「非常に大きな危機感を持ったシーズン」。3年目の指揮を執り終えたファジアーノ岡山の長澤徹監督は2017年シーズンをこう振り返った。その危機感の正体を「J2リーグ自体のレベルが非常に上がったシーズンだったから」という長澤監督は来季を見据えながらこう続けた。

「今年の1位から6位のチームストライカーに大きなお金をかけ、しかも国籍の違う選手を揃えてきて、ゲーム内容うんぬんよりも一撃で決めるような形で勝点を勝ち取っていった。もう資金の掛け方が大幅に変化しているし、各チームの監督さんもしっかりと実績を残した人がやられていて、外国人の監督も入ってきてリーグの競争力が非常に上がっている。結果として僕たちより下のチーム全部がJ1を知らないチームで上の12チームは全部J1を知っているチームになった(初のJ1昇格を成し遂げたV・ファーレン長崎は例外として)。今年がこうやって完全に別れちゃった中で、自分たちなりの目標を立ててチャレンジしていかないといけない。放映権も含めてお金が大きく動くリーグになってきているので、今まで以上に自分たちのやるべきことをやりながら変革していくところは変革していかないと時代に取り残されてしまう」

 優勝した湘南ベルマーレにはジネイとムルジャがいた。J1初昇格を成し遂げた長崎にはファンマがいた。名古屋グランパスにはシモビッチガブリエルシャビエル。アビスパ福岡にはウェリントン。東京ヴェルディにはドウグラス・ヴィエイラアラン・ピニェイロ。ジェフユナイテッド千葉にはラリベイ。25得点を挙げて得点王に輝いた横浜FCのイバもいた。2017年は確かに外国人ストライカーの活躍が目立ったシーズンと言えることは間違いなく、上位チームのほとんどが外国人ストライカーの個の力をうまく攻撃に組み込んで違いを生み出していた。

 昨季を振り返ってみると、得点ランキング1位のチョン・テセと2位の都倉賢を擁する清水エスパルス北海道コンサドーレ札幌が自動昇格を成し遂げている。リーグを勝ち抜くためにはチームを牽引するストライカーの存在が欠かせないのは当然だが、得点ランキング3位のイバの下にはズラリと日本人選手の名前が連なっている。外国人ストライカーが席巻した2017年の得点ランキングと比較すると、長澤監督が言うように「資金の掛け方が大幅に変化している」ことは一目だ。

 今季の岡山は、その時流に呑み込まれたと言わざるを得ない。

 絶対的なエースの赤嶺真吾を擁していたものの、負傷が重なって頼みの赤嶺が22試合の出場に留まったチームは得点不足に苦しんだ。序盤戦は攻撃陣の構成に腐心して片山瑛一や塚川孝輝をアタッカーにコンバートするやりくりを強いられ、夏にオルシーニとキム・ジョンミンを獲得して備えたが2人の外国人ストライカーはすぐに力を発揮することはできなかった。22試合で10得点を挙げた赤嶺に次いで得点を挙げたのは8得点の豊川雄太で、その次は3得点の大竹洋平とパク・ヒョンジンになる。長澤監督もストライカーの存在が結果に大きく響いたことを止む無く認めている。

「僕の換算では真吾のいる22試合で勝ち点38、いない20試合で勝ち点17だったんだけど、その数字の通りだったと思う。真吾がいないときの戦い方を作ってはいたんだけど、やっぱり最後を入れるか入れないかだし、ストライカーマークが集まるか集まらないかってところもあるし、接戦のゲームストライカーがいるから取れるっていう希望を持てるかどうかも大きい。そういうところで真吾がいないときに不安を作ってしまったのは事実だと思う」

 とはいえ、岡山のクラブ規模で赤嶺クラスタレントを複数選手抱えることは至難のことで、そもそもタレントの優劣で勝負しようとしたら規模の大きなクラブに太刀打ちできるはずもない。一方で長崎の成功例もある。クラブの規模によってすべての順位が決まるわけではないのだから、より綿密に戦略を練りプライスレスな部分の強みを生み出してチーム力を高めていくことで、岡山もJ1へ駆け昇っていくことができるはずだ。

