今期も良作が多く、「豊作」という言葉で形容したくなる2018年の冬アニメ

【あれから10年】厳選!「2008年のアニソン」Best10―『星間飛行』からあの電波ソングまで

その主題歌も沢山の良曲と名曲が揃っているのですが、今期のアニソンは例年以上に「歌」の力がストレートに音楽的な個性へと繋がっているナンバーが多い印象を受けました。

シンガーの歌と美声に注目すべき2018年の冬アニソン。各作品、主題歌に触れつつ、歌心タップリなアニソンをご紹介します。

"歌モノ"としての魅力的な主題歌が揃った『ゆるキャン△

今期のアニメの中でも、特にその主題歌の魅力に刮目すべき作品が『ゆるキャン△』でしょう。

本作は、『まんがタイムきららフォワード』連載作のアニメ化で、所謂"きらら系アニメ"の系譜にあたる作品。しかしながら、そうしたアニメの主題歌におけるスタンダードと言うべき「主演声優による声優ユニットソング」という形式をオープニングでもエンディングでもオミットし、アニソンシンガーによるソロ曲を使用することで、独自性の高い音世界を生み出すことに成功しています。

オープニング曲は、亜咲花さんが歌う『SHINY DAYS』、そして、エンディング曲は、佐々木恵梨さんの『ふゆびより』。

前者は、ジャクソン5へのオマージュタップリ詰まったソウルフルなポップスナンバーで、ジャイブ感のある鍵盤の音色をリードに、跳ねるようなリズムやファンキーなギターカッティング、モータウン的な女性コーラスなど、ソウルミュージックを巧みにアニソンへと落とし込んだ音作りに思わず耳を奪われます。

まさ、そこに乗る亜咲花さんの歌声も、聴く者の心に温かみを与えてくれるような陽色の輝きを有しており、凝りに凝った編曲以上にシンガーとしての個性をリスナーに印象づけます。

これまでにリリースしてきたシングル曲では、ドラマティックでハードなメロディに乗せて力強い歌声を聴かせてくれた亜咲花さんですが、本曲では、その歌声が持つポップな側面が強く打ち出されており、ポップスシンガーとしての高い実力をアニソンファンに見せてくれました。

ふゆびより』も"歌"の魅力を全面に押し出した楽曲で、たおやかな歌声が歌詞とメロディを紡いでいく様が何とも快い。この曲で聴くことができる佐々木さんの声は、どこまでもイノセントで、まさに歌詞で描かれる冬の景色のような澄み切った空気を思わせます。

何よりも歌そのものに求心力があるナンバーで、各種楽器の演奏も歌声を邪魔しない程度に、あくまで控えめにレイアウトしている点が心憎い。間奏パートに、口笛を持ってくるという一工夫も楽曲にヒューマニズムを加えており、佐々木さんの歌をより一層引き立たせています。

オープニング、エンディング共に"歌モノ"としての底力を感じさせる楽曲で魅せてくれる『ゆるキャン△』。『けものフレンズ』での仕事で一躍アニメファンの注目を集めることとなった立山秋航さんの劇伴も含めて、今期作の中でも特に音楽面で楽しませてくれる作品です。

スロウスタート』のエンディング曲は、作品性に沿った歌詞と歌が聴きどころ

ゆるキャン△』と同じく、きらら系アニメである『スロウスタート』のエンディング曲『風の声を聴きながら』も歌モノとしての完成度が際立つ楽曲です。

三月のパンタシアにとって、5枚目のシングルとなる本曲。本ユニットでヴォーカルを取る「みあ」さんの声と歌心を中心とし、ジックリと聴かせる楽曲に定評のある三月のパンタシアですが、その歌声の魅力は、最新曲となる本曲でも健在です。

優しくも、どこか儚げな印象のあるヴォーカルは、同ユニットならではの大きな強みであり、思わず引き込まれてしまうような不思議な求心力がある。

また、『スロウスタート』の世界観に沿った歌詞世界は、どこまでもエモーショナルで、アニメ本編のストーリーや主人公の心情に思いを馳せながら歌詞を追っていくと、より一層豊潤な歌世界が目の前に広がります。

