吉岡里帆主演の火曜ドラマ/『きみが心に棲みついた』パステルカラーで彩られたファンシーな画面、なんでそこにいるんだよ! 的な偶然が続くマンガ的な展開、そして吉岡里帆の20%ぐらい過剰な演技が織りなすバッドテイストトライアングルの中で、依存とハラスメントが渦巻くダークな物語が展開中だ。(原作)

「あの人に振り向いてほしいから」という不純な動機
第3話では星名(向井理)のたくらみで会社の下着発表会で自ら下着姿を晒すという恥辱を味わい、どん底状態に叩き落された“キョドコ”こと小川今日子(吉岡里帆)。先週放送された第4話では一転して、上司の八木(鈴木紗理奈)に企画書を認められるところからスタートする。人生、悪いこともあれば良いこともある。これは今日子の運気も上向いてきたのか? ……と思いきや、星名に出くわした瞬間“キョドコ”に逆戻り。この人、悪い運気を自分で引き寄せている。

「私、やっぱり星名さんにどう思われてるかが大事っていうか……」

この言葉は、今日子が星名の“呪い”でがんじがらめになっていることをよく表している。

そこにやってきた彩香(石橋杏奈)は勝ち誇った表情。今日子は彩香が昨日と同じ服を着ていることを一瞬で見抜き、すべてを察する。

どうでもいいが、原作では彩香(原作での名前は友香)が星名に抱かれているハードめなベッドシーンが何度もあるが、ドラマではそのあたりを全カット。これは石橋サイドが露出を控えたいと申し出たのではなく、露出を吉岡一本に絞ってインパクトを出したいというドラマ演出サイドの思惑ではないかと予想する。

星名にプロジェクトからの降格をチラつかされた今日子は、彼の腕にとりすがる。まるで母に捨てられそうな子のようだ。

「お、お願いします、星名さん。も、も、もうデートなんて望みません。だから、せめて、仕事だけは私から取らないでください……」

その直前、ネジネジを掴まれて首を締め上げられていたというのにこのありさまだ。それでも星名の「お前の頑張り次第じゃないか」という言葉を真っ正面から受け止めて、仕事に精を出す。しかし、その頑張りの根っこにあるのは、星名への歪んだ執着だ。

「よいものを作るためじゃなくて、あの人に振り向いてほしいから……」

吉崎(桐谷健太)が言うように、仕事の動機は不純でもかまわない。「女の子にモテたいから」と始めたバンドの曲が人の心を救ったりすることもある。だが、今日子の場合、その動機そのものが自分の心を蝕んでいる。

「俺は何があっても作家さんの一番の味方」
「いや、忘れてください。僕が先生の描きたいものをわかっていなかったんです。アンケートとか気にしないで、まずは思いっきり描いてみてください」

ドラマの箸休め的に挿入される吉崎とマンガ家スズキ次郎(ムロツヨシ)の打ち合わせだが、2人のやりとりからは吉崎の考え方や性格が透けて見える。たとえば、上のやりとりからは吉崎がスズキの考えを一旦丸ごと受け入れて、そこから物事をスタートしようとしていることがわかる。

ネガティブなことをメールで書き連ねてきた今日子をわざわざ呼び出し、食事を採らせる吉崎。一番バッドな状況の相手を引き受けようとしているのだからエラいなー、と思ってしまう。また、「俺は何があっても作家さんの一番の味方になろうと思ったんだ」という吉崎の言葉は、彼の職業に対する理念を表すと同時に、彼の性格や資質を表している。どうでもいいが、今どきこんなことを考えている編集者はとても少ない。

吉崎の言葉に感銘を受けた今日子は、再び猛然と仕事を始める。星名からもらったのが負の動機だとしたら、吉崎からもらったのは正の動機だ。今日子は吉崎が作家に対してそうしているように、上司の八木が求めるものを実現するために奔走する。

プレゼン対決では、彩香が繰り出してきたシルク100%の素材で作ったサンプルに打ちのめされるが、八木が「大量発注受けて、この在庫が切れたらどないするん?」と反論する。というか、彩香の伯父が経営する工場の在庫から作ったサンプルなんだから、コスト内に収まるのは当たり前。八木以外、あの場にいた人間が誰も指摘しないのはどう考えてもおかしい。とはいえ、このくだりは原作通りなのだけれど。

「まず理解に徹し、そして理解される」
今日子が八木の信頼を得ることができたのは、八木のために必死に尽くしたからだ。これは世界的ベストセラーの自己啓発書『7つの習慣』に書かれていることと非常によく似ている。よく知られる「Win-Win」という言葉もこの本で広まったものだ。

『7つの習慣』で「第5の習慣」として取り上げられているのが、「まず理解に徹し、そして理解される」という項目だ。これはその言葉どおり、相手がいかに頑迷な上司であっても、まず相手のことを理解することを薦めている。そのためには相手に感情移入して、何を求めているかを考え抜かなければならない。しかし、それが実現すれば、相手も自分を信頼するようになる、というものだ。今日子と八木がたどったプロセスは、ほとんどこのまんまである。

『7つの習慣』のベースにあるのは「インサイド・アウト」という思想である。簡単に言うと、うまくいかないのは周りのせいじゃない、まずは自分が変わることが大切、ということだ。そして「第1の習慣」は「主体的である」ことだ。『7つの習慣』についての書籍を何冊も記している佐々木常夫氏は「『7つの習慣』のうち、第1から第3までの習慣が目標にしているのは、『依存』の状態から脱して『自立』した人間になることである」と説明している。これって今日子が一番読まなきゃいけない本じゃない! 

吉崎の言葉は今日子に良い影響を与えたが、星名は今日子のまわりにいる吉崎にあからさまな敵意を燃やす。いよいよ2人が本格開戦!? 第5話は今夜10時から。
(大山くまお

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『きみが心に棲みついたS』2巻/天堂きりん