高橋優 LIVE TOUR 2017-2018「ROAD MOVIE」
2018.3.30(FRI)パシフィコ横浜

昨年(2017年)11月リリースのシングル「ルポルタージュ」のインタビューの際、高橋優は、「今、再び一から歩き出そうという時期」と話してくれた。路上ライブを行なっていた頃とは知名度もライブのキャパシティも異なるものの、今、皮膚感覚で捉えた疑念や閉塞感を目の前の人にできるだけ大きな声で歌うというスタンスを貫いたのが今回の自己最長ツアーだったのではないだろうか。

高橋優 2018.3.30 パシフィコ横浜 撮影=新保勇樹

高橋優 2018.3.30 パシフィコ横浜 撮影=新保勇樹

日本を縦断し、残すところ特別編の沖縄のみとなった実質ファイナルである37本目。パシフィコ横浜2daysは3階席までびっしり埋め尽くされている。ツアータイトルの『ROAD MOVIE』のMOVIEにちなんで『STAR WARS』や『ロッキー』のテーマが開場BGMで静かに流れているのが面白い。定刻を少し過ぎ場内が暗転するとステージ上にはグレイハウンドバスにも似たバスのセットが現れ、ビジョンにはこれまで巡ってきた全国各地の地名と名所が映し出され、地名が横浜になると大歓声。アニメーションで描かれていたメンバーが次々にバスから降りてきて、最後に高橋優が降車口に登場すると会場全体から名前を呼ぶ声が。ストイックな演出のライブも想像したのだが、冒頭から誰でも楽しめる演出に驚いた。が、一転、オープナーはハードな「終焉のディープキス」、ヘヴィな内容の「象」、シリアスな現実と向き合わざるを得ない「現実という名の怪物と戦う者たち」を立て続けに披露した。このツアーの推進力になる生きるための前向きな格闘、その表明として清々しいほど激烈な序盤だった。加えて、鍵盤やバイオリンもメンバーにいつつ、基本的にシンプルなロックバンド・スタイルであり、その中で高橋の歌とアコースティックギターのカッティングが明確に前に出る音響も意識的なものに感じた。ポップスのバックバンドでもない、高橋優バンドが発見したバランスというべきものだ。

高橋優 2018.3.30 パシフィコ横浜 撮影=新保勇樹

高橋優 2018.3.30 パシフィコ横浜 撮影=新保勇樹

アルバム『来し方行く末』以降のシングル表題やカップリングとおなじみのライブ定番曲を織り交ぜながら進行する中で、ユーモアと高橋のメロディとラップの境界線がない歌唱が冴える「白米の味」は曲のストーリー性もあいまって、グイグイ引き込まれた。白米=本命もしくは運命の人こそ愛したい、つまみ食いなんて美味しくないという歌詞だが、そこは食べ物ネタの曲。ご当地のシウマイアドリブでぶち込んでくることも忘れない。シリアスとユーモアの間を行き来し、ファンもその面白さと高橋ならではのアンビバレントな表現を楽しんでいる。また、バイオリン一挺ではあるものの、ブルージィなアメリカンロック・テイストの「羅針盤」にさらなるスケールを与える弦楽器のロングトーンも効果的だった。

中盤のMCでは仲の良いバンドメンバーと一緒に行った温泉、映画。熊本での馬刺しに感動した高橋のために熊本以外の場所でもメンバーが馬刺しを注文するようになったことなどが、事実をそのまま話しているはずなのに笑える。それもそうで、売れっ子ライブバンドでも約4ヶ月37本のツアーはなかなか経験できないものだからだ。

改めて一からライブを再確認する、歌うことを見直すという意味では、「BLUE」の弾き語りと、エレピの伴奏のみで直立して歌った「シーユーアゲイン」。歌がダイレクトに伝わるこの2曲では、むしろメッセージより力のある歌い手としてここまでたどり着いたことを実感した。

高橋優 2018.3.30 パシフィコ横浜 撮影=新保勇樹

高橋優 2018.3.30 パシフィコ横浜 撮影=新保勇樹

終盤は映像による演出が印象的な場面が続く。バンドメンバーをアニメーションにしたことで、よりこのツアーバンドのメンバー一人一人のキャラクターにフォーカスできた「ロードムービー」や、現状の最新曲「ルポルタージュ」では歌詞が全文ではなくインパクトの強い言葉が、スマホやPCに文字を入力するような感覚で映し出され、ダイレクトなコミュニケーションができなくなっている現状を擬似的に表現しているようでもあった。ライブでの歌詞の投影は、何をどこまでやるのかによって、リアルタイムで曲が持つ破壊力や気づきに貢献もするし、想像力を削がない範囲でそれをやることに、この曲の演出はかなり意識的だったと思う。

高橋優 2018.3.30 パシフィコ横浜 撮影=新保勇樹

高橋優 2018.3.30 パシフィコ横浜 撮影=新保勇樹

バンドサウンドのアンサンブルの脂が乗りに乗った「Mr.Complex Man」、サビをファンに歌わせて、その声の大きさに会場全体のテンションが上がる「明日はきっといい日になる」。そこから短くソロ回しを経て、背景には高橋優バージョンのなまはげの巨大お面が登場。本人はハンドマイクでステージを歩き回りながら、「泣ぐ子はいねが」を歌う。歌うというか、ロックンロールバンドのコール&レスポンス・タイムをこの曲が一手に担う感じだ。横浜を中心に神奈川の町の名前に始まり、肉まんシウマイがお題になるあたりはシュールエロい内容のコール&レスポンスに加熱。「今日、最高のライブしてるんじゃないですか!」と言いながら、ちょっとエロかった部分を指しているのか「さっきのくだりカットしてもらっていいですか?」というMCがオチになっていた。

高橋優 2018.3.30 パシフィコ横浜 撮影=新保勇樹

高橋優 2018.3.30 パシフィコ横浜 撮影=新保勇樹

本編ラストを前に彼は「ステージに立っていると明日からの日々があることを忘れてるんですけど、本当に僕なんかの歌を聴きにきてくれてありがとうございます。スタッフとかイベンターさんとか、1リスナーとして見てくれていて、その反応があってここまで進んでこれる。ライブなんて当たり前のように捉えられるかもしれないけど、ここで歌わせてくれているのは奇跡だと思います」と、長いツアーを完走して今回気づいたことを言葉にしてくれた。ただ、奇跡というのは裏付けや想いがなければ起こらない。そのことを刻みつけるようにラストは「虹」が披露された。

改めて高橋優という、個人の思いや疑念や憤りやあたたかな気持ちを発端に、ポピュラーソングに昇華するシンガーソングライターとしての個性が明確になったこのツアー。アンコールでは再び痛烈に欺瞞を暴くかのように「パイオニア」「こどものうた」を立て続けに披露。ライブが一回転したような感覚になったところで、恒例となった地元・秋田での主催イベント『秋田CARAVAN MUSIC FES 2018』の開催を発表し、場内は歓声に溢れた。そしてこの日のラストは、まるで今年度の終了と来るべき来週、働くすべての人に問いかけと活力を同時に送るように「リーマンズロック」がタフに鳴らされたのだった。

取材・文=石角友香
撮影=新保勇樹

高橋優 2018.3.30 パシフィコ横浜 撮影=新保勇樹

高橋優 2018.3.30 パシフィコ横浜 撮影=新保勇樹

 

高橋優 2018.3.30 パシフィコ横浜 撮影=新保勇樹