文・取材:ブラボー!秋山

日本でも暗躍する“漢化組”とは?


 2018年1月31日、全国9府県警(神奈川、静岡、石川、岐阜、滋賀、三重、京都、島根、山口)による共同捜査により、三重県警は週刊ファミ通の掲載記事を無断で中国語に翻訳、公開した罪で中国籍の会社員を逮捕した。同様に、日本の雑誌やマンガなどを無断で中国語に翻訳し、インターネット上に公開したとして、全国9府県警の合同捜査により、被疑者を一斉摘発。以前からこうした事件の背後には、中国のグループ“漢化組”の存在が指摘されていたが、ファミ通.comでは今回の事件を受け、捜査を中心となって進めた京都府警 警察本部生活安全部 サイバー犯罪対策課 次席 山下英一氏に話を聞いてきた。

 今回の捜査の根底には、いわゆる“クールジャパン”戦略の取り組みが挙げられる。平成25年の調査ではあるが、中国における著作権侵害の実態として、マンガアニメゲーム等のオンライン上の侵害は年間530億件もの事案があり、有償ダウンロード換算で3兆8000億円もの損失……!

 その多くに関わっているとみられる“漢化組”という組織について説明しよう。漢化組は、そもそも有志で構成された流動的な組織とされ、正規にローカライズされていないマンガアニメゲームといった日本のコンテンツ中国語にローカライズすることを目的に結成。中国国内において運営されているリーチサイト(違法にコピーしたマンガや雑誌の海賊版を公開するインターネットサイトリンクを張り、利用者を誘導するといった仕組みのサイト)では、日本国内で発売されたマンガアニメゲーム等の多くが無断で中国語にローカライズされて公開されており、その大多数に漢化組構成員が関与しているという。実態は把握できていないが、その構成員は100万人規模と言われ、そのほとんどが無償のボランティアとして携わっているらしい。中国では、ある意味“英雄視”され、過去の同種事件検挙時には、複数の関連サイトが閉鎖に追い込まれたことから、中国国内で逮捕に対する抗議デモが起こったほど(もちろん、違反行為を非難する良識派の中国人も多い)。そのため、検挙による効果は絶大で、さらに国を挙げた知的財産権保護の取り組みをアピールすることで、国内外への抑止効果も期待できる。そうした抑止効果を高めるために、複数警察の共同捜査による一斉集中取り締まりを実施し、国を挙げた取り組みをアピールすることが得策と認められ、参画を要請した結果、9府県警察(神奈川、静岡、石川、岐阜、三重、滋賀、京都、島根、山口)による一斉集中取り締まりが実施され、被疑者10名を検挙した。

 また山下氏によると、「そもそも“漢化組”はインターネットを介してのつながりなので、お互いの顔も知らず、面識がないことが多い」という。日本語中国語に翻訳できるだけの高い知的水準があり、また経済的にも恵まれている富裕層が中心だ。


【画像6点】「ファミ通も標的となった中国“漢化組”による著作権法侵害事件……その実態を京都府警サイバー犯罪対策課に聞く」をファミ通.comで読む(※画像などが全てある完全版です)

 “漢化組”が関与している一例として、“どん(云+力)漫之家”というマンガアニメ総合サイトが挙げられた。中国最古・最大を自称するこのサイトは、規約には、オリジナル作品のアップロード以外を認めない旨の記述があるものの、現実には守られておらず、マンガは全公開21676本中、日本マンガ15639本(72%)、アニメは全公開の10356本中、日本アニメが4673本(45%)を占めている。こうしたリーチサイトが中国には多数あり、クールジャパンを標榜する日本は看過できないレベル。さらに、中国国内にあるリーチサイトになるので、通常のサイバー操作ではたどり着けない。しかし、今回は特殊な方法(捜査手法のため秘密)を用いたことで、約2ヵ月で被疑者25人(日本在住)を特定した。日本在住というのは、中国在住では日本の法が及ばないためだ。


