当時5歳だった女の子(都内在住)が、祭り品の駄菓子を手に取ったため、ボランティア80男性から叱責され、心的外傷後ストレス障害PTSD)を発症したとして、祭り催者だった埼玉県深谷市を相手取り、約190万円の損賠償をめた裁判の判決が11月9日東京地裁であった。判決では、叱責されたことなどをPTSDの原因と認め、深谷市に約20万円の支払いを命じた。

この判決に対し、ネットでは「叱られたぐらいでPTSDになるのはおかしい」など親子への批判が少なくなかった。「悪いことをした子どもはきつく叱るべきだ」「周囲の大人が子どもを叱るのは昔からあったことだ」と考える人もいるかもしれない。しかし、その日の大人たちによる女の子への接し方は、最新の科学的研究から見た場合、決して適切とは言えない。

これまでの大人の「常識」が、どれだけ子どもを傷つけているのか。メディアではあまり報じられなかった判決文を読み解きながら、なぜ女の子PTSDとなり、それがどのような影を及ぼす危険性があったのか、『子どものを傷つける親たち』(NHK出版)を著した福井大学「子どものこころの発達研究センター」(福井県永平寺町)の友田明美教授に聞いた。 (弁護士ドットコムニュース千香)

クレヨンで塗りつぶされた絵」「あのおじさんが夢に出てくる」

親子連れでにぎわう地域の祭りで、一体何があったのか。

判決で認定された事実によると、2014年11月22日、当時5歳だった女の子は、深谷市の施設「ふかやの王」の祭り家族と出かけた。お祭り家族を離した隙に、女の子人だった輪投げ会場の受付に近づき、台の上にあった品の袋から駄菓子を取り出したところ、ボランティア男性が気づいて、女の子を大で叱責して駄菓子を取り上げた。

近くのコーナーにいた父親は、男性の大が聞こえてきたので、母親女の子のもとへと駆け寄った。女の子お菓子を手に取ったことで、男性から大で注意を受けたことを母親が伝えると、女の子は泣き出した。それから父親男性に近づき、大を出して女の子を泣かせたことについて謝罪をめ、2人は女の子の面前で口論になった。

その際、深谷市の職員が2人の口論を聞いて駆けつけ、全員で施設の管理棟に移動し、父親通報を受けて警察官が到着。その間も、女の子は泣き続けていた。女の子は先に、母親と一緒に母親実家に帰り、画用いっぱいをクレヨンを塗りつぶした絵を描いている。

両親の訴えによると、事件の当日、女の子は口数も少なく、も「あのおじさんが夢に出てくる」といって怯え、いつもは午後9時に寝ているにもかかわらず、眠りについたのは午後11時を過ぎていた。翌日も女の子は元気がなく、食欲もなかった。もまた、「怖い夢をみる」といって、なかなか眠れなかった。

3日も状態に変化がなかったため、両親は女の子を心療内科のクリニックを受診させた。女の子12月末までの28日間、クリニックに通院し、カウンセリングを中心とした心理療法を受けた。担当医師は約半年後の2015年4月女の子の病名をPTSDであると診断するに至った。

男性高した時は相当に大きな」「女の子は相当に強い精ショック

これらの事実を受けて、東京地裁はどのように判断したのだろうか。判決文は、女の子PTSDの原因を明確にしている。

男性を法廷で本人尋問した際、片がほとんど聞こえない状態であり、「地は相当に大きかった」と摘。お祭りの日も、「高した時は相当に大きなを出したものと認めるのが相当である」と摘している。

そして、「男性は、曲がったことが嫌いな性格で、物を盗むことが悪いことを小さい頃から子どもに教えるべきであり、5歳の子どもが物を盗むのは親によるしつけができていないと考えていたから、女の子駄菓子を取り出すのを見て、親のしつけができていないと考えて、高して相当に大きなで注意したものを考えられる」と判断した。

その上で、「男性から大で注意された女の子は、その当時5歳であったから、相当に強い精ショックを受けたものと考えられる」とし、「女の子PTSDは、男性に注意されたことが契機となり、その後の父親男性の口論を見て、相当に強い精ショックを受けたために発症したものと認めるのが相当である」と結論づけた。男性女の子を注意したは相当大きく、それによって女の子が強い精ショックを受けることは、男性も十分に予想できたとして、賠償責任を認めている。

一方、親側の過失についても、判決文では触れられている。母親女の子のそばにいたにもかかわらず、その行動を見ていなかったために、駄菓子を手に取る前にやめさせることができず、もし女の子の行動を注視していれば、男性女の子に対する注意や、精ショックの大きさも違っていた可性があると摘した。

子どものを傷つける「マルトリートメント」とは?

