リーガルハイ」シリーズ(2012年ほかフジ系)や「フラジャイル」(2016年フジ系)など、話題のドラマを多数手掛けてきた共同テレビのドラマディレクター・石川淳一氏。「リーガルハイ」、「デート~恋とはどんなものかしら~」(2015年フジ系)、そして彼の映画監督デビュー作「エイプリルフールズ」(2015年)に続き、人気脚本家・古沢良太氏との強力タッグでおくる最新映画「ミックス。」が公開されたばかりの石川監督が、自身のキャリアを振り返りながら、演出家としてのこだわりや今後の展望を語ってくれた。

2001年「ココだけの話」(テレビ朝日系)でドラマ初演出。以降、多数のヒットドラマを手掛けてきた石川淳一氏

■ 「任侠ヘルパー」は実はかなりハードな内容。すごく思い入れのある作品です

――石川監督が、ドラマの作り手として初めて携わった作品は?

「スケジュール管理の仕事を担当しながら、ちょこちょこ演出もさせてもらってはいたんですが、ほぼチーフ監督という立場で初めてやらせてもらったのは『嬢王』(2005年テレビ東京系)ですね。テレビ東京の深夜ドラマ枠(「ドラマ24」)の最初の作品だったので、割と何でもやれる土壌があって。共同テレビがやる以上、単純なお色気番組ではなくドラマ部分も重視していこうという流れもありつつ、セクシー路線も若さに任せて(笑)、けっこうギリギリまで攻めてましたね。すごく楽しんでやってました」

――その後、数々のテレビドラマを手掛けられましたが、ターニングポイントとなった作品は?

「最近だと、やはり『リーガルハイ』ですね。あれは、いろんな巡り合わせでうまくいったドラマだと思うんです。古沢良太さんの台本ももちろん面白かったし、僕自身も、スピード感のある演出を極めたいと思っていた時期で。堺雅人さんも、あの時期だったからこそ、古美門研介というキャラクターを作ることができたんじゃないかと思うんですよ。違うタイミングだったら、古美門は全然別のキャラクターになっていたような気がします。

また、ターニングポイントというのとはちょっと違うかもしれませんが、個人的に忘れがたいのが『任侠ヘルパー』(2009年フジ系)。企画の段階ではコメディーということだったので、当時『メイちゃんの執事』(2009年フジ系)を撮っていたこともあって、コメディーの演出ができるディレクターとして僕も参加することになった。ところが、いざふたを開けてみたら、チーフ監督の西谷弘さんが撮った第1話が、なかなかハードな内容で。僕も実はハードなものはけっこう好きなので、かなり気合を入れて臨みました。すごく思い入れのある作品ですね」

――その一方で、コメディーが得意だというご自覚もあるわけですよね?

「いや、“できる”というだけで、決して“得意”だとは思っていません。コメディーで100点満点だと思えるものを作るのは至難の業で、こうしたら絶対に笑ってもらえるという演出法なんてものはないですからね。かと思えば、自分ではコメディーの匂いが感じ取れるくらいのつもりで撮ったシーンを、面白がってくれてる人がいたりして。コメディーに限ったことではないのかもしれませんが、万人に受けるものを作るのって本当に難しいんですよね」

――石川監督が影響を受けたコメディー作品はありますか?

「助監督を務めていた『ショムニ』(1998年ほかフジ系)からは、相当影響を受けていると思います。『あのとき、こんな感じでやってたな』なんて、当時の現場を思い出して参考にさせてもらったり、『今だったら、ここをもうちょっと進化させて…』という風に、そこにオリジナルのアイデアを取り入れたり。いずれにしろ、『ショムニ』の経験がベースになっている感じはありますね」

■ 僕が生涯で一番好きなドラマは「鈴木先生」。あまりの出来の良さに泣けました

――最新映画「ミックス。」も、“ロマンティックコメディー”ということで笑いの要素も満載ですが、石川監督にとって、脚本家の古沢良太さんとの出会いも大きかったのでは?

