SNS上で先日「仕事ができる人が会社をクビになった理由」に関する投稿が話題となりました。投稿によると、同じ会社の「仕事ができる人」が「電車遅延による遅刻が多い」「電車遅延による遅刻以外で残業をほとんどしない」という、「ルールは守っているが心証が悪い」との理由で退職を余儀なくされることに。「裁判官だって『刑法上では罰金刑だけど死刑にするわ』なんて真似しないのにね」と疑問を呈すると、「仕事以前に人として信用できないとかの話なのでは」「俺も『電車遅延が多いなら普段から何本か早い電車で出社しろ』って言われたけど納得できてない」「全く同じ理由でクビになったことあります」「有休取得が多いとかの理由で評価が低くなったりもするよね」など、さまざまな声が上がりました。

「心証が悪い」ことは解雇の理由たりうるのでしょうか。オトナンサー編集部では、グラディアトル法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞きました。

解雇について制限的に考える傾向

Q.「心証が悪い」ことを理由とする解雇は法律上認められるのでしょうか。

刈谷さん「法律上、解雇については労働契約法第15条に規定があり、『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする』とあります。従って『心証が悪い』という理由で解雇することが有効かどうかは、客観的に合理的であり、社会通念上相当であるかどうかによって判断されることとなります。そして裁判所は、労働者と雇用者の立場の違いや、権限の違いを重視して、解雇についてはかなり制限的に考える傾向があります。雇用者には、業務上の指揮命令権もあるほか、解雇よりも軽い処分(始末書の提出、出勤停止、減給処分など)を下して反省を促すこともできるため、契約関係そのものを解消させる解雇については、会社の側でやれることを全部やった上での最後の手段でないと、有効性は簡単には認められません」

刈谷さん「この点、労働者の成績が下位10%未満であり、能力不足を理由として行われた解雇処分につき、『さらに体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もあるというべき』と判示した上で、権利濫用を理由に解雇を無効と判断した裁判例もあります(東京地決平成11年10月15日)。能力不足という、仕事に直結する理由であり、実際に処分を行った段階では成績が振るわない状況であったにもかかわらず、裁判所は解雇を無効と判断しているのです。この裁判例及び解雇に対する裁判所の姿勢からもわかるように、裁判所は解雇に対してかなり厳格に判断するので、『心証が悪い』『残業をしない』『有給をよく取る』などの抽象的な理由や何らの義務違反もない状態での解雇が、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認めることはまずないと考えられます」

法的に争う場合「就業規則」の確認を

Q.「心証が悪い」ことを理由に解雇や降格、不当な社内評価などがなされた場合、従業員はどのような法的措置を取ることができますか。

刈谷さん「『心証が悪い』などの不合理な理由で解雇などの処分を受けてしまった場合で、法的に争うことを考えるのであれば、まずは『就業規則』の確認です。可能であれば、就業規則をコピーしておくことが望ましいです。また、就業規則の確認と同時に解雇などの処分理由が記載された書面の交付を会社に請求しましょう。その上で、会社がどのような理由で処分を行っているのかを明確にし、裁判上の争点を弁護士に相談の上で確定することが必要です。どの点を争って行くのかが確定したら、法的手段としては、仮の地位を定める仮処分という制度を利用して取り急ぎ従業員としての地位を回復する方法や、同様に迅速な手続きとして労働審判という制度を利用する方法、労働審判を経ずに民事訴訟の提起を行う、などが考えられます。労働審判は短期で紛争を解決するために設けられた制度で、原則的に申し立てから1~2カ月以内に解決することが多く、期日も2回までで解決することがほとんどです。スピードが速い分、訴訟のように厳格に証拠を精査するわけではなく、異議を申し立てられば訴訟に移行してしまいますが、労働審判の結果は訴訟でも重視されるのでまずは労働審判を申し立てるのがよいと思います。ただし、いずれにしても会社側と本格的に争う形となりますので、勝っても会社に残って元の業務に従事するのが難しくなるのが実情です。法的手段は、その会社と決別しても構わないという強い決意ができてからにすべきです。疑問があれば、まずは法律事務所の無料相談を利用されるのをお勧めします」

(オトナンサー編集部)

「心証が悪い」ことは解雇の理由になる?