NHK提供する無料動画コンテンツNHK1.5チャンネル」では、NHK過去に放送した番組の“オイシイところ”を、“オイシイかたちで”見られるような役に立つ動画独自のWEBサイトFacebookなどから配信している。

【写真を見る】アニメーションに突然差し込まれる実写映像がシュールさを強調させている

そんなコンテンツに携わる「NHK1.5ch編集部」の編集長・小国士朗氏と、「ガッテン!」(毎週水曜7:30-8:15、NHK総合)などの科学環境番組を担当する長谷英里子氏に取材を敢行。第2弾となる今回は、SNSで「カオス過ぎる」と話題をさらった「ガツ&テンのガッテン!」アニメ誕生について、そしてコンテンツとして今後挑戦していきたいことなどを聞いた。

■ 番組と伝えていることは一緒。でもなぜこんなことに?

――「ガツ&テンのガッテン!簡単 おしり体操で すっきり快尿!」に衝撃を受けて、今回インタビューをお願いしたんですが、“NHKらしくない”というか、「ガッテン!」らしくない、この動画はなぜ生まれたんですか?

小国:初っ端から「く放尿して~よ~」って言ってますからね(笑)

長谷:そうですね(笑)。でも、伝えていることは「ガッテン!」と同じことなんですよ。例えば動画の中に「哺乳類おしっこの時間は21なんです」と言っている部分は、番組のオンエアの中では模型を使って説明していますし、体操も、医師の方が解説していました。

動画の中では面くなっていますけど、エッセンスは一緒なんですよ。「1.5チャンネル」が始まった当初から「ガッテン!」は取り上げよう決めていた番組だったので、どの回だったら「イジってもいいかな?」ということを番組班と話していたんです。

その「イジってもいい」というのは、“問題がないか”ということではなくて、“面くできるんじゃないだろうか”ということですよ? 

その話し合いを基に、リストを作って制作会社さんにお渡ししました。その後あがってきた絵コンテを番組ディレクターにしっかり見てもらって、尿の太さや長さについてなど、見ている人に誤解を招きかねないことに関する部分はすごくチェックするんです。でも、創作する方々には自由に作っていただきました。

――最初にあがってきた絵コンテを見た時にはどう思いましたか?

長谷:「おぉ~こうきたか」と思いましたね(笑)。みんなに“大ウケ”しました。

小国:もう爆笑でしたよね。

長谷絵コンテを見た時も爆笑でしたし、プロトタイプ動画を見た時にも大笑いしました。この番組の放送自体はかなり前だったので、放送時に出ていた「今治タオル体操好会の方々の映像を使うために許可を取らなきゃいけなかったんです。

でも番組ディレクターが、すごくちゃんと「今治タオル体操好会」の方と関係を保っていたので、電話1本で使用の許可が出て。「ガッテン!」は、そのアニメもそうですし、動画(「『足裏拭き』でに刺されにくくなる!?」)もヒットしたので、番組内でも「1.5チャンネル」の動画を紹介するコーナーオンエアしたんです。それもあって、「1.5ch」が、番組で取り上げたことを追加取材する機会にもつながったりして、放送とコンテンツが行ったり来たりして発展していくもできました。

スベったりもしたけれど、私はげんきです。

――「“NHKらしくない”ものをしたらダメだった」ともおっしゃっていましたが、「ガッテン!アニメ」以外はどうだったんですか?

