いかに日本酒に親しんでもらうか。そのきっかけを作るべく、11月24日から3日間、ロンドン市内東部タバコドックで行われた日本文化のイベント「ハイパージャパン」にて「酒カクテルアワード」が開かれた。
同アワードでは、3日間の開催期間中に毎日3種類の酒カクテルが提供され、5ポンド(約750円)のチケットを買った参加者の投票により、その日の優勝カクテルとその考案者が合計で3人選ばれる。今回は、「にごり酒」「梅酒」「純米酒」をベースにした3種類のカクテルが披露され、3日間で合計9種類のカクテルが作られた。
ロンドンではどんな日本酒が好まれるのだろうか?
にごり酒ベースのカクテルが人気
初日と2日目はどちらとも、にごり酒をベースにしたカクテルが1位に。最終日は梅酒ベースのカクテルが1位になった。
初日の優勝カクテルは、ロンドン市内ナイツブリッジにある「ブッダ・バー」に勤める中国系イギリス人ネーソン・ホーさんが生み出したトロピカルカクテル「サケ・ミー・サイドウェイズ」だ。マンゴーともち米のデザートというアジアのインスピレーションから、にごり酒にココナッツクリーム、レモンウォッカ、柚子ジュース、マンゴーシロップを加え、トロピカルなアロマを出した。カクテル名の由来は「サック・マイ・サイドウェイズ(日本語訳「ちくしょう! 」)」という、驚きやいらだちを表現する英語のスラングにちなみ、言葉遊びで付けた名前だ。
2日目は、市内中心部メイフェアー地区のバー「スミス・アンド・ホイッスル」でシェイカーを振るイタリア人ミケラ・レイナさんが優勝。「ミズチ・チャレンジ(日本語訳『蛟(みずち)の挑戦』)」と名付けられらたレイナさんの作品は、にごり酒のミルク状の口当たりを生かして特製ミルクポンチとして仕上げられている。「蛟」とは、古来より中国や日本で怖れられてきた、龍や蛇の姿をした水をつかさどる伝説上の水霊もしくは水神のことである。
最終日は、イギリス南部の海沿いの町ブライトンでカクテルのケータリング会社「カンパイ・カクテルズ」を営む日本人の岡田隆一郎さんの「紀州フルーツアイスティー」が1位に。梅酒にジャスミン茶、アマレット、ジン、レモンジュース、自家製のピーチとオレンジのシロップを加えてシェイクし、かち割り氷を入れたハイボールグラスで冷やして、仕上げにジャスミンの花とレモンの皮をふりかけている。
過去もにごり酒の人気が高かった
実は2015年に開かれた第1回の酒カクテルアワードでも、3人の優勝者のうちの2人がにごり酒ベースのカクテルを担当した。この傾向から、にごり酒が持つ白濁した見た目、酵母の風味、ドロッとした喉ごしなどの特徴が、酒カクテル作りにおける発想や技量より以前に、清酒以外の日本酒に親しみのないイギリス人の趣向に合うのではないか、ということも推測できる。
イギリスでよく飲まれるギネスビールなどのスタウトや、ロンドンで人気のとんこつラーメンのスープも、にごり酒と同様にとろみのある口あたりだ。
最終日の優勝カクテルのベースとなった梅酒も、日本酒 (清酒) に比べて味がはっきりしている酒である。岡田さんも「梅酒は風味もありイギリス人にとって分かりやすいお酒。日本酒の風味はデリケートであるため、より香りの強い白ワインと比べると、どうしても押されてしまう」と打ち明けた。
カクテルが今後の日本酒の可能性を示す
日本酒をカクテルにしてしまうことに抵抗感を覚える日本人も多いかもしれない。しかし酒カクテルは、日本酒を飲み慣れた人が少ないイギリスにおいて、日本酒を広めるための画期的な試みになる可能性を秘めている。
その一助となるのが、酒カクテルアワードに参加したようなミクソロジストたちの存在だ。ミクソロジストとは、季節感や土地柄、バーやパーティーの雰囲気を意識しながら、テーマやコンスプトに合わせて材料を選び、カクテルを作り出す人たちのこと。「ミクソロジー」とは、「混ぜ合わせる」という意味の「ミックス」から派生した造語で、「ミックス学」もしくは「ミックス論」と訳せる。
ミクソロジストは、各種材料を混ぜ合わせてカクテルを作る専門家という意味で、近年同じカクテルを提供する職種でもバーテンダーと区別して使われることが増えてきた。一方で、バーテンダーは「客をもてなす」という基本理念にのっとり、客の要望に答えながら既存のレシピでカクテルを作り提供する職種を指す。時にはミクソロジストがオリジナルのカクテルレシピやシロップなどの材料を自作し、それをバーテンダーに提供することもある。
アルコール消費量が減少傾向にある日本において、各日本酒メーカーや蔵元にとっては海外市場への参入は免れなくなってきている。日本酒本来の、繊細な香りと味わいを広めることも大切ではあるが、まずはいかに日本酒への障壁を取り除き、その国の人々に受け入れてもらいやすくするのかが日本酒の世界進出への第一歩だ。「酒カクテルはイギリスで日本酒が広まるきっかけになるかもしれない」と岡田さん。参加したミクソロジストたちの酒カクテルにはそんな期待も込められている。
(ケンディアナ・ジョーンズ)
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