"きらら系アニメ"らしい元気いっぱいのオープニング主題歌『ne! ne! ne!』との間に上手くコントラストもついており、楽曲単体では勿論のこと"主題歌"としても完成度の高い1曲です。

まだまだあります!推し冬アニソン

カヴァー曲から溢れる高橋李依さんの歌心『からかい上手の高木さん

"歌"に焦点を絞って今期のアニメ作品を見てみると、『からかい上手の高木さん』も実におもしろい試みを行っています。

本作のエンディング曲では、主役の高木さんを演じる高橋李依さんが歌うJ-POPのカヴァー曲を使用しており、"アニソン"として再解釈された「いきものがかり」や「HY」の名曲を堪能できるのです。

気まぐれロマンティック』や『AM11:00』といったゼロ年代の大ヒット曲が一種の"懐メロ"としてアニメ作品にカヴァー曲として使用される時の流れの速さと意外性に思わず愕然としてしまいますが、どの楽曲も高橋さんのポップで可愛らしい歌声と高木さんのコケティッシュなキャラクター性が曲本来の良質なメロディに新たな息吹を与えており、新鮮な気持ちで聴くことができます。

あくまで高橋さんの歌声を主役とし、音の配慮とバランスの行き届いた編曲や、アニメ作品の主題歌として「1分30秒」の尺に収まるようにテンポや構成を調整したアレンジャーの仕事も素晴らしい。

高橋さんの"歌"の強さに加えて、選曲の妙やアレンジの手法にも注目すべき本作のエンディング曲。これからどんなヒット曲がカヴァーされるのか、とても楽しみです。

ハクメイとミコチ』は、歌に加えてアレンジャーの仕事にも注目!

最後にその歌の魅力をピックアップしたい楽曲が、『ハクメイとミコチ』オープニング曲の『urar』です。

北海道在住のシンガーソングライターであるChimaさんの新曲で、兎にも角にもその美声と囁くような特徴的なヴォーカルスタイルが全力で感性を揺さぶりに掛かってきます。

クラムボンのミトさんやTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDの松井洋平さんが参加しているアニメ音楽ユニット「TO-MAS」へのフィーチャリングヴォーカリストとしての参加(『フリップフラッパーズ』ED曲の『FLIP FLAP FLIP FLAP』)や、『ゼロから始める魔法の書』の主題歌を担当するなど、近年では積極的にアニメ関連の楽曲もリリースしているChimaさん。

実力派シンガーソングライターらしく、自身の歌世界をシッカリと確立しつつも、各アニメ作品の世界観に合わせて楽曲をクリエイトする技術には目を見張るものがあり、今後の活躍にも要注目の歌い手です。

また、本曲は、アレンジャーとして高野寛さんが参加している点にも触れておかなければなりません。90年代に『虹の都へ』や『ベステンダンク』などの大ヒット曲を生み出し、以降も、様々な音楽ユニットでの活動や良質なソングライティングで知られる高野さん。

普遍的なポップス性に、ニューウェーヴを通過したマニアックな音楽エッセンスを加味した通好みの音楽的才能を持つ高野さんらしく、この『urar』においても、Chimaさんのアコースティックなサウンドにエレクトロニカを思わせるアブストラクトな音響を付与することで、独自の音を作り出しています。

一種の実験性も感じさせるサウンドアプローチではありますが、とはいえ、"歌モノ"として一切、芯がブレていないのは、Chiamaさんの歌声の個性に依るところが大きいのでしょう。

歌い手のアーティスト性とアレンジャーの才気を同時に感じられる1曲であり、そこから生み出される寓話性を含んだサウンドは小人による生活を描いた『ハクメイとミコチ』の物語性とも相性抜群。「グレート!」な今期のアニソンです。