日本人は集団主義という通説は誤り、とする研究結果が、突如ツイッターで話題になっている。拡散されているリンクは2008年に東京大学プレスリリースとして掲載したもの。認知心理学者の高野陽太郎教授の研究だ。

高野教授は「個性が乏しい」「同調圧力に影響されやすい」といった日本人論が客観的な根拠に基づかないことにかねてから疑問を抱いており、2008年、心理学言語学、教育学、経済学それぞれの分野から「日本人は欧米人より集団主義」との言説が否定され得るとの研究結果を明らかにした。

日本社会特有と言われていた「いじめ」は欧米でも発生している

心理学の分野では、同調行動や協調行動等に関する日米比較の研究22件を調べた。その結果、日本人とアメリカ人で明確な差はないと報告していた研究が16件、通説とは逆に「アメリカ人の方が日本人より集団主義的」という結果を報告していた研究が5件と、学問全体として「日本人は集団主義的、アメリカ人は個人主義的」説を支持していないと指摘した。

教育学分野では、近年の実証的な研究を通覧。集団主義的な日本社会特有の現象と言われていた「いじめ」は個人主義と言われる欧米でも起こっていて、発生率も日本より低いとは言えないため、「いじめ」を日本人の集団主義の証拠とは見なせないと結論付けた。

日本人の通説を考える上で言われがちな、かつて集団主義だった日本人が占領でアメリカナイズされて個人主義的になった、との見方も妥当ではないと主張する。文献調査から、戦前も開国前も、日本人が個人主義的に行動した事例が多く見つかったという。

思想史の調査からは、「日本人は集団主義的」との言説は欧米人、特にアメリカ人が言い出したことや、彼ら彼女らが必ずしも日本人について豊富な知識があったわけではなかったことを明らかにした。

通説が信じられる背景には「歴史的な状況と普遍的な思考のバイアス」がある

それでも「日本人は集団主義」が通説になったのは、第二次世界大戦後に米国で出版され、日本を含む海外でも広く読まれた『菊と刀』の影響が大きいとされている。作者の文化人類学者、ルース・ベネディクトは、大戦中に日本人が取った集団行動を国民性によるものとした。しかし高野教授は、日本人の集団行動も脅威にさらされた人間集団がとる普遍的な行動に過ぎないと指摘。人間の行動理由がその人内部にあると解釈してしまう認知の歪み「対応バイアス」の影響で誤解したのではないかと推測する。

しかし、当時『菊と刀』を読んだ日本人は自らの大戦での様子を思い起こし、書籍の指摘をもっともだと受け入れてしまった可能性があるという。リリースではこれらを総括し、

「通説が広く信じられているという現状は、決してこの説が正しいことを証明しているわけではなく、歴史的な状況と普遍的な思考のバイアスによって充分に説明がつくことなのである」

と記載されていた。

リリースの掲載は2008年だったが、今年8月、高野教授が現代ビジネスに記載した記事をきっかけに再度注目が集まったようだ。

ネットでは「(日本人は)むしろわざわざ『和をもって貴しとなす』といちいち言わん限り得手勝手なことばかりする連中、と解したほうがよい」など、研究結果に納得する人もいる一方で、「日本の有給休暇取得率が低いのは集団主義の現れなのでは?」と、疑問の声も出ていた。