インタビュー中でも触れているが、2017年のandropの動向を「想定内だった」と言える人はほとんどいないんじゃないか。それくらい、彼らは新たな試みへと次々に挑み、成功させていった。Creepy Nutsとのコラボレーション及びこれまでのパブリックイメージを清々しく破壊するMV、初の野音ライブ、そして初のビルボード公演などなど。
本稿ではいま一度、andropがどのようなマインドに基づいて2017年を送ったのかを振り返りつつ、それらの経験の上に生まれた新たな楽曲――ニューシングル「Joker」の全貌に迫った。

──2017年の活動を振り返ると初物づくしで、それはimage world設立以降の流れでもあると思うんですが、今のandropはどういうモードなんですか?

内澤image worldを立ち上げてからは、バンドとしてまだやってないことをやっていこうという気持ちがすごく強くて。そもそもimage worldって、自分達がワクワクするものとか、自分達の音楽を聴いてくれる人に対して驚きを与えたいという想いから設立したんですよね。それもあって、2017年は新しいこと、バンドとしてまだやっていないことを意識的にやってきました。まだまだやりたいことはあるんですけど、結構詰め込んでましたね。

佐藤:それができるようになったのは、バンドとして余裕が出てきたからなのかなとも思うんですよ。今までであれば、たとえば、ビルボードでやろうっていう発想が出てこないぐらい、目の前のことに必死というか、自分達のキャパシティが追いついていない部分があったし。対バンツアーをやろうという話があっても、ワンマンに集中したいからとやめていた部分もあったので。

──佐藤さん的に2017年の印象的なトピックをあげるとすると?

佐藤:どれもかなり濃く残ってますけど、野音でのワンマンですかね。僕ら以上に周りのスタッフやお客さんが喜んでくれた気がします。しかも熱い想いを持って「野音でやるんだね!」って言ってくれて。あれは嬉しかったですね。

──野音ワンマンは拝見していたんですけど、なんというか、結構大変でしたね(苦笑)。

佐藤:雨が降る想定はしてなかったですからね(苦笑)。なぜかわからないけど、きっと晴れるっていう変な自信があって。でも、(雨が降ったことで)それはそれで、レーザーが雨粒にあたってきらきら光ったりという予想外の演出も生まれたし。

──あれは本当に綺麗でした。

佐藤:そこはライブDVD(『one-man live 2017 at 日比谷野外大音楽堂』/1月10日発売)にも綺麗に入っているので(笑)

──見所ですね。前田さんはいかがでしたか? 新しいことづくめの2017年を振り返ってみて。

前田:どれもすごく楽しかったし、どれもが先を見据えることのできるものだったというか。対バンであればまた違うバンドとやりたいとか、ビルボードであればまた違う形でやりたいとか。ひとつひとつをまたブラッシュアップしてやっていきたいと思えたので、はじめの一歩を踏み出した1年だったかなと思います。

──印象的なトピックを挙げるとすると?

前田:「SOS! feat. Creepy Nuts」ですかね。Creepy Nutsとは元々友達で、仲間と一緒に音を作れるというのはすごくいい体験でした。彼らはヒップホップ畑でやってきた人であって、勝手の違うところもたくさんあったし、真面目なんだけど破天荒な人だから。いろんなものを取り入れていけたらいいなというのは、メンバー各々感じてると思いますね。

androp 撮影=西槇太一

androp 撮影=西槇太一

──内澤さんは、Creepy Nutsと制作して感じたことや学んだことというと、どんなものがあります?

内澤:たくさんありましたよ。楽しかったし。なんだろうな……サビのことをバースって言うようになった(一同笑)。

佐藤:そう言うとカッケーっていうね(笑)

内澤:なんかそれっぽいっていう(笑)。R(-指定)くんと一緒に歌詞を作ったんですけど、ボキャブラリーの多さとか、頭の回転の速さに驚きつつ。あと、僕はRくんってしっかりと言葉が聴こえるラッパーだと思っていて。そのうえで、こうやって歌詞を書いていくんだなと見ていたり。そうやって歌詞を誰かと一緒に作る作業も初めてだったので、すごく刺激になったし、新しいなって思いましたね。

──そういえば、「SOS! feat. Creepy Nuts」のMV撮影のときも雨でしたね(笑)

内澤:そうそう、そうだ(笑)

佐藤:あのMVも今までにやっていないことだったんですよ。敢えてどういう内容にするか話し合うことを事前にせずに、撮影日の前日に会議室に呼び出されて、明日撮影する内容を今からみんなで決めますっていう。でも、明日雨だよ?  しかも結構な暴風雨っぽいよ? じゃあ、海に行こうか、みたいなノリの部分と、あとは殻を破るというテーマもあって。僕らのことをよく知ってくれている監督だったんですけど、自分の殻は自分でしか壊せないということで、自分で考えてみようっていう。まあ、今までからは考えられないようなMVになりましたね。

──佐藤さんはだいぶ殻を破ってましたからね。

内澤そういえばそうでしたね(笑)

佐藤:まあ、あれを恥ずかしがってやってもね。

前田:中途半端になっちゃうから。でも恥ずかしかったでしょ?

