時は慶応四年。江戸を戦火から守るべく、一世一代の大芝居の幕が上がる。三谷幸喜が書き下ろす、歴史に名を残す偉人と名を残さなかった庶民たちのおかしく愛おしい群像喜劇『江戸は燃えているか TOUCH AND GO』。勝海舟になりすまし、和平交渉をさせられるのは松岡昌宏演じる庭師の平次だ。“新橋演舞場史上、もっとも笑えるコメディ”として、2018年3月より幕が上がる本作について、三谷幸喜作品に再びの出演となった松岡昌宏に話を聞いた。

■三谷作品の最大の魅力は、尽きない遊び心

――『ロスト・イン・ヨンカーズ』以来、4年ぶりの三谷さんの舞台になります。出演が決まった時のお気持ちをお聞かせください。

三谷さんの作り出す、一筋縄ではいかない世界観。他の作品もいろいろ拝見しており、大好きです。『ロスト・イン・ヨンカーズ』で実際に三谷さんから演出をつけていただき、そこで三谷さんのやり方を肌で感じることができました。前回は原作がニール・サイモンで、三谷さんがそれを解釈して演出する形でしたが、今回は三谷さんのオリジナル。その分、どっぷりの三谷ワールドになるんじゃないかと。僕たちの仕事は食べ物屋さんと一緒。この人のこれがおもしろいなって思っていただき、またその素材を使いたいって思っていただく。こうして、再び松岡の名前が挙がって、声をかけていただいたということは役者冥利につきますね。

――ズバリ、三谷さんの作品や現場の魅力とはどんなものでしょうか?

僕がご一緒させていただいたのは、まだ一回だけなので、すべての魅力を知っているとは言い難いですが、あの期間に感じたのは、すべてが「遊び心」だということでした。「大人の遊び心」っていうのかな。でも、時にそれがすごく幼くなるときもあって(笑)。その振り幅こそが三谷さんの凄さなんですよね。

――『ロスト・イン・ヨンカーズ』は、ニューヨーク州ヨンカーズの、とあるドイツユダヤアメリカ人一家の物語。ニール・サイモン×三谷幸喜というタッグとしても話題を集めた作品でしたね。

あの戯曲にはいろんな社会的な背景があって、深刻な問題も背負ってるんです。昔のアメリカ特有の差別であったり、宗教であったり。そういうものを百も承知で行う演出でした。中谷美紀さんと草笛光子さんの演じる親子の中に葛藤がうごめいていて、その背景に歴史や文化をきちんと感じさせつつも、どこかで絶対笑わせる。そういった状況で加えられる遊び心は、三谷さんならではでした。

――当時の、印象深い稽古場や舞台裏でのエピソードはありますか?

上演期間中に草笛さんのお誕生日があったんです。当時三谷さんはどうやら鼻笛に凝っていたらしく、鼻笛でハッピーバースデー♪ってやりながらステージに入ってきたんです。しかも、またその鼻笛がすっごい小さい音なんです(笑)。あんな作品を作っておいて、プッププーってどこからともなくやってくるような人。それでいて、写真はキメ顔じゃないと撮れない方でしょ?それが三谷さん。だからおもしろいんです!

――三谷さんのコミカルなお姿が目に浮かびました! 今回の共演者の方々の印象はいかがでしょうか?これまでに面識などありましたか?

皆さんと、ほぼ初めてなんです。芝居で共演したことのあるのは高田聖子さんだけですね。あとは、チラホラ飲んだことある・・・・・・みたいな感じです(笑)

――そうなんですね(笑)。かなり豪華な面々がお揃いですよね。

そうですね。本当にいろんなジャンルでご活躍の方たちですね。バリエーション豊かな、と言っていいのかな? 音楽をやってる人もいれば、バラエティで活躍してる人もいて、歌舞伎の方も、宝塚出身の方もいる。こんな環境で自分がご一緒できるというのがとても嬉しいし、楽しみです。皆さん、おそらくこれまでやってきたやり方っていうのがバラバラでしょうから。どこにも正解はなく、どれも不正解でない中で、一つのものを作っていくのが楽しみです。

――中村獅童さんとご一緒するにあたってはいかがでしょうか? 別の現場では共演されたこともあるようですが、今回楽しみにされていることは?