この判決では、「子どもを大で叱責する」という行為を、PTSDの原因と明確に言い切っている。しかし、ネットでは男性は本来、親がやるべき「しつけ」をしただけで、親子の反応は大げさと非難するがあった。

しかし、これは本当に「しつけ」にあたるのだろうか。小児精科医で福井大学「子どものこころの発達研究センター」の友田教授はこう説明する。

「『大で叱責する』『駄菓子を取り上げる』などは、殴る蹴るなどの身体的な虐待ではありませんが、分別のついていない子どもに対して、諭すのではなく、怒鳴りつける行為は『マルトリートメント』にあたると考えます」

マルトリートメントとは、1980年代からアメリカなどで広まった表現で、日本語で「不適切な養育」と訳され、子どもの健全な発育を妨げるとされている。友田教授の著書『子どものを傷つける親たち』によると、虐待とほぼ同義だが、「子どものこころを身体の健全な成長・発達を阻む養育をすべて含んだ呼称」であり、「大人の側に加の意図があるか否かにかかわらず、また、子どもに立った傷や精神疾患が見られなくても、行為そのものが不適切であれば、それは『マルトリートメント』」なのだという。

友田教授は、男性の行為についてこう話す。

「この男性女の子関係は対等ではありません。『強者』である大人が、『弱者』である子どもを怒鳴りつけるという行為は、わたしたち大人が想像するより女の子に強い衝撃を与えたことでしょう。彼女の誤りを正す方法はほかにもあったはずです。一昔前には、封建的な親が怒鳴ったりいたりしていうことを聞かせるということがあったかもしれません。しかし、『しつけ』とは子どもに恐怖を与えることではなく、正しく導くことが的でなければなりません」

ニュース報道される児童虐待といえば、ひどい暴行や性的虐待など、極端なケースが多い。しかし、マルトリートメントには、しつけと称して脅したり、威嚇したり、暴言をぶつけるといった心理的・精的な虐待も含まれる。多くの子どもに関わる大人が、自分は児童虐待関係だと思って見過ごし、日常的に不適切な接し方で子どもを傷つけてしまっている可性もあるのだ。

では、マルトリートメントは子どもにどのような影を与えるのだろうか。外見からはわかりづらい「心の傷」を可視化するため、友田教授とハーバード大の研究グループはさまざまなマルトリートメントを受けた人のの画像検を行った。

その結果、マルトリートメントが発達段階にある子どものに大きなストレスを与え、実際に変形させていることが明らかになった。これまでは、生来的な要因で起こると思われていた子どもの学習意欲の低下を招いたり、引きこもりになったり、大人になってからも精神疾患を引き起こす可性があることが分かった。

たとえば、親から暴言を浴びせられるなどのマルトリートメントの経験を持つ子どもは、過度の不安感や情緒障、うつ、引きこもりといった症状・問題を引き起こす場合があるという。

友田教授らは、暴言のマルトリートメント経験者と未経験者のグループに精トラブルを抱えていないかなどアンケートを行い、それぞれのMRIで調べた。その結果、経験者のグループは大皮質側頭葉にある「聴覚野」の一部の容積が、未経験者に均14.1パーセントも増加。子ども時代に暴言を受けたため、正常なの発達が損なわれ、人の話を聞きとったり、会話したりすることに余計な負荷がかかるようになった可性を摘している(『子どものを傷つける親たち』より)。

突然の過酷な体験がトラウマとなり、「PTSD」を引き起こす

マルトリートメントは、PTSD発症のリスクを高める。今回のケースでも、女の子PTSDと診断された。子どものPTSDとはどのような症状なのか、友田教授に聞いた。

「一般論で言えば、人は、あまりにも過酷で耐えがたい体験をしたとき、その体験記憶を『間冷凍』し、感覚を麻痺させることで自分の身を守ります。しかし、その体験は新鮮な状態で丸ごと保存され、類似した音や視覚などの刺で何度も、何年後でも『解凍』されることがあります。

