経営者にとって、「社員が自分の考えを理解し、自発的に動き売上を立て、定められた経営戦略を実行してくれる」という状態は、一つの理想だろう。会社の進むべき未来への準備をするという、経営者が本来やるべき仕事に集中できるからである。

しかし、多くの経営者はその状態を作ることができず、未来どころか現在起きている問題の対処に奔走することになる。これは特に中小企業で顕著だろう。

『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』(あさ出版刊)の著者、山元浩二さんは、経営計画を従業員と共有することで、経営者の考えが浸透する組織づくりのスキームを開発し、大きな成果を収めているコンサルタント

今回はその山元さんに、世の中小企業経営者を悩ませる問題と、その解決法についてお話をうかがった。

――『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』では、主に中小企業の経営者を対象に、経営計画を起点にした会社を成長させる仕組みづくりが解説されています。まずは、こうした層の方々が日々感じている悩みについて教えていただきたいです。

山元:一番に来るのが人材の育成ですよね、特にリーダーの育成で悩んでいる方は多いと感じます。経営者である自分と従業員をつなぐポジションの人材をいかに作るかが、成長を目指すうえで課題になりやすいんです。そして、規模の小さな会社ですと、その人材を経営者が自ら育てないといけません。

――中小企業でリーダーが育ちにくい要因はどんなところにあるのでしょうか。

山元:端的に言えば、教育していないからです。ノウハウもないし、教育できる人がいない会社も多い。

だから、リーダーシップやマネジメント、リーダーの心構えといったことを学ばないまま、仕事ができる人がなんとなくリーダーになっていく傾向があります。これが大企業と中小の決定的な違いで、大企業の多くは、新入社員の頃から教育してリーダーとしてステップアップさせていく仕組みを持っている。

教育を受けたからといっていいリーダーになれるとは限りませんが、少なくとも体験はするわけで、これが企業の生産性の違いになって表れるんです。大企業の生産性は中小の1.9倍ほどだといわれているのですが、これは持続的で計画的な教育があるかないかというところの差が大きいですね。

――そこまで生産性に差が出てしまうと、中小が大手に追いつこうと思っても難しいところがありますね。

山元:すぐには厳しいですよね。私たちが手がけている会社でも、3年から5年かかってようやく成果に結びつくことが多いです。ただ、教育を受けていないぶん、伸びしろを感じることも多くて、やればやっただけ伸びていきます。2倍、3倍と生産性を上げていく余地はあるんです。

――本のタイトルについてですが、「経営計画」と「人を育てること」は一見結びつきません。「経営計画で人を育てる」とはどういったことなのでしょうか。

山元:経営計画も何もない状態からお話をすると、まずはその立案をしたり、会社の理念やビジョンを定めたり、会社が取る戦略を決めたりと、経営計画の「中身」を作るところがスタートになります。そして、その後にそれを実行に移して成果に結びつけるステージになる。

中小企業は、それまでにリーダーの経験をしてこなかった人が少なくないのですが、経営者と一緒にそのプロセスに一から関わって、実行していくことでリーダーとして育っていくということです。最初はうまくいかなくても、試行錯誤していく現場に携わり続けることで、会社の方針や目標を理解し、それに基づいて戦略を実行できるリーダーになっていきます。

――山元さんが本の中で書いている「経営計画」にしても「経営理念」にしても、作ったはいいものの浸透しないことがあるかと思います。浸透するかしないかを分けるものは何なのでしょうか。

山元:そこは100%経営者の決意と実行力です。それしかありません。浸透するまでやりきる決意、途中でやめない意思の強さがないと従業員に伝わっていかないんです。

やったことがないことなのだから最初は浸透しなくて当たり前で、根気強くやっていくことが大切です。

――浸透するまではどれくらい時間がかかるものですか?

山元:従業員30人くらいの会社で、課長クラスのリーダーが5、6人いるような会社だと、みんな前向きに取り組んでくれるという前提であれば2、3年で十分浸透すると思います。

ただ、反発する人がいたり、途中で人が辞めて入れ替わったりすると、もう少し時間がかかることもありますね。

あとは、業種によっても浸透しやすさは変わってきます。たとえば製造業の場合、組織化の度合いが高く、仕事が製品や作業ごとに整備されている環境に慣れていることが多いので、浸透しやすいというのはいえます。
(後編につづく)

『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』の著者、山元浩二さん