佐藤:今思うと、なんであんなことをしたんだろうって(一同笑)。

内澤:まあ、前日でよかったよね(笑)

佐藤:1ヶ月前に「こういう内容でやります」って決めていたら、そのあいだにやっぱやめます!って言ってたと思う。

androp 撮影=西槇太一

androp 撮影=西槇太一

──伊藤さんは2017年を振り返るといかがですか?

伊藤:概ねみんなが話していたことと同じですけど、いろんな挑戦をしていたことでバンド自体が開けていたし、その状態だったからこそ、いろいろなことを吸収できたなって。そうやって活動してきて印象に残っているのは……やっぱりビルボードかなあ。ジャズテイストや、ブラックミュージックっぽいアレンジに変える作業をしたりして、年の最後の最後でこれまでと全然違う音楽的なチャレンジができたので。純粋に、音楽的にいろんな振れ幅やジャンルサウンドのおいしいところを学んだ1年だったような気もするし、そういうものがひとりひとりの作曲や作詞とか、演奏の糧になった1年でしたね。

──そんな1年を経て、1月10日シングルJoker」をリリースされます。以前からエレクトロやダンスミュージックの要素を取り入れていましたが、それとはまた毛色が違うといいますか。ヒリヒリとしたサウンドで、歌詞も切迫感があるけど、最終的には光を目指していくとものになっていますね。この曲は映画『伊藤くん A to E』の主題歌になっていますけど、制作はどういうところから始めたんですか?

内澤:今回のお話が来てから、原作の小説と脚本と、それまで放映していたドラマを拝見しながら、デモを作っていきました。

──こういう曲がいいというオーダーみたいなものはありました?

内澤:最初に作ったデモのときから、雰囲気はほぼ今の形だったんですけど、バンドサウンドメインにしていて。イントロギターのリフから始めていたし、Aメロも辛辣な言葉を早口で歌うような感じだったんですけど、映画のプロデューサーとお話しさせてもらったら、andropが今までやってきたエレクトロな部分も好きなので、そこを聴いてみたいと。あとは、Aメロの早口をもうちょっとメロディーのある形で聴いてみたいというのと、歌詞にあった<本当は特別になりたいの>というフレーズに引っかかったから、そこを深く聴いてみたいと言ってもらえて。そこから今の形になっていきました。

伊藤:音の面では、前に出したandropとの違いも出したかったし、今回はなんでもかんでも取ろうとして、中途半端になるのはちょっとやりたくないなと思って。たとえば、生の音で打ち込みを目指したり、その逆で打ち込みだけど生っぽくしたりとか、そういう方法がいいときもあるけど、今回はそこを割り切ったというか。レコーディングのときもキックキックだけ、スネアはスネアだけで録って、それぞれの音をミックスの段階で作り込みやすいものにしてもらったりしていて。

──そうなんですね。

伊藤:今までは、ワンテイクで録ることがかっこいいとか、自分の演奏がよかったからバンドに貢献しました、みたいなメンタリティだったんですよ。もちろんそこは目指したいし、自分のこだわりを出したことが結果に繋がるならいいけど、それが繋がっていないのに“繋がってますよ然”とするのは嫌だったんですよね。それよりも、最終的にパンチのあるものにしたいと思っていたし、内澤くんが“こういうものにしたい”と思っているものを、より研ぎ澄ませたいなと思って。だから、僕的にはいい意味でこだわりを捨てて、そういうモードに切り替えてやったのが、最終的にこの音に繋がったんじゃないかなと思ってます。

前田:僕はそれと逆だったというか。曲の雰囲気的にシンセベースにしようかなと思っていたら、“シンセベースみたいな音でベースを弾いてほしい”ってこの楽曲のプロデューサーに言われて。打ち込みみたいな感じは目指したいんだけど、ベースバンド感を担う役割をしてほしいっていう。それでフレーズもちょっと生っぽい感じのものを入れたりしたから、ドラムとはまたちょっと違う立ち位置ではありましたね。

androp 撮影=西槇太一

androp 撮影=西槇太一

──それぞれがいろんな立ち位置を担っていたと。佐藤さんはいかがですか?

