目の見えない人が指先で触れることによって読むことができる文字、点字。街中にあるエレベーターや駅の切符販売機などにも表記されていますよね。この点字の読み書きを伝える役目を担っているのが、点字指導士の方々です。今回は、特定非営利活動法人日本点字技能師協会の会員であり、点字指導を行っている館佳子さんに、仕事内容について詳しく伺いました。

視覚障がい者のサポーターが増えることが、一番の思い

Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えてください。

私は視覚障がいのある方や、点訳者を目指す人へ点字の指導をしています。指導の場はさまざまですが、主に自治体や社会福祉協議会、ボランティアセンターや企業などが主催する点字講習会で点訳の初級・中級・触読(指で読む点字)を指導します。また、学校で授業を行うこともあります。点字の歴史や概要、点訳の仕方など点字にまつわる知識はもちろん、視覚障がい、点訳ボランティア活動・ガイドヘルプを行う際の基本など、視覚障がい全般に関する知識についてもお伝えしています。

<1日のスケジュール>
(例)市の福祉課主催の点字講習会 
10:00~12:00 上半期…中途失明者講習会(触読の講習会。50音の点字を覚えることからスタートし、簡単な単語や短文を触読する)
下半期…点字初級講習会(点訳者初級養成講習会。仮名遣い・数字・アルファベット・記号を覚え、点字の基本的な書き方を習得)
13:30~15:30 点字中級講習会(1年かけて、初級で習得した点訳の知識を、さまざまな形式の文章へ応用していく中級講習会。基本的な点字本の作り方も学ぶ)

帰宅後 自宅で提出された課題の添削、次回講習の準備など
 

Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?

いろいろな世代の方と出会えるのが一番の魅力です。講習会の初日はとても緊張しますが、受講者のお顔とお名前を覚え、提出された課題の点字を読ませていただくのがとても楽しみです。それがとてもきれいな点字であったり、その人のペースで上達していることが伝わってくると、とてもうれしいです。また、生徒さんとの交換日記も楽しいですね。全員と点字のやりとりをすることはとても大変ですが、点字で自由に書かれた文を読ませていただくうちにその人への理解も深まり、とても有意義な時間です。

また、私が点字を教えた方々が点訳ボランティアとして大いに活躍している姿を拝見すると、この仕事のやりがいを感じます。特に点訳だけでなく、視覚障がいを持つ人のサポートにも率先して関わってくださると喜びもひとしおです。視覚障がい者のサポーターが増えること、それが私の一番の思いであることを実感できます。

 
Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?
 
点訳にはたくさんのルールがあります。また、言葉は生きているので絶えず変化していくものです。そのため、点字の習得は簡単ではありません。「点字は難しい」という印象だけが学んだ人の心に残らないように、また教えたことで点字が嫌いにならないようにと願いながら指導をしています。

一方で、6点の組み合わせで50音アルファベット、記号を表す点字は、1点書き間違えただけでも大きなミスにつながることがあります。加えて点字は表音文字なので、書かれている漢字や人名、地名などをまず正しく読めなければ、書くこともできません。迅速かつ正しい情報伝達を心掛ける点訳者には、いつも完璧が求められています。「ボランティア」という緩やかなイメージで学び始める人もいますが、こういった厳しさも指導の中でお伝えしなければなりません。

また、デジタル社会の現代ではパソコン点訳が主流ですが、「パソコンやプリンターがなければ点字が書けない」ではなく、災害時などでも情報伝達ができるよう、きれいな点字をいつでもどこでも書けるようにするための指導をしています。点字を学ぶ人にとって、訂正も面倒な手打ちの点字は大きな負担です。それを習得する必要性をどのようにして理解していただくか、大切にしていただけるかというのは、私自身悩み、模索しながら伝えていることです。

高校時代に身に付けた努力する習慣が、今の仕事にも生きている

Q4. どのようなきっかけ・経緯で点字指導士の仕事に就きましたか?
 
何かボランティア活動をしたいと思ったとき、一人自宅で作業できる点字を選びました。しかし、点字を勉強する中で、人間同士のつながりや思いやり、優しさなど、机上のことだけでなく積極的に視覚障がいの方々と関わることの大切さを学びました。

そうして、とにかく点字をより深く学びたい一心でいろいろな講習会に参加し頑張っていたところ、尊敬する点字の先生方が、点字講師の仕事に私を推薦してくださったのです。
 

Q5. 大学では何を学びましたか?

大学では文学部日本史を専攻していました。当時学んだことで直接仕事につながっていると感じる点はあまりありません。しかし、高校、大学とキリスト教系の学校だったので、奉仕の精神を学ぶ中で、誰かのために何かをするということに目覚めていたのかもしれません。

 
Q6. 高校生のとき抱いていた夢や経験が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
 
どちらかというと、夢を持てない高校生でした。ただ、転入したことがきっかけで、勉強を頑張ること、努力することが身に付きました。できないこと、分からないことから逃げない姿勢が、高校時代に形成されたと思っています。

点字のルールは変化し続けています。そして世の中の情報を伝えるためには高い精度と専門性も問われます。つまり、一生勉強が続くのです。ですから、高校時代に勉強や努力をすれば一歩ずつ前進できると知ったことが今この仕事で役立っていると思います。他人と比べるのではなく、自分なりに努力することがとても大切だと思います。

点字を学んで好きになれたら、ぜひ追求してほしい

Q7. どういう人が点字指導士の仕事に向いていると思いますか?
 
まず、点字を学ぶうちに好きになれた人。あとは点字が書けて読める人、そしてその上達のための努力をいとわない人です。

また、学ぶ人それぞれのペースを見守り、その過程を大切に思える人。そして何よりも、視覚障がいを持つ方々と共に歩みたいと思える人が、この仕事に向いていると思います。


Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします。
 
まずは点字を勉強してみてください。そして、もし好きになれたら追求してください。この仕事は、点字の普及・啓発、ひいては視覚障がい者の理解にもつながるとても大切な仕事だと思っています。しかし点字を勉強して点訳者になっても、それを教える立場になりたいと思う人は多くないのが現状です。

もしかしたら今この記事を読んでいるあなたが、その道へ進むべき人なのかもしれません。そしていざ携わる日が来たなら、単なる学問としてではなく、追い求める先に視覚障がいの方々がいらっしゃることを、いつも忘れないでいてほしいです。
 

人と人がつながるのに役立つ文字、言語にはいろいろなものがありますが、点字もその中の一つだといえます。館さんのように点字指導に携わり、視覚障がいを持つ方や点訳者を志す方のサポートをしてみたい人は、まずはガイドヘルプの体験などに参加してみてはいかがでしょうか。技術の習得と共に、実際に関わって学ぶことでより多くの発見があるはずですよ。


profile】特定非営利活動法人 日本点字技能師協会会員、社会福祉法人 日本点字図書館 点訳奉仕員 館佳子
【取材協力】社会福祉法人 日本盲人社会福祉施設協議会
公式HP:http://www.ncawb.org/