(c)2016 Small Shack Productions Inc./ Painted House Films Inc./ Parallel Films (Maudie) Ltd.

先日行われた第90アカデミー賞授賞式で、作品・監督賞を始め多くの賞にいた話題作『シェイプ・オブウォーター』。その女優であるサリー・ホーキンスが2016年演した作品『しあわせの絵の具/を描く人モードルイス』が、偶然にも『シェイプ・オブウォーター』と全く同時期に開されたので、日曜日の午後の回で鑑賞して来た。

映画『パディントン」』シリーズでの明るいお母さん役とは全く違う本作の役柄は、後の『シェイプ・オブウォーター』にも通じるだけに、劇場は女性の観客で満席状態。ポスターの印からは若干地味な内容を予想した本作だが、果たしてその内容と出来はどうだったのか?

ストーリー

カナダ東部のノバスシア州。小さな町で叔母と暮らすモード(サリー・ホーキンス)は、ある日、商店に政婦募集の広告を貼り出した男に興味を持つ。男は町はずれで暮らし、の行商を営むエベレット(イーサン・ホーク)。モードは束縛の厳しい叔母から逃れるため、彼が1人で暮らすドアノックし住み込みの政婦となる。

子供の頃から重いウマチを患い、家族からも厄介者扱いされてきたモード。孤児院で育ち、学もなく、生きるのに精一杯だったエベレット。そんなはみ出し者同士の同居生活はトラブル続きで、2人を揶揄する噂が広まる。

そんな時、エベレットの顧客でニューヨークから避暑に来ているサンドラは、モードに描いたニワトリの絵を見て一で才見抜き、絵の創作を依頼する。そんな中、徐々に互いを認め合い、距離を縮めていったモードとエベレット結婚。一方モードの絵は雑誌やテレビで取り上げられ評判となり、二人が住む小さなには観光客が押し寄せるようになるのだが・・・。

予告編

本作こそ今年のベスト1!
男一人で観ても感動の涙が止まらない!

実は前日に『シェイプ・オブウォーター』を鑑賞し、予告編とはかなり違うその内容に若干モヤモヤした気持ちのまま鑑賞に臨んだ本作。そのポスタータイトルから、きっと静かで地味な人間ドラマと予想していたのだが、実はこれが前日のモヤモヤを吹き飛ばしてくれる、素晴らしい作品だった!

映画の舞台となるカナダ美しい風景や、主人公モードが置かれた過酷な状況。そして偶然の出会いから彼女の心の拠り所である絵が認められて、成功を手にするまでのドラマなど、その上映時間全てが文字通り観客に至福の時を与えてくれる素らしさ!

実際、こうして男が一人で鑑賞しても全編泣けて感動できる程なのだが、中でも本作で一番涙腺を刺されたのは、この夫婦が最後まで幸福な人生を送っていたという事実と、夫であるエベレットモードに対する情と思いやりが、言葉ではくちょっとした行動でさり気なく表現されている点だった。しかもモードの方もちゃんとその気持ちに気付いているという、この夫婦の繊細な心の動きを見事に描いている点は、やはり女性監督ならではの視点だと言えるだろう。

もちろん、本作は安易なラブストーリーではなく、お互いに必要に迫られての同居から始まる二人の関係が、甘い恋愛関係とはほど遠い戦いの日々だったこともちゃんと描かれている。それだからこそ、お互いを必要な存在と認めてからの二人の幸福な日々が観客の心を打つのだ。実はシーンによっては観客から笑いが起こる描写が登場するなど、一見厳しく貧しい生活の中にも喜びや笑顔が溢れていたことが同時に描かれている点も実に見事な本作!

本当の豊かさや幸せとは何か?電気ガステレビい、わずか4メートル四方の小さなでの暮らしが、これほどいて見えるのは何故か?そう、全てはこの二人の心の豊かさとお互いへの想いにあると教えてくれる本作こそ、間違いなく今年一番の感動作なのだ!

スターや邦題から地味な作品だと合点しないで、女も今すぐ劇場へ!

(c)2016 Small Shack Productions Inc./ Painted House Films Inc./ Parallel Films (Maudie) Ltd.

二人の出逢いと同居から結婚への過程は、正に「逃げ恥」!

複数の仕事を掛け持ちし、自身が育った孤児院の手伝いまでしているエベレット仕事は多いが決して豊かではない彼の生活は、事まで手が回らないほど忙しい状況だった。そんな中、思い切って政婦募集のの雑貨屋の掲示板り出したところ、一応募してきたのが後のさんとなるモードだった。

子供の頃からリュウマチを発症し歩行に障を持ちながら、タバコを吸い絵を描きクラブダンスに出かけるなど、実は非常に行動的で自由な生活をする女性であるモードに預けられた叔母厄介者扱いされていた彼女は、肩身が狭い叔母での暮らしから出て自由に生活するために、エベレットの住み込み政婦のを選択したのだった。

こうしてモード自由な生活と生活費のため、エベレット仕事で手が回らない事を代行してもらうために、二人は雇用と従業員という関係のまま同居することになる。ところが電気ガステレビく、あまりに狭いそので、二人はは一緒のベッドで寝ることに!