小国スベりまくりでしたね(笑)。「ガッテン!アニメ」はいいんですけど、パロディーの方とか全然ダメでしたね。

長谷:「ガツ的ビフォーアフター」っていう、他局の番組のパロディー作ってみたんですよ(笑)

小国:番組の中で、たとえば「冷え性が劇的善!」みたいな“ビフォーアフター”を見せる演出が結構多かったので「劇的で、ビフォーアフターね…」ときたらアレだよなと。ガッテンアニメ人気が出てたし、じゃあアレオマージュってことで「ガツ的でいいじゃん!」と思って作ってみたんですけど、まぁ~再生回数が伸びなかったですね。

Facebookではほとんど本編に入る前に再生を止めてしまう方が多くて。“3の離脱と10”っていうものがあるんですけど、3もたなかったんです。

「何でこんなに伸びないんだろう」って分析した時に、「結論がなかなか出てこない」というところが問題だったとわかって。たちはどうしてもテレビ番組の作り方が身にしみついているから、どうしても番組タイトルコーナータイトルを出してスタートしたくなる。

だから、「これは『ガツ的ビフォーアフター』です」ということを明示しないといけないという強迫観念にとらわれていて、結構な尺を使ってオープニングアニメーションをつけていたんです。でも、それがいらなかったんですよね。「いいから、さっさと結論から言ってくれない?」と思われてしまうみたいで。

長谷:最後まで引っって発表するのが、“テレビの文法”なので、結論を引っりがちなんですよね。

小国:すごくスベった記憶として残っていますね…。たちも自分がユーザーの時はそういうふうに思って見ているのに、どうしても作り手になると忘れがちなので、逆にトライしてみて良かったです。番組班には申し訳なかったですけど(苦笑)。

長谷:「きょうの料理」(毎週木曜9:00-9:25NHK Eテレ)の動画(「料理助手かんべさんの0.5品」)でも、余った食材を使った料理動画なので、最初に余っちゃった半分のネギなどの材料を見せてから作り方を説明したんですけど、これが要らなかったんですよね。最初においしそうな完成品がないと、人は見ないんだなと。

――編集部員の方々は、全員テレビ制作をしているんですよね?

長谷:そうです。みんな専業ではないんです。テレビ番組の制作をしながら、兼業でやっています。

小国:みんな普通ディレクターデスク業務をやっていたので、ネットのことも全然分からなかったんです。

■ 変な演出、やめました

――もともと「“NHKらしくない”ものを作ってください」というオーダーもあったんですか?

小国:いや、そういうことは言われていなかったです。ただ、NHK全体の課題として、「若い世代に番組の情報・価値を届ける」ということがあり、デジタルコンテンツではそれが特に強くめられていたんです。

でも、そもそもデジタル世界の文法がわからないし、若い世代のニーズもつかみあぐねている。だから、分かんないなりに、制作会社さんの知見をもらったり、いろんなことをトライアンエラーしながら作ったりしましたね。最初は失敗しかなかったですけどね…。

だから、どういうものが受けるというポイントが分かるまでにはすごく時間もかかりました。

長谷:ただ、ダメなものはすぐ分かるので、すぐにやり方やパターンを変えればいいので、それはネットのいい部分ですね。「あ、これ理だ」っていうことが分かれば、それをやめちゃえばいいだけなので。

小国:だから「ガツ的ビフォーアフター」はもうやってないですよ。他にも「爆速ガッテン」とかも…。そういう変な演出はもうやめました。ちなみに、どちらもが考えた演出だったんですけど、大反ですね。やっぱり料理と同じで、素材がいいんだったら、あまり余計なことはしないで、お皿に並べた方がいい場合もある。いろいろやったけど、刺身が一番うまい!ってことがあるように。

――アニメ制作しているクリエティユニットAC部も、基になる番組は確認しているんですか?

長谷はい。過去の放送はもちろん見ていただいています。

――その上でこういう仕上がりになるんですね…!

長谷:そうそう(笑)ディレクターは1回の放送を数カかけて作っているので、こういう、番組の方向とは違うものを発想するのは難しいんですよね。この動画はなかなか思いつかないと思います。

――ネット上では、AC部の存在を知っている人が動画を見ることも多かったと思います。そういう、ファンからのコンテンツへの流入も意識するんですか?

