1957年旧ソビエト連邦が世界で初めて人工衛星の打ち上げに成功し、それ以降7,600機(*1)を超える人工衛星が打ち上げられています。放送や通信、気象・宇宙空間観測などその目的はさまざま。現在、4,400機以上(*1)の人工衛星が地球の軌道上を飛行しているといわれています。 今回は、日本の宇宙開発の中枢である宇宙航空研究開発機構JAXA)の筑波宇宙センター(茨城)で研究・開発に当たっている土屋佑太さんに、仕事内容などについてお話を伺いました。

地上とはかけ離れた環境における観測を支える研究開発

Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えてください。

私が主に携わっているのは宇宙機(*2)に搭載する電子部品の開発と材料の研究で、その中でも大きな仕事の一つが、「コンタミネーション」の測定を行う機器の開発です。

宇宙空間という特殊な環境下に置かれると、地上では何の問題もないプラスチックや接着剤などの素材からガスが放出されます。それが人工衛星などの宇宙機に付着することによって汚れてしまう現象を、「コンタミネーション」といいます。

人工衛星から地球や宇宙空間を観測するカメラのレンズにこのような汚れが付着すると、観測精度が低下してしまう可能性があります。また、電力を生むための太陽光パネルに付着すると、発電効率が悪くなることによって、宇宙機全体に影響を及ぼすことも考えられます。

そこで、ガスの発生方法やより正確なガスの放出量などについて測定するための「QCMセンサ」と呼ばれる機器の開発に携わっています。

*1 2017年2月時点。国連宇宙部調査。
*2 宇宙機:地球の周りを回る「人工衛星」、惑星や衛星、宇宙空間を探査、観測する「探査機」、国際宇宙ステーションに物資を運ぶ「輸送機」の総称。

<一日のスケジュール>
09:30 出勤
    研究・実験準備、打ち合わせなど
17:45 帰宅

※関わっている仕事のスケジュールや実験内容によって、帰宅時間が遅くなることもある。


Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?

実際のミッション(任務)に携わることができるのは、やはり大きなやりがいです。
現在は、2017年度中に打ち上げ予定の超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)のミッションに関わっています。多くの地球観測衛星の軌道高度は600~800km以上なのですが、この試験機は200km前後と衛星としてはかなり低高度を飛行することになります。

私はこのミッションの中で、通常の衛星の軌道高度では想定されない「大気と衛星がぶつかる」状況の場合、衛星の表面の素材がどれだけ削れるのかを計測するためのセンサーの開発を行っています。この高度を飛んでいる衛星はあまり無いので、新たな分野の開拓もやりがいにつながっています。

超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS
http://www.satnavi.jaxa.jp/project/slats/


Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?

衛星の開発スケジュールに合わせて研究や開発などを進めていくので、しっかりとした計画を立てて、それをきちんと守っていかなければならないことに苦労しています。

また、自分の研究や開発の過程を記録として残していくことも大変です。でも記録することは、今後宇宙開発に携わる人たちのためにもなるという使命感を持って行っています。

就職を考えた時、改めて気付いた宇宙への思い

全長約50m、直径約4m、重さは約260トン! 筑波宇宙センターの敷地内には「H-Ⅱロケット」の試験用実機が展示されている
全長約50m、直径約4m、重さは約260トン! 筑波宇宙センターの敷地内には「H-Ⅱロケット」の試験用実機が展示されている

Q4. どのようなきっかけ・経緯でこの仕事に就きましたか?

小さい頃から宇宙に対して興味を持っていましたが、将来の仕事としてはっきりとは自覚していませんでした。就職を意識する時期になって、自分の抱いている夢と勉強してきたことの融合を考えた時に初めて、宇宙開発や研究を仕事にしたい思いが具体的になったんです。

JAXAに就職したのは、他の重工系の企業よりも、宇宙開発に関われる可能性がより高いと思ったからです。


Q5. 大学では何を学びましたか?

大学では工学系の応用物理を専攻し、大学院では光通信工学の研究をしていました。光を使ってデータを送る方法についての研究だったので、現在の仕事とは直接の関係はありません。


Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?

幼い頃、宇宙飛行士になりたいという夢は持っていたのですが、JAXAの宇宙飛行士の募集要項を見て、「ちょっと難しいだろうな」と思い諦めました。中学・高校では、物理の中でも理論物理の分野に興味があったので、物理を仕事にしている点では今の仕事につながっていますね。

大学は基礎知識を吸収できる貴重な場

実験機器は、どのような研究や実験を行うのかを考えて設計する
実験機器は、どのような研究や実験を行うのかを考えて設計する

Q7. どういう人が宇宙開発技術者に向いていると思いますか?

一つのミッションにたくさんの人が関わっているので、とにかくコミュニケーションが大切です。先日、NASAアメリカ航空宇宙局)で行われたプログラムに参加した際、NASAの方もコミュニケーションをポイントに挙げていました。

コミュニケーションを取ることを常に意識しながら研究・開発に取り組める人が、宇宙開発技術者に向いています。


Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします。

今振り返ると、大学時代はいろいろな分野の基礎知識を身に付けることができる貴重な時間を過ごせました。大学で研究や開発をしたいと考えている人は、将来役に立つ知識を吸収することができるので、有意義に時間を使ってほしいですね。

JAXAを就職先に選んだのは、もともと宇宙に興味があったことはもちろんですが、自分が勉強してきたことを生かすことができると知ったことも大きな理由です。知ることは本当に大切なので、高校生のうちから興味のある分野や職業について、しっかりと調べておくことが大切だと思います。


日本ではこれまで国が主導して宇宙開発を進めてきましたが、2017年7月には、民間企業が独自の技術を用いて開発したロケットの打ち上げを試みるなど、宇宙開発の可能性が広がってきています。

技術者として宇宙開発に携わりたいと考えている人は、どんな分野の知識や技術が宇宙開発に必要とされるのかについて調べることから始めてみてはいかがでしょうか。


profile】国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構JAXA) 研究開発部門 第一研究ユニット 土屋佑太

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構JAXA) http://www.jaxa.jp/
ファン!ファン!JAXA! 筑波宇宙センター http://fanfun.jaxa.jp/visit/tsukuba/

●参照URL
http://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/66.html
http://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/57.html