佐藤:僕としても今までやっていなかったことをチャレンジしてますね。今まで触ったことのなかった7弦ギターでヘヴィなサウンドを作ったり、ギターソロは“好きなようにやってみて”と言われたので、楽曲に寄せるというか。もがいている感じ、混沌としている感じを出せたなと思うし、いろいろと挑戦できました。

──歌詞は原作を踏まえた部分もありながら、どういうものにしようと思ってましたか?

内澤:映画に出てくる“伊藤くん”は、女性を振り回して優位に立つことで、俺は誰にも負けない、俺は悪くないという気持ちで前に進んでいくし、女性は女性で振り回されて悲しい思いをしているけど、それでも前に進んでいこうとするんですよ。それは映画の話だけじゃなくて、自分の身の周りにもある話というか。自分も、傷つけるつもりはなくても、相手をふと傷つけてしまった瞬間があったり、逆に自分が傷つけられたり、思い悩む瞬間があったりするんですけど、それでも僕らは生きていかなきゃいけなくて。
そのために何が大事なのかというと、やっぱり自分がその先にあるものを見つけて進んでいくことなんですよね。だから、映画を観た人とか、この曲を聴いた人に対して、“いろんなことがあるけれど、それでももがいて先に進んでいこう”という歌にしたかったし、そうすることに光があるんじゃないかと僕は思うから、この言葉が出てきたんだと思います。それこそ自分の中で生まれた声だと思うので、それを信じて次のところに行こうという想いを込めて作っていきました。

──その歌詞から「Joker」というタイトルに結びつけたのがおもしろいなと思いました。

内澤ジョーカーって、道化師とかペテン師っていう意味があるんですけど、歴史上、ジョーカーと呼ばれている人って、王に仕えているけど、王を唯一バカにできる存在だったみたいなんですよ。それに、トランプジョーカーってすごく強いじゃないですか。その強さって、数字を持っていないからなのかなと思って。
映画の“伊藤くん”って、戦わないことで優位に立とうとするというか。相手と同じフィールドに立たないことで自分が勝っている、負けていないと思っているんだけど、そこが数字を持っていないジョーカーと似てるなと思って。戦わずして勝つことって、人からすると逃げていると思われるけど、人間ってそうしようとするところってあると思うんですよ。そういういろんなものと重なって「Joker」が一番いいんじゃないかなと思って。

──なんか、改めて考えるとジョーカーって不思議な存在ですよね。あるゲームでは誰もが欲しがる最強のカードだけど、別のゲームになるとみんなに嫌われる悪役になって、二面性みたいなものがあるというか。

内澤:歌詞としても、映画を観た人が“伊藤くん”にあわせてこの歌詞を読むだけじゃなく、“伊藤くん”が振り回している女性側から読むこともあるだろうなと思ったので、その両方が成り立つような歌詞にしたいとは思ってましたね。裏と表というか、両方があって成立するようなものにしようと思ってました。

──そして、もう一曲の「Ao」も今までなかった曲調ですね。ファンタジックで暖かな雰囲気がありますけど、この曲は日本赤十字社 平成30年「はたちの献血」キャンペーンソングになっていると。

内澤:お話をいただいてから、どういうメッセージや音がいいのか考えたんですよ。そのときに思い出したのが……「Joker」のレコーディングのときに、前田くんユーフォニウムを吹いてたんですよね。ビルボードのライブでやろうかなみたいな話をしていて。

前田:でも、本当に中高の吹奏楽レベルですけどね。ビルボードで新しいことにチャレンジしたかったんですけど、他の楽器をやるとなると、俺が持ってる球はそれしかないなと思って。

佐藤すごい球だけどね(笑)

前田:でも、高校のとき以来吹いてなかったら、できるのかなと思ったら、意外と体が覚えていて。なんか、チャリと近いというか。

内澤:で、僕らがレコーディングしている脇で、前田くんユーフォニウムを吹いてたんですけど、その音を聴いていると幸せな気持ちになるというか、多幸感があったんですよね。その多幸感と、はたちの献血というテーマが合致したのと、今まで管楽器をしっかりレコーディングして、曲にしたことはなかったからいいなと思って。

androp 撮影=西槇太一

androp 撮影=西槇太一

──前田さんは、この曲でユーフォニウムを吹いてるんですか?