長谷:そうですね。例えば、「コズミックフロントNEXT」(毎週木曜10:00-11:00、NHK BSプレミアム)の動画での、神木隆之介さんや菊池亜希子さんの起用は、彼らがネット上にファンが多いからというのも、理由の1つでしたし。でも、それだけじゃないんですよね。

小国:そうですね。もちろんそれは意識することなんですけど、そこに依存するとまずいなって思っています。

毎回タレントさんが出演してくれれば、再生回数も伸びるとは思いますが、そうしていると、特定タレントさんのファンの方が見るメディアになってしまって、それ以外の人には関係なくなっちゃうリスクがありますよね。

だから、大事にしているのは、日常的にはコツコツと更新していくことだと思っています。

これは制作会社さんが教えてくれたんですけど、“バントヒット法則”っていって、ホームランのようなさはないけど、バントでもなんでも塁に出たぞっていうような“堅実な動画”をコツコツ積み重ねていくのが大切だってことなんですけど。

「それくらいの気持ちでやらないと絶対に心が折れますよ」ってアドバイスされました(笑)。だから、たちは動画の再生数がフォロワー数を10でも100でもえてくれればOKという標を立ててやっています。

そうやってコツコツ作っていくことで、「1.5chってなんか面いじゃん」とか、「役に立つじゃん」って思ってもらえるサービスになればいいなと思っています。

毎回ホームランを狙っていると、疲れてもたないんですよ。たまーにでればいい。それで、そのホームランが、「『足裏拭き』でに刺されにくくなる!?」や「ばっちゃん」の動画で打てたことがうれしかったんですよね。

どちらも有名なタレントさんが出ているわけじゃないし、NHKらしい王道コンテンツだと思うんですけど、それでホームランを打てたことがうれしかった。

長谷動画は、日本では410万回再生だったんですが、英語版NHKワールドFacebookで出したら海外では1417万回(10/30現在)再生されたんです。そういう、いろんな広がりもありましたしね。海外の反もすごかったです。

――コンテンツとしてのを蓄えるということが大切なんですね。

小国:そうですね。NHKらしいベーシックな動画がきちんと広がっていくことが「1.5ch」をやる意味なんだと思っています。

あとはバランスですよね。ベーシックなものだけでもだめですし、「ガッテン!アニメ」のように“ったコンテンツ”も必要。

1度、民的漫画を描いていらっしゃる漫画家さんが、「ガッテン!アニメ」について書いてくれたこともあったんですが、その方は、ある種の“ったコンテンツ”だから面いと思ってくださったんだと思うんですね。だから、極端なことを言えば、「ガッテン!アニメ」の再生数は全然伸びなくていいと思っています。

全部の動画がちゃんとしたベーシックなものというのも良くないし、再生数がいかなくても、「1.5ch」の存在感を強くしてくれる個性のあるコンテンツは必要ですね。

ガッテン!アニメ」はとにかく、“狂気とカオス”が足りているかどうかだけが大切にしています。

長谷:そういう個性も大事なんですよね。

――最後に、今後どのようなものを発信していきたいですか?

小国:今は、“ハウツー”や“ハートウオーミング”なものを中心にしていますが、そうじゃないジャンルを開発したいですね。

長谷:“驚き!”とかですよね。科学番組でも、ロケで“驚きの動画”ってたくさん撮れているので、それが埋もれないようにしたいんです。一回番組で使っただけではもったいないような動画をいろんな味わい方で紹介していきたいですね。

小国:そういう、感情に訴えかけるような動画ってNHKにはたくさん眠っているんです。見た人が「なんだこれ! とんでもないものが撮れているな!」と思うような画が強くて人の感情を揺さぶるようなコンテンツにチャレンジしてみたいと思っています。そういうものを、いろんな番組から開拓している最中です。

でも引き続き、「LIFE!」(不定期放送、NHK総合)などがやったように、ここでしか出来ない表現に挑戦していける場にしたいです。“守り”に入る気はないので、みんなが好きなことをできる場にしたいなと思っています。

長谷:今も、みんなが「参加させてよ!」と言ってきてくれているので、この“文化祭の前日”のようなノリをずっと保っていきたいです。

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