現金での支払いが多いうえに、領収書の発行がないことがほとんどの「ラブホテル」。一般のホテルに義務付けられている宿泊者名簿の記載もほとんど行われないため、容易に売上げの偽装ができてしまうことが懸念される。ラブホテルの脱税を税務当局はどのように見抜くのだろうか。石井彰男税理士に聞いた。

●売上除外か経費の架空計上

「2020年の東京オリンピックを控え、訪日外国人客の増加により、ホテルが不足している中、ラブホテルは規制などの影響によりその恩恵を受けていない業界として知られています。ですが、そんな中でも、大きく利益を出しているラブホテルが多いのも事実です。

また、そこに目を付けた不動産投資家が不動産投資の延長線上としてラブホテル投資を行っているという事例も多くあります。

そのような現在のラブホテル事情ですが、ラブホテルの経営者の中にはついつい脱税に手を染めてしまい、ニュースになっているケースもあります」

具体的にはどのような方法で脱税がおこなわれているのか。

ラブホテルが脱税する方法としては大きく2つ挙げられます。それは売上除外か経費の架空計上です。

風俗店、特にラブホテルにおいて多い脱税方法としては売上除外がよく用いられます。現金商売であるため、売上をごまかしやすい状況が必然的にできてしまっている点が、ラブホテルの特徴として挙げられます。

実際、国税庁が毎年、発表している『申告漏れ所得金額の上位10業種』で、毎年ランクインしている業種が風俗業関連です」

●探偵さながらの内偵

査察する側は、どのように調べるのか。

「査察側としては、売上と経費の比率に関する膨大な統計資料を持っており、その比率を見て、異常値が出ている事業者に対して調査を実施するとされており、ラブホテルも例外ではないと思われます。

具体的には、売上が増加していないのに経費だけが増えている点などに目を付けるといった点が考えられます。そうやって、内偵先の目星をつけるのですが、内偵の際は、事前に店舗に客のふりをして出向き、部屋数、稼働数、従業員数などをチェックします。

一度だけの内偵だとデータ不足のため、一日の中でも朝、昼、夕、夜などといった時間帯別で数日にわたり内偵を行うものとされています。

また、決定的な証拠を掴むため、数か月間張り付いて、内偵を行うこともあるようで、その念の入れようは正に探偵さながらだとも言われています。

それだけ行えば、平均稼働率、平均回転率などから売上の大まかな予測が可能となるためです」

ラブホテル自体にはどう踏み込むのか。

「その内偵調査のデータと申告書を見比べるなど、入念な調査の後、脱税の可能性が高く、検察庁への告発が可能との見込みが高ければ、裁判所に許可状をもらい実際にラブホテルに臨場し強制調査に入っていくわけですが、証拠として狙うのは、やはりパソコンのデータも含めた原始記録です。

原始記録とは、実際の売上や経費の記録を付けたものを指しますが、店に実際、お客様が入店した際には、その原始記録に売上が記載されます。

ですが、売上除外を行う場合は、この原始記録に記載せず処理してしまうケースが多く見られます。

少額であれば、査察側も気づかずに触れないかもしれませんが、ラブホテルは売上金額も大きいため、通常、売上除外する金額も数千万円単位となっていることが多いのです。しかも、査察調査は過去7年間まで遡って行います。ですので、単年度であれば、大した金額でなくとも7年間で合計した金額で数千万円や数億円となってしまうケースが多いでしょう。

その際、裏付けを取るため従業員への聞き取り調査も併せて行いますが、経営者が口止めしている場合もあるため、取引先への調査を行うことも査察調査では多く行われています。

つまり、リネン業者などへの調査です。

ラブホテルにおいては、売上額とリネン費用とは比例関係にありますので、査察側としてはそこを突くわけです」

●数千万円でも査察部の調査対象に

摘発後のプロセスはどうなるのか。

「近年、脱税として摘発されるケースは、3000万円くらいの脱税額でも、査察部の調査対象として調査が行われることも多く、悪質であればそのまま検察庁に告発、起訴され有罪となります。

以前は、脱税額1億円以上でないと査察部は動かないとされていましたが、今では、上記のように数千万円でも査察部の調査対象とされているようです。

その背景としては、脱税する側の手口も巧妙化しており、摘発がなかなか進まない査察部の事情もあると聞いております。つまり、査察側も毎年のノルマを達成する必要があるため、調査対象の水準を下げていると理解すればよいかと思います。

脱税と一言で言っても法人税法違反又は所得税法違反のどちらかとなるわけですが、有罪となった場合のペナルティとしては刑事罰が科せられます。具体的には、所得税法違反の場合であれば所得税法第238条、法人税法違反であれば法人税法第159条に規定がされており、両規定において『10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する』とされています。

上記に関しては、懲役と罰金について規定されていますが、これ以外に延滞税、重加算税なども払うこととなり、合計すると、概ね逋脱(脱税)額の2倍ほどになる場合が多いようです。

刑事告発されて起訴された場合の有罪率は極めて高く、ほぼ100%に近い確率で有罪となっています。また、脱税はニュースになる場合が多く、社会的制裁も加えられることになり、その後の事業に大きく影響するものと思われます。

ラブホテル業に限らず、継続して事業を行い利益が大きくなってくると、人間どうしても税金を払いたくないという気持ちになってきます。ですが、脱税するのは全く割に合わない行動で、やるべきなのは節税です。合法的な節税をしっかり行えば税額は大きく下げることが可能です」

【取材協力税理士】

石井 彰男(いしい・あきお)税理士  

経営コンサルティング業界出身のMBAホルダーの税理士大家さん。14年間の大家さん経験と独自の節税手法、いかにキャッシュフローを増やすかというノウハウで多くの大家さんたちをサポートしている。実際、「これまでで一番実践的でわかりやすい」、「こんな税理士さんにお会いできて良かった」と、多くの大家さんから好評を得る。「大家さんで幸せに起業する」「大家さんで経済的自由を達成する」をキャッチコピーに、成功する大家さんを輩出している。税務調査はもちろん、査察調査にも対応可能。

事務所名   : 会計事務所ロイズ会計

事務所URL: http://royce-acc.com/

(弁護士ドットコムニュース)

現金払い、宿泊者名簿もない「ラブホテル」の脱税、証拠をつかむための「攻防戦」