具体的には、自分自身や近親者の生命に危険が生じるような事態に遭遇し、強い恐怖やを感じたとき、その体験はトラウマになります。例えば虐待などの暴力災害、そして戦争などです。

うまくトラウマの治療がなされないと、人生の大半において、傷が刺され、冷凍した記憶がよみがえる生活を強いられることもあります。最悪なことに、トラウマは成長したあとに心の病気DV行為、アルコール依存などの形で現れることもあります」

両親の訴えによると、女の子は事件後、眠れない、食欲がなくなる、自分を怒鳴った男性の夢をみる、などの状況が数日間続いていた。父親が気分転換にと公園へ連れて行っても、元気がなかったという。

「子どものPTSDには、要な症状としては、『再体験』『回避』『過覚醒』があります。

『再体験』とは、過去の体験を意図せずに繰り返し思い出してしまい、苦痛を感じることです。悪夢をみてうなされて眠れない、ふとした拍子にり、体験した時点に引き戻されたかのような感覚、さらには動機・発汗・震えなどの身体的な反応を伴います。また、出来事を連想させるような物事に触れると、苦痛を感じてしまい、大人べて抑制が利かないことが多いので、突然奮して過度の不安状態や緊状態に陥ったり、パニックやけいれんを起こしたりします。

また、その体験を思わせる遊びや話を繰り返すことが特徴的で、早急にこの再体験を伴う反復行動をやめさせていくことが重要です。突然人が変わったようになったり、現実にはありえないことを言い出したりする行動も、再体験の現れです。

『回避』は、原因となった出来事に関する事柄を避けようとする体的・精的な行動を言います。一般的には、その出来事のことを考えたり話したりすることを避け、そういう場所に近づかないようになります。思い出すこともいやがり、逆に意識的に思い出そうとしても、肝心な内容が思い出せなくなったりもします。

また、『自分が自分でなくなるような』症状が出てくることもあります。こうなると、好きだったはずの物事に以前のような関心が持てず、周囲との間にができたように感じて疎遠になります。また感情が自分のものとして感じられず、情や幸福感などの自然な気持ちが薄まってしまったような感覚を受けたりもします。

子どもの『回避』症状は、普段より活動性が低下するところから始まることが多い特徴があります。表情や会話が乏しくなり、ぼーっとしていたり、引っ込み思案になったり、さらには食事などの日常の行動にも支障がでてくるため、食欲がなくなると訴えたりします。もちろん、勉強への集中も低下し、記憶も下がるようになります。また観察していると、好きだったはずの物事へ関心を示さなくなっていることもあります。

『過覚醒』は、気持ちが落ち着かず、いつも奮しているような状態です。具体的には、眠れなくなったり、細なことに苛立って怒りっぽくなったりすることが続きます。また危険に対する警心が過剰で、細な物音にでもしく反応してしまいます。子どもは、大人と同様に、いつも怯えて、そわそわして落ち着かず、少しの刺にもしく反応して驚いて泣き出したりします。

詳しくは、『子どものPTSD』(診断と治療社・友田明美杉山志郎子編)をお読みいただければと思います」

直接的な暴言だけでなく、面前での暴言もマルトリートメントに

今回の判決では、原告である両親や被告である深谷市、双方のにはなかったが、男性父親女の子の面前で言い争ったことも、PTSDの原因であると認めている。面前での暴言の応酬も、やはりPTSDの原因になりうるのだろうか。

「子どもと密接に関わる人への言葉の暴力もマルトリートメントになり、PTSDの原因となります」と友田教授は話す。「これまで、直接、子どもが被を受けていないため、子どもの発達との関連についてはあまり摘されてきませんでしたが、両親間のDV撃すると、実際はこころに多大なストレスがかかります」

児童虐待防止法でも、2004年正時に児童虐待の定義の中に、「児童が同居する庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有な影を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」(第二条)を含めている。

楽しいお祭りの日に、自分よりも大きな大人男性突然、大で叱責されるという出来事が、たった5歳女の子に与えたストレスは、「たかが叱られたぐらいで」という言葉で片付けるには、あまりに重すぎるのではないだろうか。

弁護士ドットコムニュース

大声の叱責で5歳児がPTSDに 「しつけだから当たり前」という大人の「常識」が覆る最新の脳科学