最初はお互いのを巡って衝突を繰り返した二人だが、生活を共にする中で次第にその距離を縮めて行き、やがてお互いを認め合い惹かれる様になって行く。と、ここまで観ていて気が付いたのが、「あ、これって「逃げるは恥だが役に立つ」の設定そのままじゃないか!」ということだった。そう、実は本作の基本設定はあの大ヒットドラマその物なのだ!

この様に、実は若い観客層にも楽しめる内容の本作には、実際の恋愛夫婦関係に大いに役立つ描写が多く含まれている。

その中でも特に注したいのが、モード映画の中で見せる見事な男性操縦法だ。いわば雇用であり、では勝てないエベレットに対して、相手の言う事に従うように見せて実は自身の要を絶対に曲げず、徐々に自分の意見を通していくモード。正面からは決してぶつからず、結果的に気が付いたらモードの思い通りになっているというその見事な操縦法は、是非とも劇場でご確認を!

(c)2016 Small Shack Productions Inc./ Painted House Films Inc./ Parallel Films (Maudie) Ltd.

実はエベレットの成長物語でもある本作。
理想の夫像がここにある!

表面上は無口で乱暴な女性差別義者の様に見えるエベレット。だが、その内面には深い思いやりと優しさを秘めていることが、次第に観客にも分かってくる。

政婦の面接に来たモードを帰りに途中まで送るなど、実は出会いの段階からエベレットは意外に繊細な一面を見せる。だが、これはモードが時々子供に石を投げられると言ったのを聞いたからであり、情というよりも、むしろ同じ様な差別を受けてきた仲間意識の方に近かったのではないか。

子供の頃、自分に情を与えてくれる相手がいなかったため、モードに対する情や優しさの示し方が良く分からないエベレット。そのためか、映画の序盤で二人はしい口論や衝突を繰り返すことになる。実際、お互いに愛しているとは決して口にしない二人だが、その内面に隠された彼の優しさをモードがちゃんと見抜いているのが実に泣ける!

映画の中で非常に印に残るのが、結婚式特別に二人がダンスをするというシーンだ。実はこのダンスシーンにも、足の不自由モードを気遣うエベレットの思いやりが溢れているのだが、ここでお互いを靴下に例えて表現し合う描写は、ついに二人が愛し合う夫婦になったことを徴する名シーンとなっている。

そう、本作はモードが成功と幸福をつかむまでの物語であると同時に、実は夫であるエベレットモードとの出会いによって、人の愛し方や自身の素直な感情表現を学んで行く物語でもあるのだ。

映画ラストモードが大事に保管していた二人の出いのきっかけの品物を見つけたエベレットが、「ここで絵を売ってます」と書かれた看を黙っての中に仕舞う、印的なシーンがある。エベレットにとってモードが書いた絵こそは彼女の存在その物であり、その絵を一番評価し愛していたのがエベレットだったことを見事に表現するこのシーン、必見です!

(c)2016 Small Shack Productions Inc./ Painted House Films Inc./ Parallel Films (Maudie) Ltd.

最後に

都内で5館の小規模開である本作を今回鑑賞したのは、日曜新宿ピカデリー午後の回。鑑賞後、劇場ロビーのTVモニターで流れていた本作のメイキング映像を留めた自分は、暫くその場所から動くことが出来なかった。もちろん、この素晴らしい映画メイキング自体を見たかったこともあるが、理由はもう一つ、鑑賞後の女性観客が冗談抜きでモニターの前に大勢集まっていたからだ。

何故、これほど多くの女性モニターの前から動かなかったのか?自分にはその理由が何となく理解出来た気がした。

そう、自分も含めて、皆この場を離れ難かったのだ。それは鑑賞後のこの感動と素らしさを、かと共有したかったからに違いない。その想いはきっと多くの口コミとなって、本作をヒットに導くことだろう。先週紹介した『ビッグ・シック』もそうだったが、もはや観客の生のこそが一番有効な映画宣伝の手段という時代に来ているのではないか?そんな想いで劇場を後にした本作。

実は、エンドクレジット実在の二人のモノクロ映像が流れるのだが、映画の中のエベレットの静かで厳しい表情とは違い、実際の彼はにこやかに笑っていて、実に優しそうな表情をしているのが印的だった。

他人と違う外見やハンディキャップで、行く子供に石を投げられることさえあったモードを、人世の伴侶として選び最後まで幸福に過ごしたエベレット。彼の外見や乱暴な態度で判断せず、その内面を評価したモードの存在が、エベレットをより良き人間へと変化させていったことがわかるこの映像こそ、正に観客への最後のサプライズと言えるだろう。

鑑賞後、確実に自分の中に他人への思いやりの気持ちが芽生える本作こそ、まさにもう一つの『シェイプ・オブウォーター』!
日頃ストレスを抱えている女にこそ、全でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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