 しかし、「日本は知的財産権について、まだまだ発展途上なのかもしれない」と山下氏が言うように、ここからさらなるハードルが待っていた。著作権法違反親告罪であるため、権利元が告訴しないとほとんど事件化されないのだが、今回特定した25件の権利元に連絡し、告訴してほしいとの依頼をした結果、9件が応じ、それぞれを9府県警が分担で担当した。言い換えれば、16件は告訴を見送ったということになるわけだ。その理由は、「これまで訴訟経験がない」、「イメージが悪くなる」などなど。やっと被疑者を特定しても、権利者が告訴しないケースも多く、まさに「心が折れる」(山下氏)と表現した。ちなみに、アニメなどで見られる、著作権者がまとまった“製作委員会”の場合は、原作者・社などに製作委員会内での調整を頼んだり、不正商品対策協議会(ACA)や日本音楽著作権協会JASRAC)といった著作権団体に仲介してもらうことも。

 今回週刊ファミ通が告訴した案件は以下のようになる。
(1)平成28年発刊の週刊ファミ通に掲載された『ファイナルファンタジーXV』の記事を、著作権者(Gzブレイン)に無断で中国語に翻訳した
(2)平成29年発刊の週刊ファミ通に掲載された『ファイナルファンタジーXV』の中国語の翻訳記事を、著作権者(Gzブレイン)に無断でインターネット上に公開した
 逮捕された男性は“漢化組”のメンバーとされ、容疑を認めた。その後、津区検は2018年2月19日著作権法違反の罪で男性を略式起訴し、津簡易裁判所は同日、罰金百万円の略式命令を下した。男性は即日納付したという。
 男性はリーチサイトに記事の翻訳文を無断公開していたほか、自身の中国版ツイッター“微博(ウェイボー)”では、翻訳文プラス画像も公開していた(現在は削除されている)。


 先述した通り、日本で活動している“漢化組”のメンバーは、高学歴かつ富裕層で、さらに日本のコンテンツが大好きなのだという。彼らには法を犯しているという認識はあるそうなのだが、それよりも自分の好きなコンテンツを中国に紹介したいという“熱意”(?)が勝った結果なのだ。また、著作権法に違反している意識がありながらも、自身やメンバーの名前をクレジットとして入れるのは、“自己顕示欲”の表れだろう。

 一連の事件は、中国でも報道され、中国大使館のホームページには以下のような警告文が掲載された。山下氏は、「国からの注意喚起だけに、相当の抑止力がある」と語り、これを機にリーチサイトに関する考えかたにパラダイムシフトが起こる可能性すらあると受け止めているそうだ。警告文の日本語訳は以下の通り。
「原作者や版権所有者の許可なく、無断で作品を翻訳、公開、発信することは、たとえ営利目的ではなくとも、日本の著作権法に違反する行為である。中国人ネットワークなどのルートを利用して、海賊版の電子書籍・AV製品・ゲームソフト・画像資源などをダウンロードあるいはアップロードすることは、すべて違反行為である。日本在住の中国人は日本の関連法を遵守し、法的トラブルに巻き込まれることのないよう、くれぐれも注意すること」
 もちろん今回の逮捕は氷山の一角だが、日本に留学などで来日し、漢化組の活動に参加しているような人にはかなりの抑止力になるだろう。中国において、日本のゲームアニメマンガ等に対する需要は高いので、こういった事件を機に、正規のルートで日本のコンテンツを楽しんでもらえるようになれば理想的だ。


 ご存知の方もいるかもしれないが、京都府サイバー犯罪対策課は、2015年以降、マンガ著作権侵害で“mangapanda”を、アニメ著作権侵害で通称“字幕組”を、そして今回ゲーム関連で“漢化組”に関連するメンバーを逮捕した。いわゆるクールジャパンの柱となる、マンガアニメゲームそれぞれについて、根底には国策としての「クールジャパンコンテンツを保護したい」という思いがある。そういった意味でも、山下氏は「中国大使館がコメントを出したのは、大きな一歩だと考えている」と語ってくれた。