スペインのスカウト哲学は「一人で全員を抜けるならそれが勝つための最良の手段」

「デポルのスカウトに『どんな子をスカウトするの?』と聞いたら、返答は一言『ドリブルができる子だ』でした」――安永聡太郎(元横浜FM、リェイダほか)

 かつてスペインプレーをした安永聡太郎氏は、引退後に知り合いのデポルティボのスカウトと食事をして、育成談義に花が咲いた。

「どんな子をスカウトして来るの?」

「ドリブルができる子だ」

 スカウトは続けた。

「子供には、まず11人全員を抜け、と指示する。一人で全員を抜けるなら、それが勝つための最良の手段だ。だが年齢を重ねれば、11人が10人……3人と、だんだん抜ける相手が減っていく。そして最後に1対1でも苦しくなったら、パスを教えるんだ。そこで子供たちは、パスの有効性を理解する。パスから入ると、絶対にパスコースを探す。しかしパスを選択するにしても、行ける時は自分で行くんだという前提がなくてはいけない」

 安永氏は、帰国して河川敷を走りながら、子供たちの練習風景を目にする機会が増えた。スペインと日本、あまりに発想がかけ離れていて愕然とした。

「日本では小学生メチャメチャ走らせている。必要な走りならいいんです。でも無闇に走り回るのは意味がない。結局日本では、個で勝てないから組織で、という発想でやっているけれど、それではいつまで経っても個が育たない」

個々が仕掛けられる選択肢を持つからパスもつながる

 同じパス回しでも、アルゼンチンと日本を比べれば、圧倒的に前者の方が挑発的だった。

アルゼンチンがあんなにパスを回せるのは、1対1だろうが1対2だろうが、絶対に取られないという技術があるからです。そうでないとボールは前に進んでいかない。逆に1対1でボールを奪われる可能性が50%もあれば、慌ててパスをつなごうとしてミスをしますよね」

 パスしかできない選手たちが集まっても、パス回しは続かない。また危険地域にボールを運ぶこともできない。逆に個々が仕掛けられる選択肢を持つから、パスもつながる――。

 それが攻撃を優先するスペインの哲学だった。(加部究 / Kiwamu Kabe)

加部究
1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランススポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

スカウトはどのような子供に目をつけるのか?【写真:Getty Images】