 岡山のプライスレスな強みは何なのか。どんなことでチーム力を高めていくことができるのか。これらを突き詰めて考えていけば、J1への道を探すうえで欠かせない要素になってくるだろう。

 2009年にJ2に参入して9年間を過ごした岡山の強みとして、まず挙げられるのが集客力だ。今季は2年連続の1試合平均入場者数1万人の達成はならなかったが、一度もプレーオフ圏内にランクできず13位に終わった成績を踏まえれば、リーグで5番目に多い1試合平均9,471人の集客力は特筆すべきだろう。クラブスタッフの尽力によって着実にファジアーノ岡山を支えるファンサポーターの輪は広がり、温かく包み込むようにチーム、選手を支える雰囲気はシティライトスタジアム特有のものへなってきている。

 7年ぶりに岡山へ戻ってきた喜山康平は、「地域リーグも経験して本当にサポーターが少ない中でやってきた時期を知っている身としては、たとえ順位が悪くても9千人、1万人って来てくれる状況があることはすごいこと」と感心していたし、復帰した選手を迎え入れてくれたサポーターの温かさにも感謝していた。

 ただ、「もっと盛り上がれるんじゃないかと思うんです」と喜山は言う。「そのためにはまず僕たちがピッチで結果を出すことが一番なんですけど、地域リーグを戦っていた頃はみんなでもっとこうしていこうって感じがクラブ全体にあった。またそういうクラブになっていけばもっといいかなって思うし、ここまで来ることができているんだから、もっとみんなに応援されるチームになれる気がするんです。そのために選手としてできることもいろいろ考えていきたい」

 喜山が話すように、もっと岡山の街を盛り上げていくことも可能だろう。この岡山の強みは、さらに膨らませることのできる可能性を十分に秘めている。

 そして、岡山で選手価値を高めた選手たちが次々とステップアップを図っている。これは喜ばしいことなのか嘆かわしいことなのかは難しいところではあるが、昨年のオフには中林洋次がサンフレッチェ広島から、押谷祐樹が名古屋グランパスからオファーを受けた。このオフにも片山瑛一がセレッソ大阪からオファーを受けてJ1の舞台へ挑戦する機会を得た。また、レンタル移籍で所属した若い選手も着実に力を付けている。2015年2016年に所属した矢島慎也をはじめ、豊川雄太や石毛秀樹も岡山で一回りも二回りもたくましくなった。

 清水から初めての移籍を決断して岡山で今年一年を過ごした石毛は、「この一年間にやってきたことは絶対に自分にプラスになった」と言ってこう続けた。

「走るところ戦うところっていうサッカーの基本的なところで、自分が予想していた以上のものをテツさん(長澤監督)は選手に求めていた。そういう中に身を置いてやってきて、来た当初よりは自分も戦えるようになっていると思うし、来て良かったなと思います。それに、このクラブJFLから上がってきて厳しい環境でやっていた時期もあって、そのときから在籍している選手もいる。僕は清水の恵まれた環境でずっとやってきたから、そういうありがたみを感じることは難しかったけど、ここに来てもう一回サッカーと向き合うことができました。サッカーに取り組む姿勢だったりが昔に戻った感じがするんです。高校生の頃とか、もっと言えば小学生のときにスパイク買ってもらってすごくうれしかったっていう感覚に似たようなものを感じられました」

 温かいファンサポーターに見守られ、選手一人ひとりが真摯にサッカーと向き合うことのできる環境がここには整っている。クラブが大事にして育んできたこのプライスレスな強みを、J2参入10年目の節目となる来季こそ結果へ結び付けることが4年目の指揮を執る長澤監督に課せられるミッションだ。

「もう20年近くこの世界にいていろんなクラブを見てきたけど、本当にいいクラブだと思う。サポーターも含めてこんなに素晴らしい地域とクラブはないと思っているし、どこよりも可能性を秘めている。あとは結果を出していくところが求められるところ」と語る指揮官は、「岡山はもうサポーターも含めて外部の環境は整っているんで、あとはクラブチームが内部の環境を整えてどうやってチャレンジするか。まず最初の編成が一番大事になる」と語気を強め、選手構成に奔走するあわただしい12月を送っている。

文=寺田弘幸

今季、岡山に復帰した喜山康平 [写真]=J.LEAGUE