上高地ランドマーク的な存在となっている木造の吊り橋「河童橋」。大正池と明神池の中間ほどに位置し、梓川の両岸をつないでいるこの橋は、芥川龍之介の小説『河童』に登場することでも有名。橋上からは穂高連峰や焼岳を望むことができ、季節によって移り変わる美しい景観を堪能できる。穂高連峰の残雪が眩しいゴールデンウィークや山々が深い緑に包まれる夏季、紅葉が広がる秋は、特に多くの観光客が訪れ、「上高地銀座」と呼ばれるほどの賑わいを見せる。

【写真を見る】『河童』の主人公は、穂高山での登山を目的に梓川をさかのぼっていく。芥川龍之介もこの橋から穂高を眺めていたのだろうか

ケショウヤナギの緑をたたえた両岸に挟まれ、上流に穂高連峰、下流には焼岳、と絶景に囲まれている河童橋は撮影スポットとしても人気が高く、訪れた人の多くが橋の上からの撮影を楽しんでいる。また、橋の周囲にも橋と風景を1枚の写真に収められるビューポイントが沢山あるので、ぜひ足を伸ばして自分だけのベストアングルを探してみよう。

芥川龍之介作品と「河童橋」

この橋が登場する小説『河童』は上高地から槍ヶ岳穂高岳に至る梓川周辺を舞台とし、主人公がさまよいこんだ河童の国を通して、当時の日本社会を風刺した寓意性の高い物語だ。作者の芥川龍之介は1909(明治42)年に槍ヶ岳登山を行っており、小説内では当時の風景が忠実に描写されていると言われる。序盤、主人公が河童を追いかけている場面で「上高地の温泉宿のそばに「河童橋」という橋があるのを思い出しました」という独白があるが、執筆当時に河童橋が実在したかどうかは不明だそう。名前の由来についても「橋の下の深淵を河童の淵と呼んでいたから」、「小説『河童』が発表されたことで名づけられた」などの諸説があり、現在もはっきりしたことはわかっていないという。しかし、橋と小説のどちらが先だったとしても、梓川周辺の情景が芥川龍之介に強い印象を与えていたことは間違いないだろう。

現在は多くの観光客が訪れる梓川周辺だが、『河童』執筆当時は通る人もまばらな静かな山中だったという。河童橋を見た後は、当時の風景に思いを馳せつつ『河童』を読んでみるのも楽しいかもしれない。【東京ウォーカー編集部】

バスターミナルから近いため、河童橋を起点に上高地ウォーキングを楽しむ観光客も多い