9月カナダトロントで開催されるトロン映画祭の観客賞受賞作は、2008年ダニー・ボイル監督『スラムドッグ$ミリオネア』を皮切りに、9年間で3作がアカデミー最優秀作品賞にき、5作が作品賞にノミネートされている(残りの1作はアメリカ開がされず、考慮資格を満たしていない)。

【写真を見る】作品世界へのイメージが膨らむ町山智浩氏のトークショーの模様はこちらから!

そしてその8作すべてが監督賞の補にも挙がるとなれば、必然的に今年受賞したマーティン・マクドナー監督の『スリー・ビルボード』は、現地時間の来年3月4日に授賞式が行われる第90回のアカデミー賞役をることはほぼ間違いない。

11月10日の全開を前に、現在開催中の第30東京映画祭で特別招待作品としていち日本にお見えした本作は、最初から最後まで一貫してトーンを崩さない端正なシナリオと、演を務めるフランシスマクドーマンドの『ファーゴ』(96)をえるほどの怪演に、を固める名優たちが追随。まさに2017年を代表する驚異的な一本であった。

上映の前後には映画評論家町山智浩氏が登壇し、本作の解説を行なった。そこで彼が言ったように、本作は多くを知らずに観るほうがいい作品である。しかしながら、観終わると必ず多くをりたくなるのだが、それをうまく言葉にすることが難しいほど、掴みどころのない作品でもある。本稿では、町山氏のトークショーを踏まえながら、極作品の根幹に触れないようにレビューすることを心がけようと思う。

レイプされ殺された一人の女性ミルレッドが、町外れの大きな3枚のビルボード(ロードサイドに立てられている大きな看のことである)に、まったく捜を進展させない警察へ宛てたメッセージ広告を掲載するところから物語が始まる。小さな町エビングの人々は、その看で標的に挙げられている警察署長・ウィロビーに厚い信頼を置いていて、看の存在がミルレッドをはじめ町全体を揺るがし始めるのだ。

本作で、実に興味深く思えたのが登場人物たちの設定の構造である。小さな町を舞台にしているとはいえ、登場人物は決して多くない。それでも、そのほとんどにしっかりとしたドラマが与えられる。そして、主人公ミルレッドには息子がいて、ウィロビーには年の離れた若い妻、サム・ロックウェル演じる荒っぽい刑事ディクソンには貫溢れる、看屋の青年には同僚の女性主人公の元夫には19歳の人と、ほとんどが男女のペアを成立させている。

また、ウィロビーの妻・アンミルレッドを訪ねてくる場面で、あるきっかけで感情を抑えるアンの発言に、ミルレッドは上のの外に停められたに乗った、ウィロビーの幼い姉妹を眺める。おそらくほとんどの映画で、このようなシチュエーションに陥った主人公は自分の感情であったり、思想を相手に諭したりすることだろう。例えば「あなたのが同じに遭ったら?」というように。しかし、この映画は決してそのようなダイアローグを選ばない。

この2点が、本作をテンプレート的で庸な作品から遠ざけ、えも言われぬ冷静さを与え、確固たるスタイルを築き上げている。ここで、町山氏の上映前の解説をひとつ付け加えよう。舞台となるエビングは架の町ではあるが、その町があるミズーリ州は、アメリカのほぼ中央に位置している州である。南北戦争時には、州内で南北に分断された、哀しい歴史を持った州なのである。

登場人物たちの組み合わせは、性別的・年齢的にも対照的でありながら、同じ方向を向くときは向き、ときにはぶつかり合い、助け合い、従い、あらゆる感情を分かち合う。そして、自己と他者を全に独立したものだと、自然と認識し合っている。利己的で、感情的なドラマでありながらも、自然と登場人物たちは、自己を理解してもらうために他者を受け入れていく。

もっと大きな視点で言うならば、を殺された主人公被害者であり、捜怠慢差別的思考を持った警察という組織が加者という構図が、序盤にこそありながら、たった2時間も物語の中で、その垣根が等化されていく。ひとりとして正義ではなく、そして悪でもない。ただひたすらに、感情で突き動かされる、人間くささを見せつづけるだけなのである。

劇中には、映画フリークとして知られるマクドナー監督らしい、様々な映画オマージュげられる。下手なことを言えば、勘のいい人は気が付いてしまうだろうが、上映後のトークで町山氏が言及したようにオリヴァー・ストーン監督の『プラトーン』(86)が、非常に面オマージュげられ方をしていたり、テレビの中に音だけで登場するニコラス・ローグ監督の『い影』(73)も密かに作品の効果を高める。

また、劇中に台詞として登場する数々のエピソードは、実際にアメリカ社会を揺るがした事件を示しており、それをイギリス監督が手がけたというのも、本作への関心を高めるひとつの要因になっているのだと、町山氏は分析した。たしかに、トランプ政権の誕生により、アメリカ社会差別意識が高まり、社会全体が分断されることがたびたび危惧されている昨今。そこにきて、映画界ではかの大物プロデューサーに端を発する性差別性犯罪の問題が頻出。

あらゆる差別意識を否定し、リベラルな姿勢を貫き、そして性犯罪っ向から立ち向かっていく主人公の姿。この『スリー・ビルボード』は、2017年だけでなく、この時代を徴する一種のスタンダードとしてり継がれていく作品になるかもしれない。本作は、来年2月1日(木)より全開となる。【取材・文/久保田

特別招待作品として日本初上映となった『スリー・ビルボード』