「そうですね、『リーガルハイ』で初めて古沢さんの作品の演出を務めさせてもらって、それ以降、古沢さんのテレビ作品は半分以上やらせてもらってると思うんですが、『リーガルハイ』という作品が、自分の中でも大きな自信になったことは確かです。ただ、こと『リーガルハイ』に関して言えば、他の演出家がやったら、もっと面白くなったんじゃないかなと思うこともあるんですよ。古沢さんの作品の場合、基本的には台本ありきで、そこに遊びの部分を足したり、テンションの波を作っていったり、というのが僕の仕事なんですね。台本が圧倒的に面白いから、それにパワー負けしないように上乗せしていく作業なんですが、『リーガルハイ』だけは、もしかしたら古沢さんの思い描いていたものとは違うものを乗せてしまったんじゃないかと。その不安がいまだにあるんですよ、本人には怖くて聞けてないんですけど(笑)。その意味では、今度の『ミックス。』は比較的、古沢さんの意図するところと近いものになったんじゃないかと思ってるんですけれども」

――石川監督は、古沢さんの書く脚本のどういったところに魅力を感じてらっしゃるのでしょうか。

「抽象的な言い方になりますが、展開が、いわゆるテレビドラマの流れとは明らかに違うんです。初めて台本の初稿を読むときって、どんなにベテランの作家の方が書いたものでも、『これってどうなのかな?』と思う部分が少なからずあるんですけど、古沢さんの本は、そういう違和感はほとんど感じたことがない。だから打ち合わせも実にスムーズで、僕から言うことはほとんどないんです。でもその分、ハードルは高いですよね。これが面白くなくなったら自分のせいですから。

これはたまたまなんですけど、僕の生涯で一番好きなテレビドラマが、古沢さんが脚本の『鈴木先生』(2011年テレビ東京系)なんです。第1話を見終わったとき、あまりの出来の良さに泣いちゃったんですよ。基本的には泣けるストーリーではないんだけど、出来が良すぎて泣けてきたっていう。原作の漫画も知ってたんですが、とにかくドラマとしての仕上がりが素晴らしくて。その後、『リーガルハイ』で古沢さんと一緒に仕事ができたときは本当にうれしかったし、『デート』で長谷川博己さんとご一緒できたときも感慨深いものがありましたね」

■ “引っ掛かりがあるもの”を作らないとダメだという強迫観念があるんです

――ドラマ・映画に限らず、今後どのような作品を作りたいですか?

「基本的には、笑えて泣ける話が好きなんですが、やっぱりいろんな作品にトライしてみたいですね。大林宣彦監督の尾道三部作(「転校生」[1982年]、「時をかける少女」[1983年]、「さびしんぼう」[1985年])のような、抒情的で青春感のあるものとか、自分の過去作で言うと『任侠ヘルパー』のような、ハードボイルドでありながら人間味を感じさせるものとか。いずれにしろ、敷居の低さは保ちつつ、見る人の心にガツンと残るようなものを作っていきたいなと。今のご時世、ならされたものというか、万人受けする作品が求められがちじゃないですか。そんな中で、『僕たちがやりました』(2017年フジ系)や、『ハロー張りネズミ』(2017年TBS系)みたいなドラマが出てくるのは素晴らしいことだと思うんです。ああいう作り手の気概が感じられるような作品を、自分も作りたいと思いますね。

あと、最近よく思うのは、今はインターネット配信なんかも出てきて、たくさんの作品が簡単に見られるようになってますよね。海外ドラマもすぐに見られるし、YouTubeなんて、一般の方が映像作家になれてしまうわけでしょう。そんな風に映像作品があふれる中で、自分が作品を作るときは、どこか引っ掛かりがあるものにしないとダメだという、ある種の強迫観念があって。でないと、一度見ただけですぐに忘れられちゃうんじゃないかって(笑)」

いしかわ・じゅんいち=1971年12月31日生まれ、山梨県出身