前田:本当に若干ですけどね。この曲は60年代とか70年代の音像をみんなで目指していたんですよ。ビートルズっぽい感じにしてみようっていう話も出たので、ベースもそれに倣ってというか。ビートルズの曲って、ポール(・マッカートニー)のベースラインがすごく印象的だけど、あれって、全部の楽器を録り終わった後にベースを録っていたらしいんですよ。そうやって音の隙間を縫っていたというか。それを僕もやってみたいんだけどって話したら、おもしろそうだということになって。で、いろいろ好きに言ってもらって、みんなでベースラインを作っていったのが楽しかったですね。

佐藤:僕はビートルズがすごく好きなので、ベースフレーズを考えるのが楽しかったですね(笑)ポールだったらきっとこうやるんじゃないの?って言うと、“本当に?”と言いながらもやってくれて。ワイワイやれたのが楽しかったです。

伊藤:逆に、僕はどちらかというと、ギターが歪んでいるような、(レッド・)ツェッペリン以降のバンドが好きだったので。だから、みんなにいろいろ教わりながらやっていたのと同時に、「Joker」の話とも通じるんですけど、自然と出てくるもの以外のこだわりは、なるべく排除して演奏してました。キャンパスに自分のこだわりを塗るというよりは、なるべく白い状態で次の人に渡すようにしていたし、結果として他の楽器のフレーズに耳がいくものになったなと思います。

──そして、4月からは全国5ヶ所を廻るホールツアーがあります。

佐藤ホールツアーは過去に一度だけやったことがあるんですけど、それは東名阪のみで、しかもかなり前なんですよ。野音も椅子はありましたけど、屋内で曲をしっかり聴かせられるなと思っていて。新しい曲もその頃にはいっぱいあると思うので、それを観てもらえるのが楽しみですね。

──もう次の曲を作っているんですか?

佐藤:今いろいろやってますよ。

──結構順調に?

内澤:いや、全然停滞してますよ(一同笑)。ビルボードに気持ちがいっちゃってたから(取材は12月)。

佐藤:でもまあ、完全に止まっているわけでもなく(笑)、一年通してずっとデモを作り続けていたんですよ。『blue』以降、みんなが曲を作るようになったし、曲作りは常に進行しているので。

──挑戦の多かった2017年を経て、新しい曲達がどういうものになるのか、いい意味で見えないのがすごく楽しみです。

内澤:今までで一番メンバーひとりひとりが開けているというか、自分の楽器を飛び越えたところでいろいろ考えられるようになっているから、プロデューサーが4人いる感じなんですよね。いろんな意見の中で一番いいものが出来上がっている感覚があるから、そういった意味で、今までで一番新しいもの、開けているものができるんじゃないかなと思ってます。


取材・文=山口哲生 撮影=西槇太一

androp 撮影=西槇太一

androp 撮影=西槇太一

new singleJoker
2018年1月10日発売
「Joker」

Joker

初回限定盤 (CD+DVD) UPCH-7365 ¥2,484(税込) ¥2,300(税抜)
【CD】
1. Joker 映画「伊藤くん A to E」主題歌
2. Ao
3. Colorful (Billboard Live ver.) 
4. Roots (Billboard Live ver.) 
DVD
JokerOfficial Movie
one-man live 2017 at 日比谷野外大音楽堂」Digest Movie
Making of 「one-man live 2017 at 日比谷野外大音楽堂」
●通常盤 (CDのみ) UPCH-5926 ¥1,296(税込) ¥1,200(税抜)
【CD】 
1. Joker 映画「伊藤くん A to E」主題歌
2. Ao
3. SOS! (Billboard Live ver.) 
 
DVDBlu-rayone-man live 2017 at 日比谷野外大音楽堂』 
DVD UPBH-1456 5,184(税込)  4,800円(税抜)
Blu-ray UPXH-1063 6,264(税込)  5,800円(税抜)
≪収録内容≫
Kasumi
BGM

 

ツアー情報
全国5大都市ホールツアー
2018.04.28(土) 愛知・日本特殊陶業市民会館フォレストホール
open 17:00 / start 18:00
2018.05.03(木・祝) 宮城・仙台電力ホール
open 17:00 / start 18:00
2018.05.12(土) 福岡・福岡国際会議場
open 17:00 / start 18:00
2018.05.26(土) 大阪・NHK大阪
open 17:00 / start 18:00
2018.06.03(日) 神奈川パシフィコ横浜国立大ホール
open 17:00 / start 18:00
チケット代金 指定席 5,800円(税込)
※6歳以下の入場不可
androp 撮影=西槇太一