万引きなどを繰り返す「窃盗症(クレプトマニア)」の加害者家族に焦点を当てた講演会が10月19日、様々な依存症問題に携わる東京都大田区の大森榎本クリニックで開かれた。

講演会には、加害者家族支援を行うNPO法人「ワールドオープンハート(WOH)」代表の阿部恭子さんが登壇。加害者家族と関わってきた経験から、「ステレオタイプの加害者家族像を壊すことが大事だ」と話した。

●加害者家族支援の活動を始めたきっかけ

2008年、東北大学大学院で犯罪被害者などについて研究していた阿部さん。ある時、「罪を犯した加害者の家族が自殺している」という話を耳にした。ふと疑問に思い、加害者家族がサポートを受けられる場所を探したところ、その当時は相談機関や支援団体が一つもなかった。弁護士に聞いても、「情状証人として家族と会うことはあっても、どんなことで困っているかというのは把握していない」と言われた。

「加害者家族の存在が二の次になり、忘れられているという状態だった」。

アメリカやイギリスなど海外の支援団体を参考にしながら2008年、加害者家族支援の活動を手探りでスタート。加害者家族と関わった数は現在までに1000件を超えた。24時間対応のホットラインの他、2か月に1回、加害者家族の集いを仙台、東京、大阪で開催している。

●相談は「殺人事件」関連が最多

加害者家族からの相談は、家族が逮捕された前後の捜査段階の時期が最も多いという。

「電話相談の時点で、その家族の状況から具体的に生きていく術を見つけ出してあげなければならない。慰めや気休めではダメ」。

弁護士は国選のままか私選か、弁護士費用はどのくらいかかるのか、マスコミに報道されるのか、転居しなければいけないのかーー。こうした相談に一つずつ答え、被害弁償や損害賠償などお金の問題についても計画を立てていく。

どんな事件の加害者家族と関わることが多いのか。最も多いのは「殺人事件」にまつわる加害者家族だ。その数は100件を超え、世間を騒がしている真っ最中の事件が半分を占める。相談は、死刑執行されたり、獄死していたりする加害者の子孫からもあり、重大事件であるほど世代をまたいで悩みが続いているという。

「みなさんごく普通の家庭です。大家族や母子家庭、父子家庭、兄弟のいるいない、田舎も都会もある。つまり定義できない。どんな人でもどんなところでも犯罪は起きてしまうというのが、本当の姿なのではないか」。

●住民の怒りが直接加害者家族に

窃盗罪や盗癖についての家族からの相談も、詐欺や強制わいせつ事件についで多い。阿部さんが関わったある東北地方の窃盗事件では、加害者が地域の中で犯行を繰り返していた。逮捕をきっかけに余罪が次々と明るみになり、新聞報道で逮捕を知った被害者が加害者家族の元に押し寄せたという。

「地方では地域の人が皆知り合いで、被害者も加害者もお互いに身近にいます。本人は逮捕されれば拘留されるが、家族はそのまま。犯罪が繰り返された場合には、『反省していないのでないか』と住民の怒りが直接的に家族に向かう」。

住民の流れがあまり変わらない地方においては、家族はより肩身の狭い思いをすることになる。可能であれば都会の方に転居するが、農業を家業にしているなど土地を離れて暮らすことが難しいケースもある。

また、窃盗罪の場合、逮捕の一報は報じられても、軽微な事案であれば裁判までは報道されない。

「戻ってきて同じことを繰り返されるのではないか。もっと悪いことを繰り返すのではないか」。逮捕以降どうなったか分からず疑念が膨らんでいる住民に対し、「本人だけ治療入院させるので、なんとか許していただけないでしょうか」と地域に出向いて話したこともある。

「なぜ家族が責任を取らないのか」「これくらいの弁償額払えるでしょう」。軽微な犯罪であればあるほど、家族が責任を肩代わりすることは当たり前だといった風潮が強まっていくという。

家族も「育て方が悪かった」という自責の念があるために、突っぱねることができない。お金を請求された通りに払っているうちに、家族自体も壊れていく。こうした悪循環について阿部さんは、「家族が追い込まれても、本人が立ち直る訳ではない。この理屈をいかに多くの人に理解してもらい、説明できるかが私たちの課題」と話した。

(弁護士ドットコムニュース)

窃盗症、追い詰められる加害者家族「なぜ責任取らないのか」「弁償できるでしょ」