目が回るようなめまい、耳鳴り、難聴…。こうした症状が長期間続いたり、症状が重かったりする場合、メニエール病の可能性があります。メニエール病ははっきりとした原因が分かっておらず、似た症状をもつ病気が多いため診断が難しい病気です。今回は横浜中央クリニックめまいメニエール病センターの高橋正紘(まさひろ)センター長に、メニエール病の具体的な症状、原因、関連疾患の症状、対処法について解説していただきました。
メニエール病の症状
メニエール病は30~40代の人が多く発症する病気で、目が回って立っていられない、ひどい耳鳴り、耳が塞がった感じがするなどの症状が現れます。ここではメニエール病の具体的な症状について説明していきます。
回転性めまい
メニエール病になると、「回転性めまい」という自分の周囲の物が動いたり回転したりするような感覚におちいる症状が繰り返し出ます。
難聴
めまいとともに、低い音が聞きづらくなる「低音難聴」という症状が出るケースがよくあります。
耳鳴り
周囲に音がないのに、低い音や高い音が聞こえる症状です。
耳の閉塞感
耳が詰まったような感覚、あるいは圧迫されるような感覚になる症状です。
嘔吐
めまいの症状が出ると、脳の嘔吐中枢が刺激され、吐き気をもよおしてしまいます。
メニエール病の原因
メニエール病の原因は未だ明らかになっていませんが、ストレスと関係があることはわかっています。ここではメニエール病のメカニズムや原因を解説します。
メニエール病のメカニズム
耳は、「外耳」「中耳」「内耳」と奥に向かって深い構造になっています。内耳の内部は、骨で囲まれた「骨迷路(こつめいろ)」のなかに、膜で囲まれた「膜迷路(まくめいろ)」と呼ばれる空間が入った二重構造になっています。
骨迷路は外リンパ液、膜迷路は内リンパ液という液体で満たされています。この内リンパ液が過剰に溜まってしまった状態を「内リンパ水腫」と呼びます。メニエール病はこの内リンパ水腫が耳の内部を圧迫し、めまいや耳の閉塞感の症状を引き起しているものと考えられています。
内リンパ水腫の原因となる内リンパ液の過剰分泌は、ストレスが発症のきっかけになることがあります。
メニエール病とストレスの関係性
メニエール病になりやすい人は、以下の行動をとる人が多いことが分かっています。
- 周囲の目が気になる
- 親や上司の期待に沿うように努める
- 嫌なことがあっても我慢する
- 取り掛かる前に、いろいろ心配する方である
- 徹底的にやらないと気が済まない
- 仕事その他に熱中しやすい
- 勝気である
- イライラするなど怒りやすい
- 休んで何もしないと、気持ちが落ち着かない
メニエール病になりやすい人は、自分を抑えて、他人に負けまいと何事にも全力を尽くそうとします。また、周囲の感謝や評価を通して満足を得る傾向が強く、我慢して頑張っても期待した反応が得られない場合、ストレスにつながり、身体症状を誘発すると考えられます。
最新の集計(横浜中央クリニックめまいメニエール病センター調べ、患者数は1276人)によると、メニエール病を発症させる要因の上位は、男性では多忙、職場ストレス、遅い帰宅やシフト制、職場対人ストレスです。女性では、育児や兼業の多忙、家庭内トラブル、家庭不和、職場ストレス、介護やケア、家族の病気・死などとなっています。
メニエール病と間違われやすい病気
メニエール病と同じように、めまいや難聴を引き起こす病気は数多くあります。そのためめまいや難聴が起きた場合でも、すぐにメニエール病だとは断定できません。ここではメニエール病と似た症状が現れる病気を紹介します。
良性発作性頭位めまい症
内耳の中にあるバランス感覚にとって重要な役割を果たす耳石(じせき)という小さな炭酸カルシウムの結晶が、姿勢の変化などで三半規管に入ってしまうことが原因で起こる病気です。メニエール病と同じように回転性めまいが起き、耳の閉塞感、耳鳴り、音が響く・割れる、難聴、耳の痛みなどを伴います。診断基準の一項目に、耳症状がないということが記載されているため、メニエール病と誤診されるケースがきわめて多くなっています。
突発性難聴
急激に耳の聞こえが悪くなるという特徴があります。メニエール病はめまいが反復し、次第に難聴が進行していきますが、突発性難聴の場合は原則的には症状がでるのは1回だけで、反復することはありません。
真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)
真珠腫と呼ばれる球状に増殖した上皮組織ができ、血や膿の混じった耳ダレが出たり、ひどい場合には耳の内部の骨が破壊されたりすることがあります。真珠腫が進行し、内耳に及ぶと内耳炎も同時に起こり、激しいめまいと難聴を引き起こされます。
聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)
徐々に耳鳴りや難聴が進む病気です。内耳から脳に至る神経の一部に腫瘍ができ、耳から脳に音の情報をうまく伝えることができなくなってしまいます。MRI検査をすることで、神経にできた腫瘍を容易に特定できます。
脳血管障害
小脳のある部分に出血や梗塞が起きることで、めまいにとどまらず、まひが起きる、話しづらくなる、食べ物を飲み込みづらくなる、起立や歩行の障害など、複数の症状が現れます。原因は動静脈奇形の破裂や血管の老化(動脈硬化)によるものです。
メニエール病の対処法
メニエール病は似た症状の病気が多いため、信頼できる専門医にかかり、正しい診断を受けることが大切です。同時にストレスが発症のきっかけとなる病気なので、職場や家庭内のストレス源を特定し、心労を軽減することが重要です。ここでは生活習慣を見直し、症状の改善、進行を予防する方法を紹介します。
長時間労働を避けリラックスする時間をつくる
メニエール病になる人は我慢をし過ぎたりや頑張り過ぎてしまうため、長時間労働をする傾向があります。長時間労働はストレスの原因となるため、週に2日程度を目安に、早めに帰る日をつくり、リラックスする時間をつくることが重要です。
ストレスは溜めずに発散する
ストレス発散のために、友人とおしゃべり、会食をする、歌を歌う、趣味を実践する、旅行するなどを心がけましょう。映画を見る、音楽を聴くなど受動的なものよりも、話す、歌う、物を作るなど能動的なものが効果的です。
なるべく毎日運動するよう心がける
時間が取れる人は1時間20分くらい、少し息の上がる程度の有酸素運動を実践することがメニエール病には効果的です。具体的には、野外の速歩、エアロバイク、ランニングマシーン、水泳、水中歩行、エアロビクスダンスなどです。そこまで時間が確保できない人でも同様の運動を毎日30分程度行いましょう。
<参照>
「薬も手術もいらないめ まい・メニエール病治療」高橋正紘著 (KADOKAWA)
「ハリソン内科学第5版」デニス・L・カスパーほか編・福井次矢ほか監修(メディカル・サイエンス・インターナショナル)
photo:Getty Images
コメント