獅童さんのお芝居はいろいろと拝見しています。ただ、番組でご一緒しても、共演していても、それは関係ないんですよね。役も違ければ話も違う。何もかもが違うので。獅童さんは「そんな角度から攻めてくるんだ」っていう衝撃も含めて、あらゆる魅力をお持ちの方です。そして“中村獅童”をお継ぎになって、歌舞伎の世界にしかわからない部分もあるでしょうし、揺るぎない信念みたいなものをお持ちの方だというのは、拝見していて分かります。人生の先輩でもありますし。一緒にやらせてもらう時に、やはり1+1=2だとおもしろくないので、どうしたら3以上に出来るのかっていうところを突き詰めていきたいですね。獅童さんはもちろん、三谷幸喜さん率いるこのカンパニー全員と、そのように挑んでいきたいと思っています。

■どの現場でも役作りは一切やらない

――勝海舟を中心に繰り広げられる江戸の使用人たちの物語。松岡さんが演じるのは、和平交渉のため、喧嘩っ早い勝海舟(獅童)に代わって、勝海舟のなりすましをさせられる勝家の庭師平次ということですが、役作りなどはガッツリとされるタイプでしょうか?

役作りするのが好きじゃないのでやらないですね。映像作品でも作りきっていかないし、台本も一回しか読まない。内容だけを頭に入れて、その時その状況でどういう風に作るかというのは現場でやっていきます。相手の芝居で自分の芝居は変わるし、作っていっちゃうとその芝居しかできなくなる。監督に要求されたことができないのは一番怖いことですし、僕は固まってしまうタイプなので、現場で作ります。庭師の勉強も一切しません! だって番組(『ザ!鉄腕!DASH!!』)で20年以上やってきてる! 桜の木を植木して花咲かせているのって俺たちくらいじゃないかな?(笑)

――確かに……(笑)

大まかなルールさえ合っていれば、何をやってもいいんじゃないかな。こういった比喩があっているのかは分からないんですが、例えば「明日は美味しい煮物を作ろう」と思って、当日現場に行ったんだけど、煮物に使うカレイよりも、刺身で食った方が美味いヒラメがあったら、という話です。僕らとしてはそっち(ヒラメ)を刺身で食わない手はないんですよ。その臨機応変にできるようにしておくために、役は作らない。現場で決めるっていうのは、素材を見て決めるっていうこと。もっと言うなら、料理番組に出るときもそうです。「何作りますか?」って聞かれると「現場で決めます」とお答えします。よく困られるんですけどね(笑)。もちろん、不安はありますよ。この役を上手くできなかったら批判されるんだろうな、とか。でもね、それよりもずっと楽しみの方が勝ってます。なぜなら僕がその仕事を引き受けているから。受けたときにすでに覚悟を決めています。

――松岡さんはTOKIOとしてもステージにはお立ちになりますが、役者として立つ舞台とアーティストして立つ舞台。同じ“ステージ”としての相乗効果というか、影響を受け合っている部分はあるのでしょうか?

それはありますね。方向は違うけど、人の前で生で表現するっていうのは一緒なので、相互に影響している部分はあると思います。これは僕、寺尾聰さんに言われたんですけど、音楽をやってる人が芝居をやると「間」が違うみたい。音楽やってる者が持っている特有の間っていうのがあるみたいなんです。それがどういうものかっていうのは、よく分からないんだけど。ただなんとなく思うのは、僕は「リズム隊」って呼ばれているドラムをやっているので、リズムで生きている人間なんです。今も知らない間に自分の中でリズムを作って話しているんだと思います。それが芝居でもあるみたい。

――では、役者として舞台に立つ上で松岡さんが大切にされていることはどんなことでしょうか?

