国会が大荒れだ。

紛糾のタネになっているのは、安倍政権が今国会で成立をす働き方革関連法案のキモ、「裁量労働制の対拡大」だ。安倍首相が「裁量制の労働時間は一般の労働者よりも短い」と答弁した根拠(厚労省が作成したデータ)が、実はデタラメだったことが判明し、首相自ら答弁を撤回、陳謝する騒動となった。

裁量労働制とは、労使間であらかじめ決めた時間(みなし労働時間)だけ働いたとみなす制度で、基本的にはどんなに働いても働かなくても、給与は固定だ。すでに一部の職種への適用が認められている。

だが、その現場では長時間労働などによる深刻なトラブルが続発! 「裁量労働制ユニオン」代表の坂倉昇氏が、その事例を紹介してくれた。

ケース スマホゲーム制作会社(社員300人)正社員Aさん20代女性

Aさんのみなし労働時間は一日10時間。この中に一日2時間、45時間とする残業も含まれ、給は約30万円でした。

ところが、実際に業務をこなそうとすると、80時間以上の残業はザラ。繁忙期には100時間に達することもありました。ここまで長時間労働になるのは理由があります。会社はAさんに、ゲーム開発以外にも、イベント運営、自社サイトSNSによる宣伝業務、版権関連の外部取引業務といった“裁量労働制では認められていない仕事”をやらせていたのです。本来ならAさんには、その分の残業代が支払われなくてはなりません」(坂倉氏)

それから間もなくAさんは体調を崩し、療養先の病院からは適応障と診断された。その後、彼女は同ユニオンと裁量労働制の効と未払い残業代の支払いをめて会社と団体交渉を開始し、残業代に相当する額の解決を勝ち取った。

ケース ホームページ制作会社(社員10人)契約社員Bさん20代男性

「Bさんのみなし労働時間は一日8時間。3ヵの有期雇用で、給は22万円です。当初は、ウェブディレクターウェブ制作企画立案や進行確認をする仕事)として採用されましたが、入社後すぐ、裁量労働が認められていない新規開拓のためのノルマつきの電話営業や飛び込みセールスに駆り出され、ウェブディレクター仕事はほぼなかった。彼の残業時間は100時間をえることもありました。

その会社は『ウェブディレクター募集』と広告を打ち、Bさんはそれに応募していました。これでは、人の文言は悪質な“釣り”です。Bさんは退職後、ユニオンを通じて未払いの残業代請を突きつけましたが、会社側は『22万円の給に固定残業代として5万8600円が含まれており、支払いの義務はない』と請を拒否。今も交渉中です」(坂倉氏)

裁量労働制を悪用するブラック企業が横行する現状を、坂倉氏はこう説明する。

「裁量労働制の導入には社労士が関わっていることが多い。残念なことですが、残業代を圧縮したいという企業の注文に応じて、『裁量労働制を利用すれば残業代を安くできる』と、悪知恵を与える社労士が後を絶たないのです。裁量労働制は今や残業代カットの手法として確立してしまったと言わざるをえません」

こうしたブラック企業を見抜く方法はないのか?

タイムカードのない会社は要注意です。裁量労働制を悪用するブラック企業は『社員の出退勤は自由だから把握の必要がない』と、労働時間をきちんと管理しないケースが多い。しかも、後で社員から未払いの残業代を請されたとき、拠も残らないで済みます。タイムカードなしでは労働時間の明が難しく、労基署に被害を相談しても取り合ってもらえません」

裁量労働制の現場から挙がる悲鳴をよそに、安倍政権はその範囲を課題解決の提案営業(法人向けの営業)などにも拡大する構えだが、働き方革とは、いったいのためのものなのだろうか…?

◆『週刊プレイボーイ』11号2月26日発売)「『働き方革』のグロテスクな正体」では、労働基準法正をゴリ押しする安倍政権のもくろみと、裁量労働制が“なじむ会社”“なじまない会社”について詳報! そちらも是非お読みください。

悪用するブラック企業が横行――安倍首相も知らない…裁量労働制“阿鼻叫喚”の現場