SNS上で先日「いたずらと犯罪の境界線」に関して議論が交わされました。きっかけは、愛知県で2017年11月、中学生が教師の給食に「いたずら」で下剤を盛り、教師が救急搬送された一件が生徒への「厳重注意」で収束したというニュース。これに対し「人に対して内緒で“一服盛る”行為はれっきとした犯罪だと広く教えるべき」「『いたずら』なんてかわいい言葉で片付けてしまったら事の善悪がわからない大人に育つに決まってる」「された側も笑えるようなことじゃなければいたずらとは呼べない」「もし我が子がそういうことをしたら警察に連れて行くと思います」など、さまざまな声が上がりました。

 中学生のこうした行為は法的責任などを問われないのでしょうか。オトナンサー編集部では、グラディアトル法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞きました。

14歳未満の行為は罰せられない

Q.この事件について、中学生の行為は「いたずら」と「犯罪」のどちらでしょうか。

刈谷さん「まず、法律上『いたずら』を定義した規定はありません。そのため、どのような『いたずら』であっても、それが『犯罪』に該当するのであれば、それは『許されないいたずら』として『犯罪』となります。今回のケースは、食事に下剤を入れた結果、教師が体調不良を引き起こし、救急搬送されてしまいました。単なる『いたずら』のつもりで、教師が救急搬送されるとは思っていなかったとしても、下剤入りの給食を食べた人が体調不良を起こすことは予想できるので、傷害罪(刑法204条)に該当するといっても差しつかえないと思います。傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金ですが、中学生の場合は少年事件になりますので、刑罰は科されず家庭裁判所の審判を経て保護観察などの処分が行われることになります。ただし、中学生が14歳未満ならば、14歳未満の者は刑事責任能力がないため、犯罪にあたる行為をしても罰せられません(刑法42条)。そのため、法律的には『犯罪』にあたらないことになります」

Q.学校における同種のケースでは、「犯罪」も「いたずら」として処理され「厳重注意」などの処分で終わることが多いと思われますか。

刈谷さん「学校側がどういう処分をするかは、行為の危険性や被害結果の重大性、社会的な影響、学校側の方針、中学生本人のこれまでの行動や反省の程度など、さまざまな要素を考慮し判断されると考えられます。また、学校は教育機関ですから、悪いことをしてもすぐに『犯罪』として社会的制裁を受けさせるよりも、本人に反省を促し教育機関としての役割を果たそうとする配慮が働くのかもしれません。ただし、今回のようなケースでも、たとえば下剤を大量に入れ、被害を受けた教師に生じた結果が重大であれば、厳重注意で済まなかった可能性があります。その場合、少年事件や触法事件として事件化される可能性も出てくるでしょう」

Q.今回のケースで、教師が法的手段に訴えることは可能でしょうか。

刈谷さん「下剤を入れる行為が法律的に『犯罪』にあたるかどうかにかかわらず、違法な行為であることには変わりませんので、民法上の不法行為(民法709条)にあたります。被害を受けた教師が加害者の生徒に対し、治療費などの損害賠償請求をすることは法的に可能でしょう。違法な行為により人に傷害の結果が生じている以上、法的責任は生じえますので『いたずらのつもりだった』という方便は法的には通用しない可能性が高いです。成長過程にある中学生には、自分の行為の危険性や結果を想像し、それが社会的に許される行為なのかを判断する力を養うことが重要だと思います」

(オトナンサー編集部)

生徒の教師に対する“いたずら”が話題に(写真はイメージ)