これはいつものことですが、余計なことはしない。この料理が出てきて、これでいい!っていう時に醤油をかけるみたいなことはしません。一番美味しい状態を三谷さんが計算なさってて、僕らも稽古でそれがわかっているので、そのままやる。それぞれのキャストに、自らが演じて細かく演出をつけてくださいます。もちろん、最初はいろんなことをやるんですよ。思いっきり出したり、引いてみたり、いろんな素材をね。まずはベースラインを大まかにつける、要はデッサンですね。そこから三谷さんが色付けをしてくださいます。間違いなくおもしろくなると思っています。

■喜劇への特別な思い

――松岡さんは今回の公演へのコメントでも「もともと僕は喜劇が好きで喜劇を演じたいとずっと言ってきた人間」と仰っていましたね。喜劇への思いについてもう少しお聞きしたいのですが、その魅力をどうお考えでしょうか?

当たり前のことなんですけど、やっぱり「笑い」ってすごいんですよね。萩本欽一さんがよく「笑ってしまう、っていうのが一番すごい」ってTV番組の中で仰ってたんですけど、本当にそれに尽きるなあと思います。人間笑うのが一番元気になります、何の薬よりも。逆にふさぎこんでいると、何の病気でもないのに、悪い方にいっちゃったり。そういうのも含めて「笑えるものをやる」っていうのは一番難しいんですよ。せっかくだから、「難しいものをやる」っていう挑戦をしたい。だから、喜劇なんです。笑わせたいんです。人を泣かせることより、笑わせることのほうが難しいから。

「笑いがある=振り幅が広がること」だと思うんです。個人的な意見なんですけど、悲劇はあまり好きじゃないんです(笑)ギリシャ悲劇だと、最初から最後までとにかく悲劇。でも、かわいい時期、愛おしい時期、笑顔がある時期……いい時期があるからこそ、人が死んだり、別れたりすることが“悲しい”んだと思うんです。もしかしたら、喜劇の楽しさって、後でぐっと悲しく、切なくなってしまうときの一つの材料なのかもしれないと思うこともあります。

――たしかに、泣きながら笑ってたり、笑ってたのに気がついたら泣いていた、なんてことも喜劇を観ているとよくある気がします。

そう。「笑ってるのに、なんでこんな気持ちなんだろう」っていう何かが残るから。上方のものでも江戸のものでもいろんな笑いがありますけれど、笑いがあるから人情が効くし、ずっと喜劇でやってきたのに、その裏にはこんなことがあったのか、とか。そういうことが、僕の中ですごくしっくりくるんです。笑いがあるっていうのは、感情が広がること。『ドラえもん』もそう。ドラえもんが明るくて、のび太が楽しくて、ああいう元気な人たちが立ち向かったり、悩んだりするからぐっとくるし、切なくなることさえある。

――“新橋演舞場史上、もっとも笑えるコメディ”の幕開けが今から楽しみです!最後に、いろいろな方面でご活躍の松岡さんですが、松岡さんが思う「舞台ならではの魅力」とは何でしょうか?

下世話な話で申し訳ないんですけど「舞台をやると、待ち合わせができる!」。仕事柄、19時終わり予定でも、予定通りにいかなくて、21時とか23時に終わるなんてことはよくあることですが、舞台には押し巻きがないじゃないですか。つまり待ち合わせをできるということは、決まった時間にお酒が飲めるということなんですよ。それに向けて、稽古をやって舞台をやります。稽古後や終演後に「お疲れ様でした!」って言って、楽屋で飲む冷えた美味いビール。このためにやります。何故ライブをがんばるか、何故『ザ!鉄腕!DASH!!』をがんばるのか、それは終わった後に格別の一杯を飲むためです(笑)

取材・文=杉田美粋

公演情報
PARCO Production『江戸は燃えているか TOUCH AND GO』

■日時:2018年3月3日(土)~3月26日(月)
■会場:新橋演舞場
■脚本・演出:三谷幸喜
■出演:中村獅童松岡昌宏松岡茉優、高田聖子、八木亜希子、飯尾和樹、磯山さやか、妃海風、中村蝶紫、吉田ボイス、藤本隆宏、田中圭
■チケット発売:2017年12月16日(土)10:00より