こちら側はそれに負けじとタルタルソースを作って返すというので、スペインは「フランスにしてやられたかあ」と言って、マリー・アントワネットは一安心するという。

 その他にも、フランスの一番大嫌いな、イギリスから独立しようとしている植民国アメリカが、独立しようとしている時に「彼等を励ますために、労働者のための食べ物を作ればいいんです」と。「アメリカと国というのは、労働者の国です!我がアメリカの食材を使った真のアメリカの料理にふさわしい」ということで、ハンバーガーを発明してしまう、っていう話ですね。

岡田:
 変なんですけど、これが所謂異世界料理もののかつての形だったんですよ、プロの漫画家が描くっていうのは、大体こういう風な漫画だった。もう『異世界居酒屋「のぶ」』は、うんちくみたいなものは全部削って、「ナポリタン美味しいよね」とか「湯豆腐美味しいよね」とかいうものだけで、異世界でやっているのを見たら、本当に一周周って、「異世界ものって何でもありになったんだな」という風に思いました。

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