夫婦が離婚する際、不動産や預貯金などの財産分与を巡って争うことは珍しくないが、中国のあるゲーム好きの夫婦は、オンラインゲームの ID(アカウント)を巡り、揉めるハメになったという。

中国メディア北青網などによると、この夫婦の離婚裁判は先日、広東省の興寧市人民法院で結審を迎えた。Aさんは昔から大のネットゲーム好き。夫が単身赴任で働いていた事情もあり、結婚後もネットゲームに興じる生活を送ってきた。

そんな彼女の生活に変化が訪れたのは2005年のことだ。いつも通りネットゲームを楽しんでいた彼女は、ある男性プレイヤーに出逢う。2人はチームを組み、ゲームを進めていくうちに恋愛感情が芽生え、いつしかゲームの中だけという約束で“夫婦”にもなった。こうなってくると、実際に会うのはもはや時間の問題。同年9月、ついに2人はゲームの中だけでなく、現実世界でも密会し、男女の関係を持つに至った。

その後もAさんは夫に見つからないように男性との逢瀬を重ねたが、2006年、ついに不倫が夫にバレてしまう。そして同年内に離婚。彼女は元夫の家族や親戚の目を気にして住んでいた土地を離れ、広州市で一人、新たな生活を始めることにした。

その後もAさんと男性との逢瀬は続き、2010年11月には妊娠が発覚。2人は“ネトゲ婚”する運びとなった。

これでAさんに幸せが訪れれば良かったのだが、事はそう上手くは運ばない。彼女に離婚歴があること、夫が6歳も年下だったこと、そしてネットゲームで知り合ったという馴れ初めなどが、親戚や周囲の人々から冷たい視線となって突き刺さった。また、もともとゲーマーの夫は彼女が妊娠しているにも関わらず、家庭を顧みずにゲームに明け暮れる毎日。しばらくすると、2人の間には亀裂が入り始め、些細なことでも衝突するようになってしまった。

そして、彼女の流産をきっかけに、2人の関係は修復不能に。2011年3月、9月と2度流産したAさんは、慰められるどころか、夫や姑からいじめられる始末。10月23日、再び衝突したことで家出を決心し、夫と姑の不在を見計らい、家の家電などをこっそり持ち出す行動に出る。すると、夫と姑はそれに反撃するかのように、Aさんの衣類などを外に投げ出し、家の鍵を変えて二度と帰って来られないようにした。

こうなれば離婚は秒読み段階。最初に動いたのは夫のほうだ。10月31日、夫は興寧市人民法院に離婚訴訟を起こした。しかし、中国の婚姻法では「妻が妊娠中、分娩後1年以内あるいは妊娠中絶後6か月以内は、夫が離婚を申し立てることはできない」と定められているため、その時点では訴状は受理されず。いったんその場は引き返し、今年5月16日、再び離婚訴訟を起こすことになった。

夫から離婚を申し立てられたAさんはあっさりと受け入れるが、ある1点に関しては納得がいかなかった。それが2人で利用していた7つのオンラインゲームのアカウント。夫は「これらアカウントは結婚前に作成したもので、共有財産には当てはまらない」と反論するも、Aさんは一歩も引かず。アカウントの価値は少なく見積もっても15,000元(約18万5,000円)程度はあるとし、公平に分与するよう主張した。

これには司法官も困惑。明確な法律依拠がなく、ゲームアカウントはその価値を判断することが難しい財産であるためだ。それでも司法官は地道に2人を説得。今回の離婚はともに非があることを認めさせ、離婚協議書にサインをさせることに成功した。そこには2人が自らの意思で離婚したこと、パソコンとゲームアカウント、家具は夫が得る代わりに、Aさんに12,000元(約15万円)を支払う旨が記されたという。