2010年10月に投稿された初音ミクの名曲『ワールドイズマイン』の3DアニメーションPVが話題だ。3Dモデルとは思えないほどの豊かな表情と、redjuice氏の描いたイラストがそのまま動き出すような演出が魅力的な作品である。
このPVは『MikuMikuDance』という無料ソフトで作られているらしい。いったいどんな人が、どうやって作ったのか?
福岡に住むというM2さんに、skypeでインタビューを行ってみた。
――どうしてこういうものをつくったんですか?
ワールドイズマイン』の2枚目のイラスト、草原で手を広げているミクのイラストが凄く好きなんですね。これを再現したい、とおもって3Dモデルを作り始めました。
――どんなツールを使ってますか?
3Dモデルを作る『メタセコイアMetasequoia)』、モデルに動きをつけて映像にする『MikuMikuDance(以下MMD)』、そしてメタセコイアで作った3DモデルをMMDで使えるように変換する『PMDエディタ』を使っています。最近の3DPVでは定番となっている映像編集ソフトの『AdobeAfter Effects』などは使っていないので、すべて無料ソフトですね。
――完成までどれくらい時間がかかりましたか?
今回服の種類が多いし、ゼロから初音ミクのモデルを作ったのでモデルで半年、またMMDですべて完結させるために色々な工夫をしているので映像制作で半年かけています。1日の作業は集中してるときは4~5時間ぶっ通しでやっています。
――年齢やご職業というのは…。
えーっと、そういえば40歳でした。職業は肉体系で、デザインなどは初めてです。3Dなんて触ったこともなくて、MMDから3Dを始めました。
――3年くらい前に初めて、このレベルですか! いったいどこからそのやる気が!?
作業が面白いんですよ。自分の思い通り、自分なりを作れるという感じがいいです。
――でも、3Dモデルをゼロから作り、動きを一つ一つ手でつけていくのは途方もなく大変じゃないですか?
はい、つらいです。どれもめんどくさいです。でも、あるところまで進むと楽しさが出るんです。区切りごとの満足感にひたれるというか…ちょとずつできていくのが面白いんですね。
――他人の作ったモデルを使ったり、映像編集ソフトで効率的に作れる部分はあるのでは?
モデル職人さんや、3Dのプロにはとても及ばないないので、手数で補って少しでも良いものが作れたらと思っています。効率的にやるのは上手くできなくて…でも、逆に手間がかかるのが楽しいですね。自動的に制御されてしまう部分でも思い通りにやりたい性格なので。映像編集ソフトに関しては、MMDからの直接出力にこだわりたくて手を出さなかったという部分もあります。
――作品は非常に感情表現が繊細で、表情豊かですが、こだわりは。
他のモデルだと明るくかわいらしいというのが主軸で、深い悲しみとか、怒りとか表現し辛いんですね。可愛いミクだけじゃない部分を出したくて、表情のモーフィングは他モデルが20~40程度のところを、100近く作っています。コメントでは顔芸と言われてしまいましたが、その100を組み合わせてなるべく広い範囲の表情をさせようと考えました。
――作りたい人にアドバイスを。
無料で使えるソフトだけで、今すぐにでも挑戦できるのが魅力です。多くの人に気楽にチャレンジしてもらえたら、と願ってます。
3DのPV制作というのは膨大な手間がかかるものだ。そのために物理演算という仕組みや、映像処理ソフトによるエフェクトなど様々な技術を組み合わせ、少しでも作業を減らすというのがPVを作る上での王道である。しかし、多数のソフトを使う故にソフト代がかさみ、技術習得の難易度も上がっていたのもまた事実だ。M2さんはその手間を一切惜しまず、MMDだけで出力まで行っている。しかも3Dもデザインも初心者だというのが、驚きだ。年齢を引き合いに出すのも失礼な話ではあるが、40代ともなってゼロから技術を覚え、作品を作り出すというのは簡単なことではない。
M2さんはインタビューでは謙虚に「自分は他の人に比べてまだまだ」「構成やカメラが素人だから」「モデルのあの部分が…」と自分の至らない部分ばかりをあげていたのが印象的だった。「次作はの予定は?」と尋ねると「次はクリプトンボーカロイドモデルをすべて作ろうと思ってるので、早くて半年ですかね」とさらりと述べていた。情熱の炎は静かに燃え続けているようだ。
初音ミクワールドイズマイン【PV】 ‐ ニコニコ動画(原宿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm12614344
著:伊予柑[NKH]ニコ生企画放送局